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令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説

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令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3B解説

(6)動き動詞

 動詞は「動」をあるから動きを表すものと思われがちですが、動き以外のものも表す動詞はあります。代表的なものとして「ある」が挙げられます。例えば「机の上にりんごがある」においては何か動きが感じられることはないと思います。存在することを表す「ある」は動きは表さず、存在という一種の状態を表す動詞と言われます。

 動きを表さない動詞は動きの局面も存在しませんから、アスペクト表現をつけることはできません。例えば動きの完了の局面を表す「~終わった」などがつけられるかどうかで検証してみましょう。

 1 ✕含み終わった → 「含む」は動きを表さない動詞(状態動詞)
 2 ✕あり終わった → 「ある」は動きを表さない動詞(状態動詞)
 3 ✕読め終わった → 「読める」は動きを表さない動詞(状態動詞)
 4 〇褒め終わった → 「褒める」は動きを表す動詞

 「褒め終わった」だけ大丈夫でした。アスペクト表現「~終わる」がつけられるということは「褒める」は動作局面があるということ。動作局面があるということは動きを表すということ。
 よって答えは4です。

 上記のように「読める」はアスペクト表現がつけられないので動きを表さないわけですが、「読める」も動きっぽいと思う人もいるかもしれません。しかし、可能を表す動詞は”能力の所有という一種の性質・状態を表す”ので状態動詞に分類されます。ご注意ください。

(7)動作名詞(動名詞)

 勉強、流行、確認、ドライブのような、それ自体では名詞なのに「する」をつけられるものが動作名詞です。

 1 ✕火事する
 2 ✕大会する
 3 ✕感覚する
 4 〇意味する

 「意味」だけ「する」がつけられる動作名詞です。
 だから答えは4です。

 この問題まず4を選択したんですが、見直ししたときに「意味する」があまりにも動作っぽくなく、なんとなーく騙されている気がして「火事」を選びなおしてしまいました… 動作っぽくないのに動作名詞な「意味する」を選ぶあたり、作問者さすがです。

(8)形容詞

 ここで「形容詞」と出てきていますが、これはイ形容詞とナ形容詞を含む言い方です。

選択肢1

 「とても」「すごく」「大変」のような程度を表す副詞は程度副詞と言います。
 程度副詞は主に形容詞などの状態性の語を修飾するという性質があるため、「とてもきれい」「とても美しい」みたいに言うことができます。
 これが答え。

選択肢2

 動作動詞が表す動きの局面をアスペクトと言います。
 例えば「食べるところだ」「食べたばかりだ」「食べている」「食べ終わった」などの言い方がありますが、それぞれ動作直前、動作開始直後、動作進行中、動作完了という具合に、動詞の後ろにいろんな言葉を付け足すとその動作の局面を指定することができます。このとき「~ところだ」「~たばかりだ」「~ている」「~終わる」をアスペクト表現と言います。

 とても重要なことですが、アスペクト(動作局面)は動きの中にしか現れません。「食べる」「帰る」のような動作を表す動詞であれば「食べている」「帰っている」のように局面が存在しますが、「ある」「そびえる」「カッコいい」などの事物の存在、性質、状態を表す状態性の述語には取り上げる動きの局面が存在しないので、同時にアスペクトも存在しません。

 形容詞は状態を表す語で動作を表すわけではありませんのでアスペクトも存在しません。この選択肢は間違っています。

選択肢3

 「カッコいいけど性格が残念だった」「きれいだけど性格が残念だった」のように、イ形容詞もナ形容詞も接続助詞「けど」に接続することができます。

選択肢4

 「カッコいいだろう」「きれいだろう」のように、モダリティ表現「だろう」にも接続できます。

 したがって答えは1です。

(9)品詞

 (1) 幸せな生活  (ナ形容詞「幸せ」の連体形)
 (2) 私は幸せだ。 (ナ形容詞語幹)
 (3) 幸せに暮らす。(ナ形容詞「幸せ」の連用形)
 (5) 幸せの青い鳥 (名詞)

 「幸せ」は「な」を伴って名詞に接続できるのでナ形容詞です。ただし、「幸せの青い鳥」のように「の」が介在するときは名詞として働いています。
 このように「幸せ」は名詞とナ形容詞にまたがる語です。
 したがって答えは3です。

(10)活用の揺れ

 私の昔話なんですけど、大学を卒業して福島に就職したら、そのときの同期が「違かった」「違くて」を普通に使っていてびっくりしたことがあります。当時は日本語教師も志していなかったので「そういう言い方もあるんだ、方言かな?」くらいに感じていたんですが、実はこれ日本語の揺れと呼ばれるものでした。

 2つの間に性質上の食い違いがあること、あるいは正常ではない状態を指して動詞「違う」を使いますが、食い違いがあることも正常ではないことも状態です。「違う」は動詞でありながら状態を表す語というのがポイント。
 「違う」の連用形「違い」は「違いは何ですか?」のように名詞として機能します。でも語尾が「い」で終わっているので、本来名詞である「違い」をイ形容詞とみなし、活用してみるという変化が生まれました。

 (1) 美し → 美しかった
     美し → 美しくて
 (2) 違  → 違かった
     違  → 違くて

 こうして「違かった」「違くて」が生まれたと考えられています。
 で、問題に戻りますと…

 典型的な動詞は通常動作、変化などを表すんですが、「違う」は動作ではなく状態を表すちょっと変わった動詞です。動作を表さないのでイ形容詞とみなされやすく、「違かった」「違くて」のような活用の揺れが生じています。(ちなみに「違う」は英語では形容詞)

 したがって答えは1です。




コメント

コメント一覧 (10件)

  • 問題(6)、選択肢1と2はすぐ消せましたが、「読む」の方が「褒める」よりも典型的な「動き」動詞だと思い、選択肢3を選んでしまいましたが、「読む」ではなく「読める」でしたね(涙)・・・可能形だということに試験中全く気がつけませんでした…

  • 問題(9)について、「幸せ」は副詞としても使われるという点について知りませんでしたが、高橋先生が仰る通りだと思います。私は、「幸せの定義」→名詞、と「幸せな生活」→ナ形容詞の2品詞だけを頭の中で思い浮かべて、選択肢2を選びました。

    「幸福」「平和」「特別」のような語は、名詞としてもナ形容詞としても使われると習ったのですが、高橋先生が例として挙げられた「幸せに暮らす」のように、これらの語も副詞として使うことができますね。

  • 先生こんにちは。
    まずは、御礼申し上げます。
    私はこの5月から日本語教育の勉強を始めたばかりで、検定への準備時間の少なさに焦っておりました。
    しかし、高橋先生とこちらのサイトのおかげで自信を持って今回の試験に臨むことができました。
    ありがとうございました!

    問題(7)についてです。
    動作名詞の定義が調べてもどうもあやふやで(そもそも動作名詞、初耳でした)自信はないのですが、私は選択肢3を選びました。

    選択肢1と2は”する”がつかないので置いといて、

    「感覚する」と「意味する」のアスペクトを考えたとき、「意味する」は状態性を帯びてはいるものの、動きを表していないと考えました。

    「感覚する」であればどうでしょう。

    ”そのほとりで都市生活をしている人間は、流動をいつも感覚していられる”
    中沢新一(著)/養老孟司(著)「脳が語る科学」青土社1999年 より引用

    ”殺気というより瘴気ともいうべきものを平兵衛は感覚した。”
    山田風太郎(著)「魔界転生」講談社 1999年より引用

    「感覚する」は継続性、瞬間性を持っていると思います。
    どうでしょうか。

    • 三郎さん、

      私は試験数日前に、同じような問題を解いて、見事に間違えたお陰で、本番は正解を選ぶことができました。

      最後の1週間に解いた友人に譲ってもらった昔の対策本にあった問題だったような気がしてさっきから見返していたのですが、見つからず。もしやと思ったら、ア〇クのウェブサイトに無料で公開されている「日本語教育能力検定試験 スピードチェック問題100」に同じような問題が出ていて、それを試験数日前に解いておりました。

      私も動作名詞という言葉知らなかったので、印象に残っていました。

      「動名詞とも呼ばれる。「~する」を付けて動詞として用いられる。」という解説になっていました。

    • 三郎さん、再び横から失礼いたしますm(_ _)m

      問7は問6と同じで、出題者の方はとてもとてもいじわるで、あえて「する」をつけても、「動作」っぽくない「意味」→「意味する」をもってきたのだと思います。

      「勉強」→「勉強する」、「旅行」→「旅行する」のように、単純に「名詞」+「する」の形が、一般的な日本語において動詞として使えるもの、「スル動詞」になるものが、この「動作名詞」にあたると思います。「意味する」は動作っぽくないと思わせて、「火事」を選ばせようとする作戦だったと思います。

      自信がありませんが、三郎さんが挙げられた「感覚する」の2つの例文は、完全に誤った日本語とは言えないものの、とても高尚で哲学的・詩的な文で、一般的な日本語ではないように思います。もし「感覚」を動詞として使うなら、「感覚がある」「(~という)感覚を持つ」「(~という)感覚に陥る」「感覚がする」などになるのではないかと思いました。

      • 度々すみません。「動詞」としてというのは正しくなかったですね。失礼いたしましたm(_ _)m 述部に持ってこようとすると、のような言い方の方がいいでしょうか(→これも△ですね。涙。)

        • タルロさん
          確かに「感覚する」は口語では使わないですね。
          しかし文語では使用されています。

          一応辞典も調べてみました。

          国語大辞典では「〜する」の用法がありました。

          ”かん‐かく【感覚】”
          ”② (━する) 物事の実体を鋭敏に感じとる精神のはたらき。また、実感として感じ知ること。深く感じ入ること。”
          「精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典」より引用

          大辞泉には「〜する」の用法はありませんでした。

          もし動作名詞の定義が「『~する』を付けて動詞として用いられる」だけならば「感覚する」も動作名詞ですね。
          すると、この問題文では答えが二つになってしまいます。
          つまり動作名詞を定義する何かが他にあるはずなんですが、、、。

          https://nihongokyoiku-shiken.com/hoshi-dousasei-meishi/
          ↑のページに「『~がほしい』に『動作性名詞』は来ない」とありました。

          「感覚がほしい」
          「意味がほしい」

          、、、どちらも使えそうな、使えなさそうな。

          同じページから、
          「動作性名詞を使用する場合は、『~ほしい』ではなく、『~したい』にします。」とも。

          「感覚したい」
          「意味したい」

          、、決定打にかけますね。
          正答がどちらにせよ、公式の解答根拠が知りたいところです。
          長々と失礼しました。

          • 今気づいたんですが
            選択肢2、「大会」の読み、まさか「大会(だいえ)」ですかね、、、

            もし「だいえ」なら大規模な法事の意味ですから
            「大会(だいえ)する」○
            「大会(だいえ)がほしい」×
            「大会(だいえ)したい」○

            今判明している動作名詞の三つの定義を満たしています。

            まさかね、、、。

  • 初めてコメントさせて頂きます。本サイトに大変お世話になり勉強を続けている者です。
    (6)ですが、高橋先生は解説欄では「読める」は状態動詞と書いておられます。その上の一覧表では「読む」は継続動詞となっており、どういうことか?と悩みましたところ、タルロ様の投稿に「『読む』ではなく『読める』でしたね」とあり、両者は別物と考えるのか⁈と知らました。もう少し先生に解説頂ければ幸いです。

    • >Akiさん
      毎日のんびり日本語教師の高橋です。お答えします。
      表の状態動詞のところに「できる」があります。
      「できる」や「読める」などの可能を表す動詞は、状態動詞に分類されています。能力の所有という一種の性質・状態だからです。「読む」と「読める」では扱いが違います。
      この問題はそこを知っているかどうか聞いている問題です!

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