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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説

問1 四つの述語と「のだ」

 問題文で動詞、イ形容詞、ナ形容詞、「名詞+だ」に「のだ」を接続する場合はどうするかって話をしてます。

 (1) 食べるのだ (動詞普通形+のだ)
 (2) 明るいのだ (イ形容詞普通形+のだ)
 (3) 自由なのだ (ナ形容詞+な+のだ)
 (4) 満月なのだ (名詞+な+のだ)

 動詞とイ形容詞は普通形に接続しています。
 でもナ形容詞「自由だ」、名詞「満月だ」は「だ」を「な」に変えて「のだ」をつけてます。

 なので答えは2です。

問2 「の」の働き

 「名詞+だ」に「のだ」をつけるときは、「だ」が「の」に変わる。これってなんでだろう?っていう質問です。

選択肢1

 文法化とは、具体的な意味を持つ言語形式が抽象化して文法機能を持つようになること(内容語機能語になること)です。例えば「言う」は口を動かして何か発声するって意味ですけど、「彼女が結婚するという話」の「いう」はもはや口を動かして何か発声するという意味はかなり薄くなってほとんどありません。最初は動詞だったのに文法化によって意味が抽象化して「~という」という機能語に変わりました。これが文法化です。
 ここまで説明を読んでいただいたら、「だ」が「の」に変わったのは文法化と関係ないことが分かると思います。

選択肢2

 もし「名詞+だ」にそのまま「のだ」をつけたら「学生だのだ」みたいな言い方になってしまいます。「名詞+だ」は述語の形式で、「~のだ」も述語の形式です。「学生だのだ」は述語の形式が2つからおかしくなってます。そこで述語の形式を一つ減らそうとする調整が働くようです。文末の「~のだ」はそのままに、「学生だ」の部分が調整されます。「だ」はそのままだとよくないので「な」に変わりました。なんで「な」に変わったのかは詳しく分かりませんが、推測するに「静かなのだ」みたいな「ナ形容詞語幹+なのだ」と形を同じくしようとする力が働いたのではないかと思われます。そして「学生なのだ」となっています。

 さて、この問題は「のだ」の「の」の働きについての問題でした。この「の」は一般に名詞化する機能を持った形式名詞、あるいは準体助詞などと呼ばれています。

 (1) 学生なのは知っている。 (名詞+助詞「は」)
 (2) 食べるのが好き。    (名詞+助詞「が」)
 (3) 綺麗なのをください。  (名詞+助詞「を」)
 (4) おいしいのはどれですか。(名詞+助詞「は」)

 これらの例文を見ると、「~の」の後ろに助詞が来ています。助詞の左側は名詞が来なければならないという文法規則があるので、「学生なの」「食べるの」「綺麗なの」「おいしいの」は名詞ということになります。したがって「学生なのだ」の「学生なの」も名詞です。
 ここまで説明を読んでいただくと、「のだ」の「の」の働きは名詞化しているんだということが分かると思います。この選択肢が答えです。

選択肢3

 主題化は全く無関係。
 「私が窓を壊した」の「私」を主題化した文が「私は窓を壊した」、「窓」を主題化した文が「窓は私が壊した」です。主題化は格成分を主題を表す形式「は」でとることです。「のだ」とは関係がありません。

選択肢4

 述語化っていうのは初めて見た。
 述語になれない言語形式を述語に据えられるようにすることだと思うけど、具体的にどういうことなのかは今のところ分からないです。

 
 したがって答えは2です。

問3 「のだろう」と「だろう」

 各選択肢の文脈で「~のだろう」が言えるのか、「~だろう」が言えるのかを考えてみましょう。

選択肢1

 ✕あいつはあんな性格だから、今ごろ海外で元気に暮らしてるのだろう
 〇あいつはあんな性格だから、今ごろ海外で元気に暮らしてるだろう

選択肢2

 ✕今日は暑いらしいからアイスクリームがよく売れるのだろう
 〇今日は暑いらしいからアイスクリームがよく売れるだろう

選択肢3

 〇たくさん人がいるところを見ると、事故があったのだろう
 ✕たくさん人がいるところを見ると、事故があっただろう

選択肢4

 ✕30年後自動運転はもっと普及しているのだろう
 〇30年後自動運転はもっと普及しているだろう

 選択肢3だけ「のだろう」が適切で「だろう」が不適切でした。
 答えは3です!

問4 否定の焦点

 私は絶対に学校に行かない

 この文の否定「ない」の焦点は「行く」です。この文が一番言いたいことは「行かない」だから、否定は「行く」にかかっています。

 私は行きたくて学校に行くのではない

 この文は行く理由は「行きたいから」じゃないってことを言いたいものです。だから文末の否定「ない」は「行きたくて」を否定しています。

 よって答えは4です。

問5 「のだ」の使い方の様々な特徴

 「~のだ」は口語で「~んだ」になることもあるので、それも含めて例文を作ってみます。

選択肢1

 「どうしてやらないのだ」「なぜやらないのだ」みたいな言い方はできます。できますが上から感が強くなるような。別に非文法的じゃないけど、実際このように言う場面はまずないので不自然と言っていいと思います。
 これが答え。 

選択肢2

 例えば「出納」はなんと読むのか学習者にクイズを出すような場面では、「『出納』はどう読むのですか?(読むんですか?)」みたいな言い方はしません。この言い方をするとまるで読み方を知らないで聞いてるような聞き方になっちゃうから。
 だからこの選択肢は正しいです。

選択肢3

 例えば、相手の誕生日を始めて聞いて驚いたときに「明日誕生日なんですね!」というのは自然ですが、「明日誕生日ですね!」というのはちょっと不自然。「のだ」は使うべきときに使わないと不自然になるし、「驚き」という感情の情報伝達は抜け落ちてしまいます。ですが、「明日誕生日だ」という命題部分はしっかり伝わっているので情報伝達に支障は出ません。ここでいう情報伝達とは、命題が伝わっているかどうかを指していると思われます。「~のだ」は命題ではなく話者の主観を含むモダリティ表現なので命題の情報伝達には関わりません。
 この選択肢は正しい。

選択肢4

 選択肢2と同じく教師が答えを知ってるのに「『出納』はどう読むんですか?」と言うと不自然ですね。
 また、遅刻した理由を説明するときに「電車が遅れたので遅刻したんです」みたいな言い方をすると自分のせいじゃないみたいな言い方になって無礼な印象を与えることがあります。
 この選択肢は正しいです。

 答えは1です。




コメント

コメント一覧 (1件)

  • 問題5ー1なんですが、「疑問文では『のだ』を使わないのが自然である。」とあったので、1が不適当ではないかと思いました。

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