令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説
(1)調音点
声帯は喉頭の中央部左右にある喉頭粘膜のひだで、人はそれを動かして接近させたり開いたりすることで発声します。その左右のひだの間の通路を声門と呼びます。声帯に近いのは声門です。近いというか、すぐもう隣です。
答えは1です。
参考:調音点とは?
(2)韻律(プロソディ)
韻律(プロソディ)とは、アクセント、イントネーション、プロミネンス、リズム、ポーズなどの、表記からはどうであるか推測できない諸要素のことです。
例えば、日本語の「そうなんですか」という表記だけを見て話し手がどのような言い方で言ったのかは確定できません。下降調のイントネーションで言えば納得ですし、上昇調なら疑問になります。プロソディは文字にできないので、文字にした途端消えてしまいます。日本語のひらがな、カタカナ、漢字は全てプロソディを表現できません。
しかし中国語のピンインは違います。
例えば私の名前「高橋龍之介」は、ピンインにするとこのように書きます。
gāo qiáo lóng zhī jiè高 橋 龍 之 介
アルファベットが並んでいますが、その上に線が書かれています。この線はアクセント記号です。
中国語は4つの声調(アクセント)があり、それぞれどの声調で読めばいいのかピンインを見ればすぐ分かります。アクセントはプロソディで通常文字にすると消えてしまうものなのに、中国語のピンインはそれを記述する術を持ちます。
したがって答えは3です。
(3)アクセント
※こちらの解説は「新明解日本語アクセント辞典」を参考にしています。
選択肢1
後部要素が動詞や形容詞の複合動詞、後部要素が漢語二字の複合動詞などは、原則として前部要素のアクセント型に関係なく、後部要素によってアクセントが決まると書かれています。前部要素のアクセント型に大きく影響するとは言えません。
選択肢2
高低アクセントにおけるアクセント核とは、高から低へと下がるところのことです。
声の上がり目がアクセントになるのは共通語ではなく方言。
選択肢3
新明解の辞典には「動詞は名詞にくらべて型の数が少ない」と書かれています。
名詞は2拍なら平板型、頭高型、尾高型の3種類、3拍以上なら平板型、頭高型、中高型、尾高型の4種類ですが、動詞は原則として2拍なら平板型(泣く)と頭高型(切る)、3拍以上なら平板型(笑う)と中高型(起きる)しかないそうです。
この選択肢は間違い。
選択肢4
確かな記載が見つからないのですが、とりあえず経験から。
以前アクセントについての資料を作っていた時にやけに平板型の語がたくさん見つかる現象に遭いました。その代わり尾高型を探すのがとても苦労したんですよね。肌感覚としては平板型が多そうではあります。
記述は見つかりませんが…
よって答えは4です。
(4)イントネーション
「海釣り」「窓枠」「猫除け」などの語はそれぞれ「海で釣る」「窓の枠」「猫を除ける」のように、前項と後項に格関係があったり、修飾・被修飾関係が認められます。これは統語構造というものです。 ア には統語構造が入ります。
ちなみに範列関係(パラディグマティックな関係)は、文中の同じ位置に置くことができる類義語や対義語などの関係のこと。例えば「~を見る」には「テレビ」や「映画」「アニメ」などを入れることができるので、「見る」と「テレビ」「映画」「アニメ」には範列的な関係あるというふうにいいます。
次に イ 。
プロミネンスとは、声の強弱、高低、長短を調整する、ポーズを入れるなどして特定の部分を際立たせることです。イントネーションとは別です。
それからフォーカスとは、その文において一番言いたいところのことです。
①明日は雪が降ります②明日は雪が降りません
この2つの文は、「明日は雪が降り」までは同じで、それ以降の「ます」と「ません」を聞かないとその文の意味が分からないはず。でも実際はそんなことはなくて、「明日は雪が降り」まで聞いたら、そのあとに「ます」が来るのか「ません」が来るのか、母語話者だったら何となく察しがつきます。なぜかというと、後者は「降りません」を特に言いたいがためにそこにフォーカス(焦点)が当たっていて、「降りません」のうち、「りま」のあたりのイントネーションが変わっていると思います。たんに「降ります」というよりも違いがあるはずです。イントネーションは伝えたい情報に焦点を当てることができますから、 イ にはフォーカスが入ります。
なので答えは2!
こちらの本を参考にしました。
(5)コミュニケーションエラー
メタファーは比喩の一種だし、ダイクシスは発話現場にいないと分からない言語表現のことだし、シソーラスは辞書だし。問題文の韻律と何ら関係のないことを言っています。だから3。
選択肢3について…
パラ言語情報とは、プロミネンス、イントネーション、フィラーなどのそれ自体文字にすることができず、言語情報に付随して命題を補完、補足するもののことです。ここではイントネーションはパラ言語情報の一つだという認識くらいで結構です。
日本語において、平叙文のピッチ変化はへの字のようになり、疑問だったら上昇調のイントネーションだし、断定だったらまたそれらとは違うし… 細かい違いですけどパラ言語は言葉の意味を大きく変える機能があります。学習者がこのイントネーションの違い、その意味を知らないとコミュニケーションエラーが起きる可能性は十分にあります。例えば次の例。
(1) A:「忖度」は他人の気持ちを察すことです。
B①:そうなんですか⤴
B②:そうなんですか⤵
B①のような上昇調のイントネーションだと疑問、B②のような下降調のイントネーションだと納得になります。イントネーションの違いは意味を弁別するので、これらに関する知識がなければコミュニケーションに支障をきたすかもしれません。
なので答えは3です。
コメント