6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

調音点とは?

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調音点(point of articulation)

 人間が言語音を産出するために用いる、一般に肺から唇、鼻孔までの音声器官(organs of speech)のうち、喉頭より上の音声器官は様々な音を作り出すためにその形状を変える活動、すなわち調音(articulation)をする器官であり、これらを調音器官(articulator)と呼びます。調音器官は、舌や下唇のように可動性が高い能動調音器官(active articulator)と、歯茎や硬口蓋のように可動性が低い受動調音器官(passive articulator)に分けられます。調音は能動調音器官が受動調音器官に働きかけることにより実現されるわけです。調音時に能動調音器官が受動調音器官に働きかける部位を調音点(point of articulation)と呼びます。実際、調音にかかわる部位は点ではなく面なので、調音点ではなく調音位置(place of articulation)と呼ぶのが専門用語として一般的です。調音点は能動調音器官と受動調音器官の名称を組み合わせた「両唇」「唇歯」や、たんに受動調音器官の名称を使った「歯茎」「硬口蓋」などと呼ばれます。それらの調音点で調音された音は「両唇音」「唇歯音」「歯茎音」「硬口蓋音」と言うのが普通です。

 口腔内の天井を見ていくと、一番前から上唇(じょうしん)、上歯(じょうし)、歯茎(しけい)と続きます。歯茎の後ろには弧を描いている部分があって、そこをまとめて口蓋(こうがい)と言います。口蓋はさらにいくつかに分けられます。骨があって硬い部分は硬口蓋(こうこうがい)、骨がなく軟らかい部分は軟口蓋(なんこうがい)です。軟口蓋の後ろ側の筋肉部分全体を口蓋帆(こうがいはん)といい、口蓋帆の一番後ろの垂れ下がっている肉片が口蓋垂(こうがいすい)、いわゆるのどちんこです。

 口腔内の下の方を見ていくと、一番前から下唇(かしん)、下歯(かし)があり、その後ろに舌があります。舌は口の前から奥深くまで占領していて、それ全体をただ「舌」として扱うのでは細かな音の分類ができないため、舌をいくつかの部分に分けます。しかし、舌はそれ自体に区切るための目印となるようなものがないので、口腔内の上の器官を基準に部分を分けました。舌の一番前の部分を舌端(ぜったん)、特にその先端を舌尖(ぜっせん)と言います。喋ったり食べたりしていない安静状態のときに硬口蓋に向かい合っている部分を前舌(ぜんぜつ)、軟口蓋と向かい合っている部分を後舌(こうぜつ)、それよりも奥の部分を舌根(ぜっこん)と呼びます。また、前舌と後舌の境目あたりを中舌(なかじた、ちゅうぜつ)と呼ぶこともあります。

調音点の分類

 子音は調音点によって11種類に分類されます。なお、日本語標準語で使われる調音点は6つです。

下唇 → 上唇 両唇音(Bilabial)
下唇 → 上歯 唇歯音(Labiodental)
舌尖/舌端 → 上歯の裏 歯音(Dental)
舌端 → 歯茎 歯茎音(Alveolar)
舌端 → 歯茎後部 後部歯茎音(Postalveolar)
舌尖 → 歯茎後部 そり舌音(Retroflex)
前舌 → 硬口蓋 硬口蓋音(Palatal)
後舌 → 軟口蓋 軟口蓋音(Velar)
後舌 → 軟口蓋の縁・口蓋垂 口蓋垂音(Uvular)
10 舌根 → 咽頭壁 咽頭音(Pharyngeal)
11 声帯 ⇔ 声帯 声門音(Glottal)

 矢印の方向は能動調音器官から受動調音器官に働きかけることを意味します。声帯に関しては、2本の声帯がお互いに近づいたり離れたりするため「⇔」になっています。5と6はいずれも舌が歯茎後部に働きかけて調音しますが、6は舌尖(舌先)が反りかえって調音する点で5と異なります。そこで6はその舌の形状から「そり舌音」と名付けられています。

 歯茎硬口蓋音(Alveolo-palatal)は調音の際に歯茎と硬口蓋にまたがって調音する同時調音で、歯茎硬口蓋という調音点があるわけじゃないから上表には書いてませんが、これも調音点に含めたとすると、日本語標準語で用いる調音点は両唇、歯茎、歯茎硬口蓋、硬口蓋、軟口蓋、口蓋垂、声門の7つとなります。

参考文献

 窪園晴夫(1999)『日本語の音声』岩波書店
 斎藤純男(2019)『日本語音声学入門 改訂版』三省堂
 城生佰太郎(2008)『一般音声学講義』勉誠出版
 服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』朝倉書店




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