対義語
共通の上位概念に意味的に包摂される単語Aと単語Bがお互い意味的に対立関係を成している場合、その語のペアを対義語、あるいは反義語と言います。言い換えると、包摂関係における下位語群(同位語)の中に見られる意味的に対立した2語のことを指します。
(1) 性別 ⊃ 男性:女性
(2) 点数 ⊃ 0点:100点
(3) 広さ ⊃ 広い:狭い
例えば「性別」という概念の下位概念「男性」「女性」は意味的に対立している対義語です。「点数」という概念の下位概念には「0点」や「30点」「80点」「100点」などが含まれますが、一般に私たちは得点が最も高い「100点」と最も低い「0点」に対義関係を見出します。よって「80点」や「30点」などの中間に位置する点数は有意な対立関係をなさないため、対義語のペアを構成することは普通ありません。
村木(2018)は対義語を次の7つに分類しています。
相補関係にもとづく対義語
この種の対義語は一方が肯定されれば、他方が否定される関係が成り立つ対義語を指します。例えば「生」と「死」は「生」を肯定すれば必ず「死」が否定され、「生」を否定すれば必ず「死」が肯定される関係にあります。
このタイプの対義語は共通する上位概念の意味領域を二分する2語であり、その下位語にあたる概念はその2語から構成されています。「生物の生死」という上位概念に包摂されるのは「生」の状態と「死」の状態しかなく、それ以外の状態は通常考えられません。「生」と「死」は「生物の生死」という意味領域を二分するので、一方が肯定されれば他方が否定されるような相補関係が成り立ちます。
(1) 生:死
(2) 男性:女性
(3) 表:裏
(4) 出席:欠席
(5) 等しい:異なる
(6) 北半球:南半球
両極性にもとづく対義語
この種の対義語は物事の両極にある関係が成り立つ対義関係を指します。相補関係にもとづく対義語のように上位概念の意味領域を二分する下位概念の対立ではなく、上位概念は3つ以上の下位概念を包摂しています。その複数ある下位概念の両極に位置する概念の対立がこの種の対義語です。例えば「100点」と「0点」。「点数」は一般に0点から100点までありますが、その両極に位置する「0点」と「100点」が有意な対立関係をなしています。
(7) 0点:100点
(8) 南極:北極
(9) 入学:卒業
(10) 頂上:麓
(11) 始まり:終わり
程度性をもつ対義語
この種の対義語は対義語を構成する語に程度性があり、その程度の大小にしたがって相反する方向に段階的な広がりをもつものを指します。「大きい」と「小さい」では、何かを「大きい」というためには「小さい」何かを基準にしなければならず、逆もまたそうです。その語が表す意味を定めるには比較の基準が必要で相対的な意味を持っています。相補関係にもとづく対義語のように上位概念の意味領域を二分しているわけではありません。「大きい」と「小さい」にはその中間の大きくも小さくもない程度もあるからです。また「大きい」と「小さい」の外側に「とても大きい」「とても小さい」のような程度も存在し得るため、両極に位置するものを定めることは難しく、両極性に基づく対義語とも異なります。
(12) 大きい:小さい
(13) 長い:短い
(14) 広い:狭い
(15) 多い:少ない
反照関係にもとづく対義語
この種の対義語は、異なる二つの視点から捉えた同一の物事に成り立つ対義関係を指します。授受を与え手の視点から捉えれば「あげる」「貸す」「教える」「売る」などの動詞で描写し、受け手の視点から捉えれば「もらう」「借りる」「教わる」「買う」などを使います。能動「怒る」と受動「怒られる」においても視点で対立しています。
(16) 貸す:借りる
(17) 怒る:怒られる
(18) 上り坂:下り坂
(19) 売る:買う
(20) 入口:出口
たがいに相手を前提とした対義語
一方の存在がもう一方の存在を前提として成り立つ関係にある対義語です。「先生」は「生徒」なしでは「先生」と名乗ることはできず、教わる「先生」がいなければ「学生」でもありません。お互いが依存してお互いの存在を成立させています。
(21) 先生:生徒
(22) 医者:患者
(23) 師匠:弟子
(24) 夫:妻
(25) 親:子
(26) 加害者:被害者
(27) 本店:支店
変化に関する対義語
2語が表す動きや変化が逆方向で、繰り返すと元の状態に戻るような関係にある対義語を指します。
(28) 上がる:下がる
(29) 前進:後退
(30) 結ぶ:ほどく
(31) 覚える:忘れる
開いた対義語
特定の文脈で繰り返し対比されたことによって文脈に依存せずとも対立関係を感じるようになった、共通の上位概念に包摂されるもともと対立点がはっきりしない語のペアを指します。例えば「海」と「山」は「自然」などの上位概念に包摂されますが、「海」と「山」自体には本来特に有意な対立関係は認められません。しかし、遊びにいくならどっちにするか等の質問が繰り返されたことで「海」と「山」が次第に対義性を帯び、その文脈から切り離されてもなお対立関係が感じられるようになりました。
(32) 海:山
(33) 和室:洋室
(34) 猫:犬
参考文献
村木新次郎(2018)「意味の体系」『朝倉日本語講座4 語彙・意味』62,64-73頁,朝倉書店
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