令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題14解説
問1 指示詞からの転用によってできたもの
「彼方(あなた)」はもともと遠方を指す指示詞でしたが、今では相手を指す人称詞として用いられるようになっています。
答えは1です。
問2 敬意が低減(逓減)した人称詞
ここでは「敬意が低減した」とありますが、これは敬意低減の法則を指してます。もともとその語が持っていた他者に対する敬意が時間の経過とともに薄らいでいくことで、代表的な例として「貴様」や「お前」が挙げられます。元々相手を敬う語だったのに、今では軽蔑の対象に用いられるようになってますね。
答えは1です。
問3 主語が一人称のみに制限される例
各選択肢の文の主語に人称制限があるかどうか、一人称「私」、二人称「君」、三人称「彼女」などを使って言えるかどうか見ます。
選択肢1
【一人称】〇怒りのあまり、私は彼を殴っただろう。
【二人称】〇怒りのあまり、君は彼を殴っただろう。
【三人称】〇怒りのあまり、彼女は彼を殴っただろう。
述語のモダリティ形式「~だろう」に人称制限はありません。
選択肢2
【一人称】✕寝不足で、私はきっと頭が痛いはずだ。
【二人称】〇寝不足で、君はきっと頭が痛いはずだ。
【三人称】〇寝不足で、彼女はきっと頭が痛いはずだ。
述語のモダリティ形式「はずだ」は推測を表します。自分のことは推測しなくても分かっているのことなので、一人称主語に「はずだ」は共起しません。
選択肢3
【一人称】〇昨日食べたすき焼き、私はまた食べたい。
【二人称】✕昨日食べたすき焼き、君はまた食べたい。
【三人称】✕昨日食べたすき焼き、彼女はまた食べたい。
述語のモダリティ形式「~たい」は願望を表します。願望があるかどうかは本人にしか分からないことなので、一人称主語にしか共起しません。
選択肢4
【一人称】✕来年、私は東京の大学を受験するらしい。
【二人称】✕来年、君は東京の大学を受験するらしい。
【三人称】〇来年、彼女は東京の大学を受験するらしい。
述語のモダリティ形式「~らしい」は話し手でも聞き手でもなく、第三者から情報を得たことを表します。したがって話し手を表す一人称と聞き手を表す二人称主語の事態に使うことはできず、三人称主語だけ許されます。
したがって答えは3です。
問4 親族間の人称詞
親族間での状況を考えてみます。
1 母親に対して自分のことを「兄」と自称しません。これは間違い。
2 母親に対して「彼女」と呼ぶことはありません。これは間違い。
3 妹に対して名前で自称することはないから間違い。
4 妹に対して「お前」「私たち」を使うことはあります。
答えは4です。
問5 人称詞の指導
選択肢1
目上の人に「あなた」を使うと失礼になる場合があるので、名前にさん付けをするよう指導するのは正しいです。
選択肢2
「私」は現代では男性でも女性でも共通して使いますので不自然ではありません。これは間違い。
選択肢3
自称詞「自分」は体育会系な印象を与えることがあります。「私」にはそういうニュアンスはなく比較的中立的です。
また、「自分」は聞き手を指して「自分はどう思う?」みたいな他称詞としての用法もあります。「私」は自称詞です。この違いについては指導しておいたほうが良い。これは正しいです。
選択肢4
正しいです。目上の人を「彼」「彼女」と呼ぶのは失礼にあたります。
したがって答えは2です。
コメント