平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題5解説
問1 話し合いを活性化する方法
選択肢1
突然「隣の人と話し合いましょう」といって話し合いをはじめても学習者は何を話せばいいか分からなくて、わざわざ慣れない日本語を用いて話すモチベーションがありません。話し合うことで何か成し遂げたりするようなゴールを用意すれば日本語を使って話し合うモチベーションが生まれますから、盛り上がりやすくなります。この選択肢は正しいです。
選択肢2
初級で時事問題などを話し合うのは難しいので、レベルに合わせたテーマを設定し、しかも学習者が興味を持てるようなテーマを用意したほうがいいです。この選択肢は間違い。
選択肢3
発言は一人ずつしかできないので、クラス全体で話し合わせると発言できない人が多くなっちゃいます。小さいグループにしてそれぞれの人が発言できるチャンスを増やしたほうが盛り上がります。この選択肢は間違い。
選択肢4
まずテーマのどの部分から話すかみたいなことを定めておけば話し合いが円滑になります。初級・中級ならそうしたほうがいいです。また自由に発言させると話せない人が出てくるので、順番に話させたりするといいかも。この選択肢は間違い。
答えは1です。
問2 スキャフォールディング
スキャフォールディング(足場掛け)といえば最近接発達領域です。この2つは一緒に頭に入れてください。
最近接発達領域/発達の最近接領域(ZPD:Zone of proximal development)
子どもの物事が「できる」段階と、「できない」段階の中間的な段階のこと。子どもは突然何かできるようになるわけではなく、この中間的な段階で周囲の大人からアドバイスやサポートを受けて何かできるようになっていくと考える。また、最近接発達領域において周囲の大人が行う様々なアドバイスやサポートなどの支援のことをスキャフォールディング(足場掛け)という。適切なタイミングで適切な支援が行われることで習得が進むと考えられる。ヴィゴツキー (L.S.Vygotsky)が提唱した。
選択肢4では、学生は「格差」という単語が思い出せずに言い淀んでいます。そこに教師から「格差」という言葉を与えることで学生に思い出させました。教師は発話の手助け(スキャフォールディング)をしています。
したがって答えは4です。
問3 不安や緊張が及ぼす影響
選択肢1
不安や緊張があると言いたいことをうまく言葉にできなかったり、何を言いたいか分からなくなったりするのでアウトプットに当然影響します。また、不安や緊張があると相手が言ったことをいつも通り聞き取ることができなかったり、急に単語を忘れたりとかしてインプットのほうにも影響を及ぼします。この選択肢は間違い。
選択肢2
クラスメートと仲が悪かったり、ほぼ初対面だったりすると不安や緊張を抱くかもしれません。教師も怒りっぽくて威圧的だったりすると学習者は不安や緊張を抱きます。この選択肢は間違いです。
選択肢3
教室内の要因で不安や緊張を抱くこともあるし、教室外の生活などでも抱くことがあります。この選択肢は間違い。
選択肢4
不安や緊張が原因で学習が進まない人もいますが、それらを克服しようと逆に積極的になる学習者もいます。人それぞれ。
答えは4です。
問4 ジャーナル
ここでいうジャーナルとは、実習ジャーナルとも呼ばれ、「授業観察の準備の段階から教壇実習を完了しその結果の評価までの段階で、どのような点に注目し、どんなことを考え感じたかの推移をその度に記録していくもの」(岡崎ら 1997: 57)のことを指します。
選択肢1
その教師が自分で感じたことを自分で書いたもの(ジャーナル)を見ながら誰かと話し合って振り返り、授業の改善方法を見出していくのはジャーナルの活用法として適当です。ただしその場合、ジャーナルの内容を理解できる同じ立場の人じゃないと効果的でないと思います。ここでは「立場が違う者」とあるのでこの点がダメ。
選択肢2
同じレベルの授業を担当する教師はジャーナルの内容が理解できるので、話し合うことで授業の振り返りや改善の話ができそう。これは良い活用法です。
選択肢3
ジャーナルは授業で感じたことを教師自身がまとめたものを指します。これを利用して、解決したいテーマを決めて、授業の中でデータを収集する? まったく意味不明。
選択肢4
教案や学生による授業評価などを記録したものをジャーナルと呼ぶわけではないのでこの選択肢は間違い。
答えは2です。
《参考文献》
岡崎敏雄・岡崎眸(1997)『日本語教育の実習 理論と実践』57頁.アルク
問5 自己研修型教師
自己研修型教師は次の2つの特徴を持つ教師を指します(岡崎ら 1997: 15)。
a 他の人々が作成したシラバスや教授法をうのみにしそのまま適用していくような受身的な存在ではなく
b 自分自身で自分の学習者に合った教材や教室活動を創造していく能動的な存在である。
このような教師は学習者をよく観察してニーズを知り、教師自身が授業を観察・研究してカリキュラムをどんどん改変していくような行動を行うことで実現されます。
1 学習者を観察して教授活動を変えていこうとしているので自己研修型教師の特徴に合ってます
2 自分自身の言語教育観を客観的に捉えてアップデートしていこうとする姿勢は自己研修型教師の特徴に合ってます
3 熟練教師のやり方を模倣するのは上記の内容にそぐわないので間違い。
4 既存の教授法を批判的に捉えて改善しようとする姿勢は自己研修型教師の特徴に合ってます
答えは3です。
《参考文献》
岡崎敏雄・岡崎眸(1997)『日本語教育の実習 理論と実践』14-18頁.アルク
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