6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

中間言語とは?

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中間言語(interlanguage)

 中間言語(interlanguage)とは、セリンカー(L.Selinker 1972)が提唱した概念で、第一言語でもなく第二言語でもない学習者が独自に作り上げた発達途上の言語体系のことです。第二言語を学ぶとき、学習者には学習者なりの第二言語の言語体系が形成されると考えます。この言語体系は第二言語の言語体系とは全く別物ですが、学習を続けていく過程で母語話者からのインプット、第一言語の知識などを用いて第二言語の言語規則に関する仮説を立て、その仮説に基づくアウトプットで仮説の正しさを検証しながら独自の言語体系を繰り返し再構築していき、徐々に第二言語の言語体系に近づいていくと考えられています。中間言語は目標言語へと向かっていく途中の段階全てを指したり、あるいは途中の段階の一部を指したりします。

 中間言語以前の第二言語習得研究では学習者の誤用に注目する誤用分析が主流でしたが、学習者は自信のない形式や使いにくいと思っている形式を回避し、誤用が発話に現れないことがあります。誤用分析は発話に現れない形式については何も検討できず、誤用が現れないからといって正用ばかり産出できるようになっているとも限りません。また、学習者の誤用は学習者が産出する形式の一部でしかなく、誤用だけを分析していてはこれらの問題に対応できなくなりました。そのような指摘がなされ、1970年代半ば以降から、誤用だけでなく正用も含め、学習者の言語体系を探る目標言語を使っているかを見る中間言語分析の時代となります。

中間言語の発達過程

 言語習得の過程は勉強すればするほど右肩上がりで伸びていくわけではありません。第一言語習得でも第二言語習得でもU字型曲線(U-shaped behavior)を描くことが知られています。これはU字型発達曲線と呼ばれています。中間言語は学習すればするほどその姿が変わり、目標言語の言語体系に近づいていく性質を持っています。この変化する性質を可変性(variability)と呼びます。

 U字型発達曲線において、学習初期の第一段階では挨拶などの定型的な表現、丸暗記した言葉などの形式的な発話が多いことが知られています。記憶した簡単な表現の限定的な使用にとどまり、覚えたものをそのまま使うだけなのでエラーは少なめ。この段階は学習者のレベル以上に上手に見えたりもします。第ニ段階では多くの新しい言語知識を学んだことで、それらを形式的に丸暗記するよりも自分なりの規則を構築するほうが言語の生産性や創造性の面、記憶容量的にも効率的です。しかし、自分なりの規則に基づいて発話することでかえってエラーが生じやすくなり、また新しく学んだ文法規則をそれまで学んだ規則と統合する作業で混乱したりします。発達としては後退しているように見えますが、中間言語の再構築が繰り返し行われ、認知的には前進しています。第三段階では度重なるアウトプットとフィードバックにより言語能力が上達し、エラーが減っていきます。このようにして中間言語は発達していくと考えられています。この発達過程では緊張や不安などが原因で一度習得したかに見られた言語形式が正しく使用できなくなる(一度修正された誤用が再び現れる)逆行(backsliding)や化石化(fossilization)といった現象が起こります。
 なお、セリンカーは中間言語を形成する要因として、①言語転移、②過剰般化、③訓練上の転移、④学習ストラテジー、⑤コミュニケーション・ストラテジーを挙げています。

化石化(fossilization)/定着化(stabilization)

 化石化(fossilization)とは、中間言語の発達過程のある段階において中間言語の発達が止まってしまい固定化してしまう現象のことで、セリンカーが中間言語と一緒に提唱した概念です。中間言語は絶えず目標言語に向けて変化している学習者独自の言語体系ですが、環境によっては発達が伸び悩むことがあります。それ以上発達しない中間言語全体の固定化を指します。しかしながら、中間言語の発達が止まっているように見えても日々何らかの語彙や文法に触れていれば全ての言語領域で発達が止まるとは考えにくく、このことから「化石化」という言い方を避け、定着化(stabilization)と呼ぶ場合もあります。なお、教育場面では中間言語の発達が止まるという元々の意味ではなく、ある特定の言語形式の習得がそれ以上なされずに誤用のまま残ってしまうことを指して化石化、定着化と呼ぶことが多いです。

参考文献

 大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』7-8,11-21頁.くろしお出版
 迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』19-34頁.アルク
 小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』52-57,76-79頁.スリーエーネットワーク




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