6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

気づかない方言とは?

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気づかない方言(Unnoticeable Dialect)

 気づかない方言とは、「使用地域の限られた言い方であるにもかかわらず、そのような地域差に気づかれていない」(二階堂ら 2015:322)方言のことです。気づかれにくい方言とも呼ばれます。
 より平易にいうと、話し手が方言と気づかないで使っているものを気づかない方言と言います。私の経験では、津軽方言の「むっつい」(ゆで卵の黄身やクッキーなどを食べて口の中の水分が吸われて無くなり咀嚼しにくいことを表す形容詞)や、「彼をグループに混ぜる」(「彼をグループに入れる」の意)などがあります。津軽地方以外の人に伝わらず、伝わっても自然な表現に聞こえないなどの反応を受けて、それまで方言とは思っていなかった形式が方言であったことに気づきます。

地方議会会議録から見る気づかない方言

 二階堂ら(2015)は地方議会会議録を言語資料とした方言研究の可能性を示し、その中で気づかない方言について言及しています。地方議会会議録には原則として議会における発言が正確に全て文字化されて掲載されますが、発音が異なったり、方言で記録することで誤解が生じるようなものについては整文され、結果として方言は修正されて掲載されます。これにより、議会の録画映像に収められた発言と会議録の内容が一致しないことがあります。その例として次の例を挙げています。

(1) (議長の「22番」という呼びかけの直後)そうすれば、ちょっと前からお話を申し上げたいと思います。
(弘前市議会 2010年12月 本会議 TG議員)
(二階堂ら 2015: 313)

 ここで使われている「そうすれば」は青森県や秋田県で用いられる場面の転換を表す方言であり、共通語でいうところの「それでは」「では」などと同義です。しかし、会議録には「そうすれば」がそのまま掲載されていることから共通語として認識されていると考えられます。これを気づかない方言の例として挙げています。

参考文献

 二階堂整・川瀬卓・高丸圭一・田附敏尚・松田謙次郎(2015)「地方議会会議録による方言研究」『方言の研究1 特集 方言研究の新しい展開』299-324頁.ひつじ書房

 ↑この本は気づかない方言の研究としてお勧め! 面白いです。




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