平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

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平成25年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

問1 スクリプト

 「服を見るためにお店に入った。しばらくしたら店員が寄ってきた。」

 なぜ店員が寄ってきたんでしょう? 私たちの頭の中には、服屋のスクリプトがあります。「お店に入ったら、店員が寄ってきて、服を選んで、試着して、購入して、店を出る」というような、一連の出来事の典型的な順序に関する知識です。このスクリプトがあるので、おそらく100人中100人が「服をお勧めするため」「接客のため」と答えるはずです。

 服屋に入ったことがない人、ジャングルの奥地にいるような人たちは服屋のスクリプトがないので、なぜ店員が寄ってきたのか理解できない可能性があります。経験がないと分からないんですよね。スクリプトは日常生活でも読解においても、状況の理解に大いに役に立っています。

 1 修飾構造に関する知識は形式スキーマ
 2 経験から蓄積された知識(背景知識)は内容スキーマ
 3 物語文の文章構造についての知識は形式スキーマ
 4 一連のできごとの流れについての知識なので、これがスクリプトです!

 したがって答えは4です。

問2 橋渡し推論

 推論の一種である橋渡し推論精緻化推論の違いを問う問題です。簡単にいうと、橋渡し推論は推論の内容がどんな人でも同じで、精緻化推論はその内容が人によって異なります。この点で見分けられますので、各選択肢を見ていきましょう。

選択肢1

 「それ」が指すものが「友達がくれたプレゼント」だと推論するのは当然で、誰でもそう推論します。そうでなければ前後の文の因果関係が理解できなくなります。この種の推論は橋渡し推論です。

選択肢2

 この文を読めば、誰でも「今日徹夜する理由は明日のテストがあるから」という推論をします。「勉強するから徹夜する」と推測できなければ前後の因果関係が分からず全体の理解もできません。これは橋渡し推論です。

選択肢3

 誰でも「新幹線に乗って京都で行ったのだ」と推論しますので、これは橋渡し推論。

選択肢4

 「富士山が見えるほど高いところに住んでいる」と想像するのは精緻化推論です。別に高層階でなくてもう富士山を見ることができる場所はあります。「高層階」というのが勝手な想像によるもので、この点が個人によって異なります。この種の推論は別に高層階に住んでいることを想像してもしなくても文の理解には影響を及ぼしません。だから精緻化推論です。

 答えは4です。

問3 スキャニング

 スキャニングとは、文章の中から必要な情報だけを短い時間で探し出す読み方のことです。

 1 トピックセンテンスとはその段落で最も重要な主張をしている文のこと。全て読まなくてもそこだけ読み取れば段落の大意を把握できますので、このような読み方はスキミング
 2 「大意をとる読み方」がまさにスキミング
 3 「必要な情報のみを拾い出す読み方」がスキャニングの説明
 4 多読

 答えは3です。

問4 補償ストラテジー

 言語学習ストラテジーからの出題です。レベッカ・オックスフォード(1994)は優れた学習者が行うことができるストラテジーとして次の6つを挙げています。

直接 記憶 記憶するために用いる暗記、暗唱、復習、動作などの記憶術。新しい知識を蓄え、蓄えた知識の想起を支えるもの。
認知 記憶した情報の操作や変換に用いるストラテジー。リハーサルしたり、既知の要素を組み合わせて長い連鎖を作ったり、分析・推論するなど。または、より理解を深めたりアウトプットするためにメモ、要約、線引き、色分けなどをして知識を構造化するなど。
補償 外国語を理解したり発話したりする時に、足りない知識を補うために用いるストラテジー。知識が十分でなくても推測やジェスチャーなどによって限界を越え、話したり書いたりできるようになる。
間接 メタ認知 学習者が自らの学習を管理するために用いるストラテジー。自分の認知を自分でコントロールし、自ら学習の司令塔となって学習過程を調整したり、自分自身をモニターする。
情意 学習者が学習者自身の感情、態度、動機などの情意的側面をコントロールし、否定的な感情を克服するためのストラテジー。自分を勇気づけたり、音楽を聴いてリラックスしたりするなど。
社会的 学習に他者が関わることによって学習を促進させるストラテジー。質問したり、明確化を求めたり、協力したりするなど。

 文章を読むと…
 トップダウン処理を行うことはどのストラテジーにあたるかを聞いています。
 言語理解におけるトップダウン処理は、一語一語の意味をその都度捉えるのではなく、推測を用いて読み進めていくことを指します。この種のストラテジーは補償ストラテジーにあたります。

 答えは4です。

 




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