同音衝突(homonymic clash)
【同音衝突が起きる同音異義語の例】
(1) 抜歯 : 抜糸
(2) 市立 : 私立
(3) 科学 : 化学
同音異義語(homonym)が同一の文脈で用いられることで生じた紛らわしさを回避するために、同音異義語の一方が語形変化することを同音衝突(homonymic clash)と言います。例えば「抜歯」と「抜糸」は同音異義語であるため、「バッシ」という音声だけではどちらの意味か特定することができず、意味は文脈に頼って特定するしかありません。しかしこれらはどちらも同一の場面(歯医者)において用いられる語なので文脈さえもほぼ同一であり、文脈に頼って意味を特定することも難しい場合があります。そこで「抜糸」のほうを「バツイト」と言い換える同音衝突が生じています。
同音衝突の例は他にもあり、(2)のような対立においては「市立」が「イチリツ」、「私立」は「ワタクシリツ」に、(3)においては「科学」はそのまま「カガク」、「化学」は「バケガク」になって区別されたりします。
同音衝突した結果できた単語は使用者層が拡大することによって、ひとつの単語として認定されていく可能性があります。
フランス語の例
ドーザ(1958: 81)は同音衝突の例としてフランス南部地方における雄鶏と猫の例を挙げています。雄鶏と猫は、それぞれラテン語で gallus, cattus ですが、これがフランス南部地方ガスコーニュ語の音韻法則にしたがって変化した結果、どちらも gat という発音になりました。しかし、異なる意味(雄鶏と猫)を同じ音(gat)で表すことが不可能であったために一つは取り除かれて、gallus は faisan(雉)や vicare(助任司祭)のような語に置き換えられました。
(4) 雄鶏 gallus > gat > faisan / vicare
(5) 猫 cattus > gat
同音衝突が起きないものもある
ドーザ(1958: 86-87)は、同音衝突の特徴として次の3つ挙げています。まず一つは、同音衝突が起こるには、二つの同音語の意味が全く異なるものでなければならないこと。二つ目は、同音衝突が起こるには、二つの同音語の意味は同一の思考範疇に属していなければならないこと。もう一つは、同音語であっても使用頻度が低ければ低いほど衝突の可能性は低くなることです。
【同音衝突が起きない同音異義語の例】
(6) 性格 : 正確
(7) 記者 : 汽車
(8) 低下 : 定価
「性格」と「正確」は全く意味が違いますが、同一文脈で用いられることはないため、二つ目の特徴に反し、同音衝突が起こらないものと考えられます。上述の「抜歯」と「抜糸」はいずれも歯医者さんという同じ文脈で用いられる同音異義語なので紛らわしさを解消する必要があり、そのため同音衝突が起きています。
参考文献
アルベール・ドーザ(著)・松原秀治(訳)・横山紀伊子(訳)(1958)『フランス言語地理学』72-146.
小林隆(2002)「日本語の同音衝突」『現代日本語講座〈第3巻〉発音』101-123頁.明治書院

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