同音衝突(homonymic clash)
【同音衝突が起きる同音異義語の例】
(1) 抜歯 : 抜糸
(2) 市立 : 私立
(3) 科学 : 化学
同音異義語(homonym)が同一の文脈で用いられることで生じた紛らわしさを回避するために、同音異義語の一方が語形変化することを同音衝突(homonymic clash)と言います。例えば「抜歯」と「抜糸」は同音異義語であるため、「バッシ」という音声だけではどちらの意味か特定することができず、意味は文脈に頼って特定するしかありません。しかしこれらはどちらも同一の場面(歯医者)において用いられる語なので文脈さえもほぼ同一であり、文脈に頼って意味を特定することも難しい場合があります。そこで「抜糸」のほうを「バツイト」と言い換える同音衝突が生じています。
同音衝突の例は他にもあり、(2)のような対立においては「市立」が「イチリツ」、「私立」は「ワタクシリツ」に、(3)においては「科学」はそのまま「カガク」、「化学」は「バケガク」になって区別されたりします。
同音衝突した結果できた単語は使用者層が拡大することによって、ひとつの単語として認定されていく可能性があります。
同音衝突が起きないものもある
【同音衝突が起きない同音異義語の例】
(4) 性格 : 正確
(5) 記者 : 汽車
(6) 低下 : 定価
「抜歯」と「抜糸」はいずれも歯医者さんという同じ文脈で用いられる同音異義語なので紛らわしさを解消する必要がありましたが、「性格」と「正確」などは同一文脈で用いることがまずありません。同一の文脈で用いられる同音異義語は同音衝突が起こる可能性が高いですが、そうでない同音異義語は同音衝突が生じにくいです。
参考文献
小林隆(2002)「日本語の同音衝突」『現代日本語講座〈第3巻〉発音』101-123頁.明治書院
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