6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

可能態とは?(可能文、能力可能、状況可能)

目次

可能態(potential voice)

 (1) 彼が    中国語を 話せる(こと)  (他動詞可能文①)
 (2) 彼が    中国語が 話せる(こと)  (他動詞可能文②)
 (3) 彼に(は) 中国語が 話せない。    (他動詞可能文③)
 (4) 彼が         泳げる(こと)  (自動詞可能文)

 あるものが何かをすることができる状態にある、またはそのことをする能力があることを表すには、(1)~(4)のような言い方をします。他動詞可能文は「XがYを他動詞辞書形」と規則的な転換が可能で、能動文の動作主Xは可能文で「それが可能・不可能」という能力の主体を表すようになり、他動詞文で対象だったYは「何が可能か不可能か」という能力の対象を表すようになります。

能動文 Xが    Yを 動詞可能形 他動詞可能文①
Xが Yを 他動詞辞書形 Xが    Yが 動詞可能形 他動詞可能文②
Xに(は) Yが 動詞可能形 他動詞可能文③

 自動詞可能文は「Xが自動詞辞書形」と規則的な転換が可能です。そもそも自動詞は動作の対象Yをとらないので「Xが」の格関係を調整する必要はなく、可能文にしても格関係の変化は生じません。

能動文 Xが 自動詞辞書形 Xが 動詞可能形 自動詞可能文

 また、可能形にすることができる動詞は意志的な動作を表すものに限られます。無意志動詞は可能形にすることができません。

可能文を作る動詞の形態的特徴

 五段動詞なら語幹に -e-(ru) 、一段動詞なら語幹に -rare-(ru) を付加して動詞の可能形を作ります。こうして作られた可能形は一般に規範とされる形ですが、言語実態として五段動詞に -ere-(ru) を付加した「書けれる」などのれ足す言葉や、一段動詞に -re-(ru) を付加した「食べれる」などのら抜き言葉も可能を表す形式として使われています。

動詞の使役形
五段動詞
(子音語幹動詞)
動詞語幹 – e – (ru)
動詞語幹 – ere – (ru)
書ける
書けれる
一段動詞
(母音語幹動詞)
動詞語幹 – rare – (ru)
動詞語幹 – re – (ru)
食べられる
食べれる
サ変動詞 suru → deki – (ru) できる
カ変動詞 kuru → korare – (ru)
kuru → kore – (ru)
来られる
来れる

 動詞を可能形にすると全て一段動詞化します。
 ※「する」に形態的に関係のある可能形は存在しませんが、意味的に関係があるものとして「できる」があります。ここでは「する」の可能形を「できる」として考えます。

 (5) どうしても行かれないんですか。
 (6) 泣くに泣かれ

 他、可能形には五段動詞語幹に受身形と同じ「-are-」を付与した形の(5)(6)も見られます。

可能文の用法

 可能文は何かをするにあたり、その実現について妨げるものはないという中心的な意味を持っています。
 何かの実現を妨げるものがない状態は恒常的な場合もありますし、一時的な場合もあります。例えば主体が何かを実現する能力を持っているのであれば、その能力は通常消えてなくならないと考えられるので、動作の実現を妨げるものは恒常的に存在しないと考えられます。一方、能力にはよらず、ある条件が満たされることでのみ動作が実現可能になるのであれば、動作の実現を妨げるものは恒常的に存在しているわけではなく、一時的と考えられます。この区別は日本語共通語では見られませんが、その他の言語では形式上区別されています。一般に前者を能力可能、後者を状況可能と呼んで区別します。

能力可能

 可能文のうち、その動作を実現することが可能か不可能かである条件が能動主体の能力に理由があるものを能力可能と言います。能力可能の文では、能動主体にある能力があったりなかったりしたために、それを実現することが可能、不可能となることを表します。主体はニ格をとることもあり。

 (7) プロだから1000mくらい簡単に泳げる
 (8) 作り方が分からないから作れません
 (9) やり方も分からないし、私にはできません

 例えば(7)は、1000m泳ぐことに関する実現可能性に、主体が「プロ」であるということが関係しています。つまり主体は1000mを泳ぐ能力を恒常的に有していると解釈できます。このような可能文を能力可能と呼びます。

状況可能

 可能文のうち、その動作を実現することが可能か不可能かである条件が能動主体の能力以外に理由があるものを状況可能と言います。能動主体にそれを実現する能力があったとしても、材料不足や手段の欠如、故障といった外的状況によってその動作の実現が可能不可能であることを表します。

 (10) タバコはあそこなら吸えますよ。
 (11) 材料がないから作れません
 (12) 障害が発生していてアクセスできない

 (10)では、タバコを吸えるかどうかは主体の能力に関係なく、場所によることが伺えます。場所が変われば不可能になるわけなので、当該可能の状態は一時的なものと考えられます。このような主体の能力以外に理由がある可能文が状況可能です。

参考文献

 日本語記述文法研究会(2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』くろしお出版
 寺村 秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版




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