令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3A解説
(1)拍の等時性
(1) ふるいけや かわずとびこむ みずのおと <5・7・5>
問題文にもあるように、日本語は拍(モーラ)という単位でリズムを分析することが一般的です。例えば俳句は5・7・5のリズムだと言いますが、その数字は実は拍を表していて、5拍・7拍・5拍というのが正確です。拍のみならず、あとで述べる音節も等時性という面白い性質を有しています。それは、「ふ」「る」「い」「け」「や」という一つ一つの拍は、ほとんど同じ時間間隔で現れるというものです。例えば最初の「ふ」を0.5秒で発音した場合、後続する拍の「る」も「い」も「け」も「や」もそれぞれ0.5秒で発音されるわけです。0.2秒で発音されたら、ほかも0.2秒になるという具合ですね。
余談を言うと… 学習者の中には促音や長音がうまく言えなかったり、言えても短かったりする人がいます。そういう人には拍の等時性を指導すると効果的なことがあります。「っ」であっても「ー」であっても周りの拍と同じ時間間隔で発音されるという知識があれば、「っ」で呼吸を一時的に止める時間を意識的に伸ばしたり、「ー」の時間を伸ばしたりするような変化を与えられるかもしれません。
つまり、 ア に入るのは 時間の長さ です。
答えは2です。
(2)音節
まずは下線部Aの言っていることを確認しましょう。
通常日本語は拍で音を捉えることが一般的なんですが、音節を使って捉えることもできなくはありません。しかし、英語の音節のまとまり方と日本語の音節のまとまり方は同じこともあれば違うこともあります。
(1) strike [strάɪk]
(2) luck・y [lˈʌki]
(3) the [ðə]
例えば英語の strike はこれで一音節ですが、日本語の「ストライク」は「ス・ト・ラ・イ・ク」の5音節、あるいは「ス・ト・ライ・ク」の4音節になります。音節数が全然違いますね。 lucky は luck と y からなる2音節語で、日本語の「ラッキー」も「ラッ・キー」の2音節です。同じく2音節ですが、英語の二音節目が y だけなのに対し、日本語の2音節目は「キー」なので、その区切り方が違うことが分かります。一方、英語の the と日本語の「ザ」はどちらも1音節であるように、同じまとまり方をする音節も当然あります。これが下線部Aの内容でした。
では各選択を見ていきましょう。
選択肢1
例えば英語の [strάɪk] を見てみると、二重母音 [άɪ] の後ろに子音 [k] が来ています。日本語の音節「缶」[kɑɴ] を見れば、母音 [ɑ] の後ろに子音 [ɴ] が来ています。母音の後ろに子音が一つある音節は英語も日本語もあるので、この選択肢が答えです。
選択肢2
上でも述べましたが、例えば英語の the [ðə] は一音節で単語を形成しています。日本語でも「蚊」[kɑ]、「死」[ɕi] など一音節で単語を形成する語はたくさんあります。この選択肢は間違い。
選択肢3
英語の strike [strάɪk] を見ると、二重母音 [rά] の前に三つの子音 [str] が並んでいます。英語にはそのような音節がありますね!
でも日本語は無いはずです… 日本語の音節構造は最大でも「子音+母音+子音」のはず。例えば「がっこう」の「がっ」は音声記号で [gɑk] と表記し、母音[ɑ]の前には一つの子音が来ています。2つの子音が来る例すら無いのではないかと思っています。この選択肢は間違い。
選択肢4
母音(音節核)を中心とした音声上のまとまりを音節と呼ぶのであって、母音が含まれない音節は”普通”はありえないです。英語にもないはずです。そして日本語にもないです。このように言うと、「ん」は母音がないけど一音節ではないか?と言う人がいるかもしれませんが、「ん」はこれ単独で一音節は形成せずに、前の音と合わせて音節を形成します。例えば「かん」[kɑɴ] とか、「ほん」[hoɴ] とかです。この場合は母音 [ɑ] や [o] が音節に含まれるので、やっぱりこの記述は間違いですね。
答えは1です。
(3)2モーラで成り立つ音節
問題文には「1モーラで成り立つ音節」と「2モーラで成り立つ音節」と書かれています。
(1) 蚊(か) <1モーラ:1音節>
(2) 死(し) <1モーラ:1音節>
(3) 木(き) <1モーラ:1音節>
↑のような例が1モーラで1音節になる日本語の例です。では2モーラで1音節の例とは何でしょう?
(4) 缶(かん) <2モーラ:1音節>
(5) サッ/カー <2モーラ:1音節>/<2モーラ:1音節>
日本語の撥音(ん)、促音(っ)、長音(ー)の特殊拍は、その前の仮名と合わせて一音節を形成します。つまり(4)に見られる「かん」、(5)に見られる「サッ」と「カー」などは2拍で一音節を形成する語です。
選択肢1
自立した1拍である「ほ」と「ね」を合わせた「ほね(骨)」を音節区切りにすると、「ほ」と「ね」の音節に分けられます。「ほね」は自立拍が2つ続く2モーラ語ですが、これは一音節語ではなく二音節語なのでこの選択肢は間違い。
選択肢2
自立拍「か」の後ろに特殊拍「ん」をつけた「かん(缶)」は上述の通り2モーラで1音節になる語だから、この選択肢が正しいことを言っています!
選択肢3
特殊拍(促音、撥音、長音)のうち、2つ続けて言葉を作ってみましょう。「っん」「っー」「んっ」「んー」「ーっ」「ーん」の6通りですね。これらのうち「んっ」「んー」はもしかしたら2モーラ1音節と言えるかもしれませんが、そのほかは読めもしないものになっています。これは間違いの選択肢。
選択肢4
特殊拍「ん」の後ろに「か」をつけた「んか」とか、「っ」の後ろに「か」をつけた「っか」とか、「ー」の後ろに「か」をつけた「ーか」とか、これはもはや語でもないし、読めないのも含まれています。特殊拍の後ろに自立拍がついたものは2モーラ1音節になりません。
答えは2です。
(4)「coat」と「コート」
この問題を解くにあたって知っておきたい用語は、開音節と閉音節です。せっかく「coat」と「コート」の例が挙げられているので、これを使って学びましょう。以下、音節境界は「・」で表します。
(1) coat [kóʊt]
(2) コー・ト
英語の coat はこれで一音節です。そしてその音声記号を見ると、音節の末尾音は子音 [t] で終わっています。このように子音で終わる音節を閉音節と呼び、英語は閉音節が多い閉音節言語です。
しかし日本語はどうでしょう? 「コー」[koo/ko:] という一音節を見ると、末尾音は母音 [o] で終わっています。「ト」[to] も母音で終わっていますね。このように母音で終わる音節を開音節と言います。日本語は「缶」[kɑɴ] や「いっぱい」の「いっ」[ip] など、撥音や促音を含む音節が閉音節構造を取りますが、それ以外は開音節なので開音節言語です。
そしてこの音節の構造が外来語を輸入するときの語形に影響を与えるという話ですね。
英語の [kóʊt] を日本語に輸入するとき、[ko] の部分はそのまま「コ」にしました。そして [ʊ] の部分が長音「ー」になっています。そして最後の [t] が「ト」になるわけですが… [t] はもともと子音だけです。しかし日本語にすると [to] となり、元々なかった母音 [o] が増えているわけですね。なぜ増えるかというと、日本語は開音節言語だから閉音節を閉音節のまま日本語に取り込めず、そういう場合は母音を加えて取り込むしかないからです。これが答え。
選択肢1
[kóʊt] の音節末の [t] の後に母音[o] が挿入されて、一音節であった [kóʊt] が「コー・ト」と開音節2音節からなる語になっています。この選択肢が答え!
選択肢2
音節末の子音 [t] の前に、例えば母音[o] を挿入したら [kóʊot] になってしまうのでこれは間違い。
選択肢3
音節末の子音 [t] が削除? されてません。これは間違い。
選択肢4
音節末の子音 [t] が二つ重なり? そんなことはされません。これも間違い。
答えは1です。
(5)フット
(1) ポケットモンスター → ポケ|モン (2拍+2泊)
(2) しゅうしょくかつどう → しゅう|かつ (2拍+2泊)
(3) あけましておめでとう → あけ|おめ (2拍+2泊)
下線部Dの「2モーラの単位でリズムを安定させる傾向」とは↑のようなことです。日本語の省略語の多くは、2拍+2拍を形成することが多いです。例えば「ポケットモンスター」は「ポケ+モン」ですね。就職活動も「しゅうかつ」として2拍+2拍になってます。日本語のリズムは拍で数えますが、拍はさらに2拍で1つのまとまりを形成することが多く、これをフットと呼びます。2拍=1フットです。フットを刻むと気持ちいいリズムになりやすいんでしょうね。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 元々の読み | いち2拍 | に1拍 | さん2拍 | し1拍 | ご1拍 |
| 実際の読み | いち2拍 | にー2拍 | さん2拍 | しー2拍 | ごー2拍 |
フットでよく挙げられる例は、数字を数えるときの音の変化です。
例えば1から5まで読み上げるとき、「いちにーさんしーごー」と言いますよね? この時、本来「に」と言うべきなのに「にー」と伸ばしたり、「し」が「しー」になったり、「ご」が「ごー」になったりと、元々ない長音が付加されます。これにより全部2拍1フットにして全体のリズムを統一しているというわけです。このような例を選択肢から探しましょう。
選択肢1
「ろく・まる・に・よん」だと2拍、2拍、1拍、2拍でリズムが悪くなりますから、「ろく・まる・にー・よん」として全部2拍1フットに統一するのは日本語ではよくありますね! これはフットの例として適当。
選択肢2
これも1拍「ご」と発音するとリズムが悪くなる。そのほかは全部2拍だから、「ごー」と伸ばして2拍1フットにするでしょう。これもフットの記述として適当。
選択肢3
「じゅう・ろく・じゅう・しち・じゅう・はち」と全て2拍1フットを刻んでいるので、これはこれ以上加工する必要がないです。「じゅうしち」は4モーラなのに、これを2モーラで読むのは早口になっちゃいますね。この選択肢は間違い。
選択肢4
「にじゅう・はち・にじゅう・く・さん・じゅう」は普通に読むと3拍・2拍・3拍・1拍・2拍・2拍です。拍がばらばらなので2拍に統一しましょう! すると「にじゅ・はち・にじゅ・くー・さん・じゅう」というふうに読むと思います。もともと3拍の「にじゅう」は「う」を発音せずに「にじゅ」にして2拍に、もともと1拍の「く」は伸ばして「くー」にして2拍に… という具合に全部2拍1フットに統一します。そうすればリズムがよくなりますね。この選択肢は適当です。
答えは3です。

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