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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3C解説

(11)一つの語基に接辞が付いた派生語

 これも例文作ってやってみましょう。

選択肢1

 (名)美しさ = イ形「美しい」の語幹「美し」+接辞「さ」
 (名)静かさ = ナ形「静か」の語幹「静か」+接辞「さ」

 「~さ」はイ形容詞、ナ形容詞の語幹について名詞を作ります。
 イ形容詞の辞書形に「さ」をつけたら「美しいさ」になっちゃいます。これは間違い。

選択肢2

 (名)臭み = イ形「臭い」の語幹「臭」+接辞「み」
 (名)新鮮み = ナ形「新鮮」の語幹「新鮮」+接辞「み」

 イ形容詞語幹やナ形容詞語幹に「み」をつけて作ります。こうして作られた語は名詞として機能します。水野(2017: 172)によれば、「社会人み」のように「名詞+み」のものもあるし、最近では「分かりみ」という「動詞連用形+み」のものもあることを言ってます。私は言わないけど「分かりみが深い」なんて聞いたことあります! いずれにしても「み」をつけてできた語は副詞じゃなくて名詞なのでこの選択肢は間違いです。

 参考文献:水野みのり(2017)「ネット集団語における接尾辞『-み』の語基拡張」『東京外国語大学記述言語学論集』第13号.167-174頁

選択肢3

 (名)形式上 = 名詞「形式」+接辞「上」
 (名)理論上 = 名詞「理論」+接辞「上」

 接辞「上」は名詞について名詞を作ります。イ形容詞ではありません。この選択肢は間違い。

選択肢4

 (ナ形)形式的 = 名詞「形式」+接辞「的」
 (ナ形)健康的 = 名詞(ナ形語幹)「健康」+接辞「的」

 「的」は名詞についてナ形容詞を作ります。ナ形容詞語幹も名詞として扱えるので「名詞」と言っても差し支えありません。
 この選択肢が正しいです。

 よって答えは4です。

(12)単義語と多義語

 単義語は一つの意味しかない語。例えば「高安動脈炎」「ハインリッヒの法則」「ナ形容詞」みたいに専門的な領域で使う専門用語は単義語です。
 多義語は複数の意味を持つ語のことです。「切る」と言っても、「指を切る」は切断、「トランプを切る」は混ぜる、「ハンドルを切る」は操縦などなど、「切る」は切断以外のいろんな意味があって多義語です。

選択肢1

 この選択肢は正しいです。次の例文を見てください。

 (1) 暖かい日 (触覚的な)
 (2) 暖かい色 (視覚的な)
 (3) 暖かい支援(抽象的な…)

 「暖かい」の第一義はたぶん触覚的な、温度が高くて気持ちいいみたいな意味なんですが、これが意味拡張して触覚以外の領域にも使えるようになっています。この点から見ると「暖かい」は多義語ですね。しかし、それぞれの意味について私たちはなんだか似ている、同じようだと感じると思います。これはメタファー隠喩)と関係があります。この選択肢が答え。

選択肢2

 活用したら意味が違うくなる? 試してみよう。

 (1) 暖かい日  (触覚的な)
 (2) 暖かかった日(触覚的な)
 (3) 暖かくない日(触覚的な)

 活用してみたけどどれも触覚的な意味の「暖かい」で、他の意味に変わることはありません。他に意味になるためには前後の語とどのように結合してるかが重要です。この選択肢は間違い。

選択肢3

 使用頻度の高い基本的な語、基礎語彙(日常生活において必要な使用頻度が高い語彙を主観的に選び出した語彙群)のことだと考えて良さそう。生活する上でよく使う言葉、例えば「眠る」を考えてみますと… 第一義として睡眠の意味がありますが、死を表すときもあるし、静的存在を表すときもあります。基本的な語彙は意味範囲が広いのでメタファーが生じやすく、多義語が多い傾向があります。初級で教えるような語はほとんど基本的な語彙ですが、学習者には教えられないような意味もたぶんに含んでます。他にも「甘い」とか。味覚の意味が第一義ですが、「判断が甘い」「認識が甘い」のような使い方もあってこれは初級では扱えないです。

 【睡眠】午後は眠いです。
 【死】 静かに眠っているようだ。
 【静的存在】 宝物が眠っている。

 この選択肢は間違い。

選択肢4

 最初に説明したように、専門用語は単義語が多いです。
 専門用語は科学的な分類に基づいて事物に名前が付けられています。他の事物と被らないように区別するために名付けられていますから、多義的だと問題があります。「高安動脈炎」「ハインリッヒの法則」「ナ形容詞」などですね。

 
 よって答えは1です。

(13)恣意的ではない音形と意味の結びつき

 よく言われる例は「りんご」です。
 日本語で上のイラストの食べ物を「りんご」と言いますけど、なんで「りんご」って言うんでしょうか。中国語ではなんで「苹果」って言うんでしょうか。英語ではなんで apple って呼ぶんでしょうか。その問いにあんまり大きな意味はなくて、簡単にいうと昔の日本人がこれに「りんご」って名前をつけただけ、昔の中国人がこれに「苹果」って名付けただけって話です。「りんご」という音とその音が指している意味の間には必然的な結びつきがない。つまり音形と意味の結びつきは恣意的なんです。何か必然的な結びつきがあるとすれば世界中の言語で赤くて丸い果物を「りんご」ないし「りんご」に近い発音で表すはずなんですが、実際そうではありません。ここでいう「恣意的」はそういう意味です。

 しかし、音と意味が恣意的に結びついていない例もあります。言い換えると、音と意味が必然的に結びついてるってこと。それはオノマトペです。

 ワンちゃんの鳴き声は日本語では「ワンワン」ですね。中国語でも wang wang です。英語は bowwow、ドイツ語は wau wau だそうです。
 このように各言語の音を比較してみるとなんだか似てませんか? どうやら音とその意味は強い結びつきがあるようです。
 それもそのはずで、私たちは同じ人間ですからみんな同じ聴覚器官と発声器官を持っています。ワンちゃんの鳴き声は同じように耳に届き、耳に届いた音をそのまま口で真似します。同じ人間が行うことなのでこの過程で大きな差は生まれません。だから大体世界中のどこの言語でもワンちゃんの鳴き声は似てるんです。これは「音と意味の結びつきが必然的だ」とか「音と意味に有縁性(motivated)がある」なんて言い方をします。

 1 「~について」などの文法的な意味を持った語のこと
 2 オノマトペのうち、実際に聞こえる音を実際に聞こえる音を文字で表現したもの。これが答え。
 3 物や場所、方角を指すこれ、それ、あれなど。指示詞、指示代名詞とも言います。
 4 言語の分類の一つ。ちょっとむずいしここでは関係ないので省略します。

 答えは2です。

(14)「犬」と「柴犬」の意味関係

 問題文に「包摂(ほうせつ)」と出てきてます。「犬」と「柴犬」は包摂関係にあります。包摂関係は簡単に言うと含み含まれる関係のことで、↑のようなイメージです。「犬」はそのカテゴリーにつけられた名前で、「犬」カテゴリーに含まれる犬種は実際にたくさんいます。このとき、より大きなカテゴリーにつけられた名前上位語あるカテゴリーに属する下位分類下位語と言います。

 だから「犬」は  上位語  で「柴犬」は  下位語  です。

 ちなみに同位語は「柴犬」「秋田犬」「トイプ」「チワワ」のように下位語同士の関係のことを言います。
 答えは3です。

(15)対義語

 久しぶりに対義語からの出題がありました! 似たような問題は 平成30年度 試験Ⅰ 問題3B まで遡ります。対義語の分類について以下の参考文献をご覧ください! とってもいい本です。

 参考文献:北原保雄(監)・斎藤倫明(編)(2018)『【新装版】朝倉日本語講座4 語彙・意味』朝倉書店

 簡単にまとめると次のようになります。

相補関係にもとづく対義語 一方が肯定されれば、他方が否定される関係が成り立つ対義語。
男⇔女、生⇔死…
両極性にもとづく対義語 物事の両極にある関係が成り立つ対義語。
満点⇔零点、南極⇔北極…
程度性をもつ対義語 中間点から相反する方向に段階的な連続性を持つ対義語。
大きい⇔小さい、長い⇔短い…
反照関係にもとづく対義語 一つの事柄や物事を異なる視点から捉えた関係の対義語。
上り坂⇔下り坂、貸す⇔借りる…
互いに相手を
前提とした対義語
一方の存在が、もう一方の存在によって成り立つ関係にある対義語。
先生⇔生徒、医者⇔患者…
変化に関する対義語 互いに逆方向への位置的な移動を表す対義語や互いに元の状態に戻る対義語。
上がる⇔下がる、登る⇔下りる、寝る⇔起きる、開ける⇔閉める…
開いた対義語 対立する点が明らかではないけど、日常生活の中で繰り返し対比されたことによって対義性を感じるようになった語のペア。
海⇔山、紅⇔白、和室⇔洋室…

 1 程度性をもつ対義語。このタイプは「とても」などの程度副詞で修飾できます。「とても明るい」とか。
 2 程度性をもつ対義語。「とても上手」など。
 3 相補関係にもとづく対義語 ※解説は下で
 4 反照関係にもとづく対義語。物のやり取りを売るほうから見れば「売る」、買うほうから見れば「買う」

 選択肢3の「出席-欠席」は相補関係にもとづく対義語で、一方が肯定されれば他方が否定、一方が否定されれば他方が肯定されるタイプの対義語です。つまり「出席する」と言えば「欠席しない」だし、「出席しない」といえば「欠席する」ってことです。出席するかしないかの2択しかないから、一方を肯定すればもう一方が必ず否定されます。物事を綺麗に2分するとこのタイプの対義語になります。

 よって答えは3です。




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 丁寧な解説ありがとうございます。
    私54歳で日本語の教師の試験を受けてみようと思って勉強しています。日本語教育能力検定試験完全攻略ガイドヒューマンアカデミー様の本購入して勉強していますが、音韻関係などわからないところがあると何回読んでも理解できず、勉強もなかなか進まなくて停滞しております。過去問を気分を変えてやりはじめて初めてこのサイトを発見し、あまりにも解説がわかりやすいのでほんとに助かってます。このサイトを活用しながら過去問題楽しく解いていければと思っています。今後もよろしくお願いします。

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