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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

問1 超分節的特徴

 この答えは1、超分節的特徴です。

 超分節的特徴とは、複数の音にまたがって付加されている音声的特徴のことです。例えば「かえる([kɑeɾɯ])」は、その音が実際発音されるとき、その音にアクセント、イントネーション、リズム、トーン、テンポ、ポーズ、声質などの要素(プロソディ)が付加されて発音されます。アクセントが付加されて「高低低」となれば「帰る」の意になり、「低高高」となれば「蛙」になります。また、語末に上昇調のイントネーションを加えると「かえる⤴」と疑問調になったり、ポーズを入れて「か え る」と話せば子どもに向けた話し方になったりします。

 問題文にある「ポーズ」はプロソディの一種で超分節的特徴の一つです。

問2 単音の規範的な調音法で生じる無音区間

 下線部Aに「調音法」とあるのでこれをヒントに考えてみます。日本語の標準語では破裂音破擦音弾き音鼻音摩擦音接近音の6つの調音法が使われています。この問題はこれらの調音法のうち、無音を生じさせるものはどれか、と聞いています。

 調音法に関わるものとして子音から説明します。子音は肺からの呼気を声道のどこかで妨げる音です。その妨げる方法は上述の6つあるわけですが、これらは肺からの呼気を妨げる度合いがそれぞれ違います。肺からの呼気を完全に止めるようなものもあるし、狭めを作るだけで完全に止めないようなものもあります。

破裂音 閉鎖を作って、呼気を一瞬完全に止める
破擦音 閉鎖を作って、呼気を一瞬完全に止める
弾き音 瞬間的な閉鎖を作って、呼気を一瞬完全に止める
鼻音 閉鎖はあるけど、呼気が鼻に通って共鳴する
摩擦音 閉鎖せずに隙間を作って、そこに呼気を通し乱流を起こす
接近音 乱流が起きないほどの隙間を作ってそこに呼気を通す

 調音点で閉鎖を作って肺からの呼気を完全にせき止めるような調音法は破裂音、破擦音、弾き音の3つです。鼻音は調音点で閉鎖を作りますが、代わりに口蓋垂を下げて確保した鼻腔への通路をに呼気を流して音を出すので、肺からの呼気を完全にせき止めることはしません。肺からの呼気を完全にせき止めるとその瞬間無音が生じます。音は空気の流れで生まれるので、空気の流れが止まったら音がなくなるのは当然です。よって破裂音、破擦音、弾き音は下線部Aがいう「無音区間」を生じさせる調音法です。

 (1) [ikɑ] (イカ)
 (2) [iɰɑ] (岩)

 例えば、破裂音[k]が含まれる「イカ」とそうではない「イワ(岩)」を比較してみましょう。
 「イカ」とゆっくり言ってみてください。すると「カ」の前に無音区間があるはずです。しかし「イワ」はゆっくり言っても無音区間はありません。なぜなら [iɰɑ] には無音区間を生じさせる調音法をとる子音は含まれていないからです。

 というわけで、各選択肢に破裂音、破擦音、弾き音があるかどうか確認してみましょう。

 1 [ɯmi]  → 鼻音[m]
 2 [ɑkɑ]  → 破裂音[k]がある!
 3 [ɲiwɑ] → 鼻音[ɲ]と接近音[w]
 4 [nɯmɑ] → 鼻音[n][m]

 選択肢2だけ破裂音がありました。確かに「あか」の「か」を言う直前、破裂の準備として歯茎で閉鎖を作り呼気を止めます。その瞬間が無音区間です。
 したがって答えは2です。

問3 曖昧文の統語構造を分かりやすくするポーズ

選択肢1

 「東京の友達の/お姉さんが遊びにきた」は、東京にいるのが友達であることを示します。
 逆です。

選択肢2

 正しいです!
 「警官は/必死に逃げる犯人を追いかけた」と言えば、「必死に」は「逃げる」のほうを修飾します。その「逃げる」は「犯人」を修飾しているので、必死だったのは犯人という解釈になります。

選択肢3

 「昨年あの家を建てた/建築士は引退した」はポーズの位置自体がおかしい。
 この文はポーズを入れなくても”建築士がしたことは家を建てた”ことを示します。

選択肢4

 食べたのが「この前」であることを示すためには、「この前/淑母からもらった桃を食べた」とならないといけません。

 したがって答えは2です。

問4 プロソディー

 プロソディはアクセント、イントネーション、リズム、トーン、テンポ、ポーズ、声質などの要素を指します。

選択肢1

 周波数の形をピッチパターンと言います。周波数、つまり声の高さ。
 ひとまとまりのフレーズで大体への字になるのが日本語の特徴です。この選択肢は正しい。

選択肢2

 新明解のアクセント辞書によると、「日が」のアクセントは2種類あります。
 日が沈む、日に焼ける、日が長いなどの「日が」は「低高」のアクセント。ただし、「日」が時代や一日、場合などを表すとき、または「~の日」のような形になるときは「高低」のアクセントになります。「運動会の日は」「過ぎ去った日が」などなど。
 一方、「火が」は常に「高低」です。
 アクセントが同じときもありますが、違うときもある。アクセントが違うときは語の意味の区別にアクセントがかかわっていると言えるのでこの選択肢は正しいです。

選択肢3

 「とうと」のアクセント核は語末の「と」の後ろにあります。「と」は確かに高いですが、大きく上昇して高くなっているわけではありません。それまでの高さをほぼ維持したまま。この選択肢は間違い。

選択肢4

 「食べますか」が疑問を表すのは文末上昇調イントネーションで「食べますか⤴」のようになるとき。この選択肢は正しいです。

 よって答えは3です。


問5 ポーズの入れ方

選択肢1

 一定時間じゃなくて、必要なところに入れるよう指導してください。
 例えば統語関係をはっきりさせたいときとか。

選択肢2

 ピッチが上がるか下がるかはアクセントやイントネーションなどによるものです。ポーズとは関係なし。

選択肢3

 「彼/は食堂/でご飯/を食べた」みたいに助詞の前でいちいちポーズよう指導するのは間違い。
 分かりやすい発話にしたいのなら助詞の後にポーズを入れたらどうでしょう。
 「彼は/食堂で/ご飯を/食べた」みたいに。

選択肢4

 正しいです。文と文の間なら短めのポーズを入れて、段落と段落の間なら長めのポーズを入れるとか。

 したがって答えは4です。




コメント

コメント一覧 (10件)

  • 問2、私は選択肢2を選びました。
    問題文に「先をさっきのように発音してしまう誤用は、閉鎖区間が日本語の母語話者の規範よりも長く」とあります。つまり閉鎖区間のある調音法が、無音区間を生じるという意味だと解釈したので、無性子音の含まれる2だと思いました。

  • 問4は選択肢2を選びました。
    私は関西人なのでアクセントにはあまり自信はないのですが、「日が長い」という文で考えたとき
    「日が」は低高な気がします。
    選択肢3は、アクセント核のあるモーラの次の音(おとうとはの「は」)でたしかにピッチは下がりますが、
    アクセント核のあるモーラ(おとうとの『と』で、ことさらピッチが「大きく」上昇することはなく『おとうと』は平たんだと思います。

  • 問題2問4は不適当なものを選択肢3にしました。
    アクセント核は「と」ですが、この拍でピッチは大きく上昇しません。尾高型で「は」で下がるだけです。

      • 問題文に「意図的なポーズには、曖昧文の統語構造を分かりやすくする機能などがある。この機能は、プロソディーによっても実現できる。」とあります。選択肢2の「火」と「日」では、たしかに語の音素的な表記「ひ」だけでは意味の区別はできませんが、助詞「が」を付けるとアクセントの型が異なり、語の意味の区別にアクセントが影響します。これはプロソディーの特徴と言えます。

          • 『火は使わない』の「火は」のアクセントは高低。『日はまた昇る』の「日は」のアクセントは低高です。

          • >レキシさん
            確かにそうですね! ご指摘いただき、答え3の可能性が高まりました。

            最後にもう一つお聞きしたいことがあります。
            私は試験会場で「運動会の日は」の「日は」は「高低」だと思い、この解説を書いています。この点どう思われますか?

  • 先生ご指摘のように「運動会の日は」の「日は」は高低アクセントになります。ただ、「運動会の火は」だと文脈から意味不明なので曖昧にはなりません。この問題の選択肢2の記述は、「語の意味の区別にアクセントが影響する」とあります。統語構造を分かりやすくするプロソディーの特徴として、例えば、「火がありますか?」と「日がありますか?」と音が同じ文を比較した場合、前者は高低アクセントで後者は低高アクセントとなり、語の意味の区別にアクセントが影響していることは間違いありません。

    • >レキシさん
      わざわざお答えいただきありがとうございます!
      参考にさせていただきますね。

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