6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

調音法とは?

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調音法(manner of articulation)

 子音を分類するにあたって、肺臓からの呼気の流れが声道のどこで妨げられるかで分類したのが調音点だったのに対し、肺臓からの呼気の流れがどのくらい妨げられるかで分類するのが調音法(manner of articulation)です。日本語標準語に現れる調音法は破裂音(plosive)、鼻音(nasal)、弾き音(tap or flap)、摩擦音(fricative)、接近音(approximant)、破擦音(affricate)の6つです。日本語標準語に現れる調音点と調音法をまとめると次のようになります。

両唇音
(Bilabial)
歯茎音
(Alveolar)
歯茎硬口蓋音
(Alveolo-palatal)
硬口蓋音
(Palatal)
軟口蓋音
(Velar)
口蓋垂音
(Uvular)
声門音
(Glottal)
破裂音
(plosive)
[p] [b] [t] [d] [k] [g]
鼻音
(nasal)
[m] [n] [ɲ] [ŋ] [ɴ]
弾き音
(tap or flap)
[ɾ]
摩擦音
(fricative)
[ɸ] [s] [z] [ɕ] [ʑ] [ç] [h]
接近音
(approximant)
[j] [ɰ]
破擦音
(affricate)
[ts] [dz] [tɕ] [dʑ]

 ※白背景は無声音灰色背景有声音

調音法の分類(暫定)

 子音の調音法は、口腔における狭窄(狭め)の程度によって、完全な閉鎖が作られるものと、閉鎖せずに隙間があるものの2つに分けられます。この2つはさらに細分類化されます。
 口腔内で完全な閉鎖が作られるものは、口蓋帆が持ち上がって鼻腔(nasal cavity)への通路を塞いでいる閉鎖音(stop)と、口蓋帆が下がっていて鼻腔への通路が開き、気流が鼻に抜ける鼻音(nasal)に分けられます(*2)。さらに閉鎖音は、閉鎖によって圧縮された呼気が閉鎖の開放によって勢いよく放出される破裂音(plosive)と、閉鎖を緩やかに開放した後に同じ調音点で狭めを作り摩擦を生じさせる破擦音(affricate)の2種類に分けられます(*3)。破裂音を閉鎖音と呼ぶ場合もあります(*4)。

 口腔内で閉鎖せず隙間があるものには、摩擦音接近音があります(*5)。隙間が極端に狭く、2つの調音器官が閉鎖寸前にまで近づいた状態の調音法を摩擦音(fricative)と言います。摩擦音は狭い隙間によって呼気が乱気流を起こし、摩擦の音が生じます。摩擦音が生じない程度のやや広い狭めを作る調音法を接近音(approximant)、あるいは半母音(semivowel)と言います(*6)。接近音は呼気が口の中央を通過する中線的接近音(central approximant)(*7)と、口の中央が塞がれていて側面が開いている側面接近音(lateral approximant)に分けられます。日本語の /j,ɰ/ にあたる中線的接近音は単に「接近音(approximant)」と呼ばれます。日本語にはないですが、英語の look の [l] は側面接近音で、単に側面音(lateral approximant)と呼ばれます。

 閉鎖音でも鼻音でもないものの、瞬間的な閉鎖を伴うものに弾き音(tap or flap)とふるえ音(trill)があります。これらの扱いは議論が分かれているようです。弾き音は一度だけ瞬間的に閉鎖を伴い、ふるえ音は2回以上の瞬間的な閉鎖が連続します。

参考文献

 斎藤純男(2019)『日本語音声学入門 改訂版』21-24頁.三省堂
 城生佰太郎(2008)『一般音声学講義』102-109頁.勉誠出版
 服部義弘(2012)『朝倉日英対照言語学シリーズ 2 音声学』46-63頁.朝倉書店
 THE INTERNATIONAL PHONETIC ALPHABET (revised to 2020)

 (*1)調音法の大分類について、斎藤(2019: 21)は口腔内に閉鎖がつくられるものと、口腔内に隙間が残されるものの2つに大きく分類しています。城生(2008: 102)も呼気流を完全にせき止めるか、せき止めないかの2つに分類し、前者を「瞬間音」、後者を「持続音/継続音」と呼んでいます。一方、服部(2012: 52)では狭窄の程度によって「完全な閉鎖」「近接」「開きの広い近接」の3つに分類しています。
 (*2)服部(2012: 52)は口腔を完全に閉鎖する音を、鼻腔への通路が閉ざされた閉鎖音(stop)と、呼気が鼻腔へ通り抜ける鼻音(nasal)に分けています。城生(2008: 103)も破裂音(閉鎖音)と鼻音(鼻的破裂音)の2つに分けています。ところが斎藤(2019: 21)は破裂(破裂音と鼻音)、ふるえ、はじきの3つに分けています。
 (*3)服部(2012: 52)は、閉鎖音を破裂音(/p,b,t,d,k,g/)と破擦音(/tʃ,dʒ/)の2種類に分けています。ここではそれに従いました。
 (*4)城生(2008: 103)は「破裂音(閉鎖音)」と表記していますが、服部(2012:52-54)は「閉鎖音」と「破裂音」を区別し、破裂音と破擦音をまとめて「閉鎖音」と呼んでいます。
 (*5)斎藤(2019: 21)はふるえ音とはじき音を口腔内に閉鎖がつくられるものに分類していますが、城生(2008: 104)は口腔内に隙間があるものに分類しています。一方、服部(2012: 53)は、調音法を「完全な閉鎖」「近接」「開きの広い近接」に分類していますが、ふるえ音や弾き音がこの3つのどれに分類されるか明言していません。ふるえ音、弾き音も瞬間的に閉鎖する点を考慮すれば斎藤の分類を支持する理由も分かりますが… これについては三者三様のまとめ方をしていたので、私は服部の中間的な扱い方を採用することにしました。
 (*6)服部(2012: 46)では、接近音(approximant)の古風な用語として半母音(semivowel)があると述べています。
 (*7)斎藤(2019: 21)は「中線的接近音」と呼び、服部(2012: 53)は「正中面接近音」と呼んでいます。




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