平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題4解説
問1 清音と濁音で意味の違いを生じない言葉
清濁で意味の違いが生じているかどうか見ます。
選択肢1
「ひとこと」は「一言」、「ひとごと」は「他人事」で意味が全く違います。この選択肢は間違い。
選択肢2
写真などを見ながら過去を想起して「このころは良かった」だと写真の中の時代を指していますが、「このごろ流行りの女の子」だと最近の意なので意味が違います。この選択肢は間違い。
選択肢3
「そのくらい我慢してよ」と「そのぐらい我慢してよ」は同じ意味です。清濁で意味が変わっていない例です。これが答え。
選択肢4
「かくしつ」は「確執」や「角質」、「かくじつ」は「確実」で意味が違います。この選択肢は間違い。
答えは3です。
問2 歴史的に濁音で始まる語
選択肢1
「ぶた」の語源の説はいくつかあるようなんですが、参考文献にあたっても「のぶた」から変化した説はありませんでした。この選択肢は不適当です。
選択肢2
『大辞林第四版』には「だれ」は古くは「たれ」だったと書かれています。「だれ」になったのは近世以降だそうです。この選択肢は適当。
選択肢3
『日本語源広時点[増補版]』によると、「だす」の語源は「いだす(出す)」から。この選択肢は適当です。
選択肢4
『大辞林第四版』によると、「どこ」はかつて「いどこ」で、それよりも前は「いづこ」だったそうです。選択肢には「いづく」と書いてますが、違う語源辞典にあたるとそう書かれているかもしれません。
答えは1です。
《参考文献》
前田富祺(2005)『日本語源大辞典』小学館
増井金典(2012)『日本語源広時点[増補版]』
松村明・三省堂編修所(2019)『大辞林第四版』三省堂
問3 連濁が発生する条件
連濁の条件についての問題です。問題文には「尾鰭」で例を挙げていますが、日常生活であんまり馴染みのない語彙なので分かりにくい…。問題文には次のように書かれています。
魚の尾の鰭という意味の「尾鰭」と、「魚の体の後端にある鰭」という意味の「尾鰭」では、連濁の有無が異なる。
しかしルビが振られていないので、どっちの「尾鰭」が「おひれ」で「おびれ」なのか分からなくなっています。ちなみにこの問題は玉村(2018: 216-217)に書かれている内容からの出題で、これによると<さかなの尾とひれ>を指すのは「尾ひれ」で、<さかなの尾の部分についているひれ>は「尾びれ」だそうです。「おひれ」は「尾」と「ひれ」が対等で複合しているので結合の度合いは低く、連濁は生じません。一方「尾びれ」は「ひれ」を修飾する働きを持っているので前後の結合が強く、連濁します。
分かりやすい例で解説します。連濁は、複合語の前部要素と後部要素に修飾関係や格関係があるときに生じやすくて、並列関係のときは生じにくいという特徴があります。例えば次の例を見てください。
(1) 黒染め <修飾関係>
(2) 山川 <並列関係>
(1)は「黒に染める」と言えるので、前部要素が後部要素を修飾しています。この構造では連濁が生じています。(2)は「山と川」に言い換えられ、前部要素と後部要素が独立していて並列関係にあります。この構造では連濁は生じていません。複合語の前部要素と後部要素の意味的な結合度が高ければ、すなわち修飾関係や格関係がある場合は連濁が生じやすく、結合度が低ければ(並列関係の場合は)連濁は生じにくくなります。
よって ア には「修飾構造」、 イ には「並列構造」が入ります。
答えは3です。
《参考文献》
玉村文朗(2018)「対照語彙論」『朝倉日本語講座4 語彙・意味』216-217頁,朝倉書店
問4 連濁が発生する条件②
「リゾートホテル」がどうして連濁を起こして「リゾートボテル」とならないのか、その理由は「ホテル」という語の特徴にあるそうです。
選択肢1
「ホテル」という語は確かに子音 [h](声門摩擦音)から始まりますが、同じく声門摩擦音から始まる「仏(ほとけ)」は「無縁仏」のような複合語では連濁しています。「声門摩擦音から始まるものは連濁しにくい」という選択肢1の仮説は間違っています。この選択肢は間違い。
選択肢2
「ホテル」は外来語だから連濁しない、という選択肢2の仮説は正しいです。例えば、同じく外来語の「コップ」は「紙ゴップ」と連濁しないし、「テレビ」は「液晶デレビ」と言ったりしません。連濁は和語に起きやすく、漢語や外来語には起きにくいという特徴があります。この選択肢が答えです。
選択肢3
「ホテル」は3モーラだから連濁しにくい、という選択肢3の仮説は間違っています。なぜなら同じく3モーラの「光」は「黒光り」で連濁するし、3モーラの「帰り」は「朝帰り」で連濁します。3モーラと連濁には関係がありません。この選択肢は間違い。
選択肢4
片仮名表記は連濁しにくい、という仮説も間違っています。例えば連濁している「祝い酒(いわいざけ)」を片仮名表記にしたところで連濁しなくなるわけありません。表記は言語そのものの規則ではなく、人間が決めた規則だから音韻現象である連濁とは関係ないものです。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問5 連濁が発生する条件③
問題文で、「えりまき」と「とかげ」を複合しても、「えりまきどかげ」にはならない(連濁しない)し、「ひとり」と「たび」で「ひとりだび」にもならないと言っています。この例から連濁を生じにくくする要因が分かるらしいですが、たぶんライマンの法則の知識がないとこの問題は分からないはずです。ライマンの法則とは、複合語の後部要素にもとから濁音が含まれている場合は連濁は起こらない、という連濁を阻害する要因に関する法則のこと。「えりまきとかげ」と「ひとりたび」の後部要素「とかげ」と「たび」にはもともと濁音が含まれています。このような場合はライマンの法則にしたがって連濁しないというわけです。
後部要素の「とかげ」「たび」には既に濁音が含まれているってことに注目させるのが正解。
答えは3です。
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