平成29年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説
問1 拘束形式
独立形態素と拘束形態素、自由形式と拘束形式に関する知識が必要です。詳しい説明はリンク先をご覧ください。ここでは簡単に説明します。
まず、形態素はそれが単独で語になれるかどうかで独立形態素と拘束形態素に分けられます。「電子不足性」は {densi} {husoku} {sei} の3つの形態素からなりますが、このうち {densi} は単独で「電子」という語になれますし、{husoku} も単独で「不足」という語になれるから独立形態素です。一方、{sei} は単独では語になれず、他の形態素について語の一部として現れることができるので拘束形態素です。
形態素の一つの実現体である形態は、独立して現れることができる形態かどうかで自由形式と拘束形式に分けられます。「電子不足性」における形態素の実現体である /densi/, /busoku/, /sei/ で言えば、/densi/ は独立して現れる形態なので自由形式です。 形態素 {husoku} は /densi/ に後続することで /busoku/ という形態になりますが、仮に単独で用いた場合は /husoku/ という形態で現れます。つまり /busoku/ は他の形態について現れるときの有標な形態であり、拘束形式です。拘束形態素である /sei/ は独立して現れることができない形態なので拘束形式となります。
この観点から各選択肢を見ていきます。
選択肢1
「金髪」の前部要素の形態素 {kin} は「金」という語になれるので独立形態素。
「金髪」の後部要素の形態素 {hatu} は「髪」という語になれるので独立形態素。
/kin/ は単独で使ったときに現れる形態なので自由形式。
/patu/ は「金」や「銀」などの特定の語について現れる有標の形態なので拘束形式。
この選択肢は間違いです。
選択肢2
「酒蔵」の前部要素の形態素 {sake} は「酒」という語になれるので独立形態素。
「酒蔵」の後部要素の形態素 {kura} は「蔵」という語になれるので独立形態素。
/saka/ は「蔵」や「場」などの特定の語について現れる有標の形態なので拘束形式。
/gura/ は「酒」などの特定の語について現れる有標の形態なので拘束形式。
この選択肢が答えです。
選択肢3
「雛祭り」の前部要素の形態素 {hina} は「雛」という語になれるので独立形態素。
「雛祭り」の後部要素の形態素 {maturi} は「祭り」という語になれるので独立形態素。
/hina/ は単独で使ったときに現れる形態なので自由形式。
/maturi/ は単独で使ったときに現れる形態なので自由形式。
この選択肢は間違いです。
選択肢4
「花曇り」の前部要素の形態素 {hana} は「花」という語になれるので独立形態素。
「花曇り」の後部要素の形態素 {kumori} は「曇り」という語になれるので独立形態素。
/hana/ は単独で使ったときに現れる形態なので自由形式。
/gumori/ は「花」などの特定の語について現れる有標の形式なので拘束形式。
この選択肢は間違いです。
よって答えは2です。
「形態素」と「形態」は意味が違うので注意してください。
問2 音韻的に異なる要素
選択肢1
「生年月日」と「月曜日」の「日」は同じ形態素 {hi} ですが、実現体である形態はそれぞれ /pi/ と /bi/ で違います。音韻的に異なる要素なので適当。この選択肢は間違いです。
選択肢2
「歯」も「葉」は /ha/ ですが、アクセントまで考慮すると拍の高さが異なります。「歯が」は「高低」、「葉が」は「低高」で発音されます。音韻的に異なるのでこの選択肢は間違いです。
選択肢3
/ha/ と /wa/ で違う音です。この選択肢は間違い。
選択肢4
「おでん」の「お」は /o/ 、「彼を」の「を」は /o/ で同じ。
この選択肢が答え。
答えは4です。
問3 一定の音韻的な環境で交替する例
選択肢1
「毛」が /ke/ と読むときと /ge/ と読むときには一定の音韻規則があるかどうかですが、それを記述して一般化するのは難しいです。この選択肢は間違い。
選択肢2
「一」がどのようなときに /iti/(いち)と読み、どのようなときに /iQ/(いっ)と読むかは後続音によります。例えば「一回」「一杯」「一体」「一切」などは「いっ」と読みますが、「一難」「一方向」「一枚」などは「いち」です。「一」の後続音が子音 /k,s,t,p/ が来るときは「いっ」と読むので、一定の音韻規則があると言ってもいいです。この選択肢が答え。
選択肢3
「木」が /ki/ や /ko/ になることに規則を見出すのは難しいです。この選択肢は間違い。
選択肢4
「行」が /gyoR/(ぎょー)や /koR/(こー)になることに規則を見出すのは難しいです。この選択肢は間違い。
答えは2です。
問4 擬音語・擬態語に見られる音韻交替
擬音語・擬態語には、音韻交替によって「動作が瞬間的であること」と「動作が滑らかでゆっくりであること」が表せるものが少なくありません。例えば「ポロッ」は瞬間的で「ポロリ」はゆっくり、「くるっ」は瞬間的で「くるり」はゆっくり、「ぷすっ」は瞬間的で「ぷすり」はゆっくりな動作を表します。ちょうと「~ッ」が瞬間的、「~り」がゆっくりな動作を表していて、この音韻交替によって意味の違いが生じています。
したがって答えは3です。
問5 文法的な機能の違いが生まれる音韻交替
音韻交替によって文法的な違いが出るものを選択肢から探します。
選択肢1
/nokosu/ と /nokoru/ では /s/ と /r/ が交替しています。これによって他動詞と自動詞の違いが生まれ、文法的な機能に違いも出ます。
他動詞「残す」はヲ格を取って「~が~を残す」と言いますが、自動詞「残る」はガ格を取って「~が残る」といいます。音韻交替によって動詞が変わり、取るべき格助詞も変わりました。この選択肢が答え。
選択肢2
「彼女はさびしがっている」と「彼女はさみしがっている」は同じ意味です。文法的な違いもありません。
選択肢3
/watasu/ と /watasareru/ は /asu/ と /asareru/ で音韻交替が起きているとみることができます。
「渡す」は「~が~に~を渡す」という文型をとりますが、「渡される」も「~が~に~を渡される」という文型をとります。音韻交替によって格関係は変わりませんでした。
「渡す」と「渡る」だったらこの選択肢は正解になるんだけど。
選択肢4
/tomeru/ と /yameru/ は /to/ と /ya/ で音韻交替が起きてます。
他動詞「とめる」はヲ格を取りるから「~が~をとめる」
他動詞「やめる」はヲ格を取りるから「~が~をやめる」
音韻交替によって文法的な違いは生まれません。
答えは1です。
コメント
コメント一覧 (8件)
独学なので、たいへんお世話になっております。ありがとうございます。
問2についてですが、「音韻的に異なる要素」とあるので、
1 [pi] と [bi] 異なる
3 [ha] と [wa] 異なる
4 [o] と [o] 同じ
と判断するのだと思いました。
2は [ha] と [ha] で同じなので最初わからなかったのですが、助詞「が」が付くと、
「歯が」は高低
「葉が」は低高
になるので、そこが音韻的に異なるということかと考えましたが、いかがでしょうか。
>薩摩さん
この問題をもう一度見直してみたのですが、音韻的に異なる要素と言いながら、私は形態素の方面から解説を書いていて変だなと思いました。やはり以前コメントいただいたkouさんの考え方がどうもしっくりきます。
答えは4ですが、なぜ2も正しいと思われたのか教えていただけますでしょうか。
いつも参考にさせていただいています。
ありがとうございます。
問1ー1の自由形態素、拘束形態素の違いなのですが、ごちゃごちゃしてしまって…すみません教えていただければと思います。
選択肢1の髪ですが、「かみ」と訓読みで読んだら単独で使えるので独立形態素、「はつ、ぱつ」と読ませると単独では語として使えない?通常使わない?ので拘束形態素かと思ったのですが…
漢字は読み方に訓音があるものが多く、訓読みの時は単独で語として使えて、音読みをすると独立で使うことがあまりないように思うのですが。
先生の解説や赤本を見ていると、拘束形態素は接頭語接尾語、動詞形容詞の活用部分、その他のものは自由形態素(音訓読みは気にせず)と分ければ良いのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
>noliさん
音読みと訓読みは関係ありません。単独で語になれるかどうかが自由形態素と拘束形態素を分ける境目です。
拘束形態素は接辞だと覚えてください。
接辞は「お電話」の「お」のような接頭辞や、「造語性」の「性」のような接尾辞、それから「食べる」の活用語尾「る」、「食べない」の「ない」なども屈折接辞と言って、これも接辞です。
これらは単独で語になれません。例えば「お電話」の「お」は美化語として丁寧さの度合いを高める機能がありますが、それは「電話」についてやっとその意味を持ちます。ですから「お」は単独で語にはなれないのです。接辞は全て、何か他の語についてやっと意味を持つので、その使用が拘束的、すなわち拘束形態素です。
髪は「かみ」「はつ」「ぱつ」と読めますが、これは接辞ではありませんので自由形態素です。
ちなみに髪の最も一般的な読み方は「かみ」で、これが自由形式です。
「はつ」や「ぱつ」は最も一般的な読み方とは言えないので拘束形式です。
お忙しいところ解説していただき、ありがとうございました。
何時もありがとうございます。
独立形態素と自由形態素について
先生の説明の中で{kin}は、独立形態素となるためには 金にも巾にも菌にもなれるから、とのご説明でした。
私は、金髪の金は、それ自体で語になれるので、独立形態素の自由形式と判断していましたが、それでは間違いなんでしょうか。
また、{kin}が金巾菌になれるというところがよくわかりません。
また、金は、訓読みでかねと読みます。カネ髪とは言わないですね。
この場合は、訓読みでは判断しないのでしょうか。基本的なことですみません。
>塩饅頭さん
単独で現れることができる形態素は自由形式、単独で現れることができない接辞などの拘束形態素は拘束形式と呼んでいます。
例えば「金(きん)」という言葉は、「金」髪、「金」メダル、「金」色など、いろんな要素として自由に現れることができます。
仮に「髪」がなくても「きん」ですし、「メダル」がなくても「きん」ですし、「いろ」がなくても「きん」です。その他の要素の影響を受けず、単独で現れるので自由形態素です。
訓読み「金(かね)」もそうです。「金」持ち、お「金」など。
でも「金(がね)」ならどうでしょう。有り金、筋金など…。これらは「がね」と読みますよね。
仮に「有り」や「筋」がなくて「金」だけの状態だったら、「がね」と読みません。
「がね」と読むのは「有り」や「筋」と一緒に現れているからです。つまり「がね」はその使い方が不自由で単独で現れることができない拘束形式ということになります。
訓読みであるか音読みであるかは関係ありません。
他にも…
「原」という字は、「はら」「わら」「ばら」などの読み方がありますよね。原っぱ、藤原、海原など。
このうち単独で現れることができるのは「はら」だけです。これが自由形式。
それ以外の「わら」や「ばら」はほかの語がないとこのように読みませんので拘束形式です。
簡単に言えば、ある漢字の最も普通の読み方が自由形式で、普通ではない読み方が拘束形式です。
先生、ありがとうございました。
ご丁寧な説明、やっとやっと 理解できました。
去年試験受けはしたのですが、内容を十分理解しているかが問われていたと実感しました。
あと少しで試験ですが、是非合格したいです。