根本的相違仮説(Fundamental Difference Hypothesis)
Bley-Vroman(1989: 43-49)は、成人の第二言語習得に見られる特徴を子どもの第一言語習得と比較して次の9つ挙げています。
①Lack of success(成功の欠如)
成人の第二言語習得は完全な習得が不可能で一般的に成功が保証されていないですが、子どもの第一言語習得は成功が保証されています。これは子どもの成人の言語習得過程が同じであるという見解を否定するものです。
②General failure(一般的な失敗)
成人の第二言語習得において、目標言語のアクセントや微妙な文法性判断を伴う能力の完全な習得は極めて稀、あるいは不可能かもしれません。
③Variation in success, course, and strategy(成功、過程、戦略の多様性)
成人の場合、年齢、経験、指導が同じであっても、成功の度合いにはわずかながらばらつきがあり、また失敗の度合いも異なります。しかし、子どもの第一言語習得にはばらつきがありません。
④Variation in goals(目標の多様性)
成人の第二言語習得では、その目標が多様です。語彙量を重視する人もいれば、会話を重視する人もいるし、初歩的な文法規則のみを身につけただけで話者のコミュニケーションのニーズをうまく満たしていたり、あるいは母語話者のようになることを目標として学んでいる人もいます。しかし子どもは自分自身の目標を設定することをコントロールすることができません。
⑤Fossilization(化石化)
第二言語習得では化石化が生じますが、子どもの第一言語習得には起こりません。
⑥Indeterminate intuitions(不確定な直感)
かなり多くの場合、非常に上級の第二言語学習者でも明確な文法性判断を伴う能力が習得されていないことがあります。
⑦Importance of instruction(指導の重要性)
子どもが第一言語を学ぶのに指導は明らかに必要ありませんが、成人は必要です。(ただし、成人に指導が必要かどうかは議論する余地があるとしています)
⑧Negative evidence(否定証拠)
子どもの第一言語習得では一貫して否定証拠を使用しておらず、それに全く依存していません。実際、否定証拠が使用されなくても第一言語習得の成功は可能です。しかし第二言語習得では否定証拠が用いられます。
⑨Role of affective factors(情意的要因の役割)
第二言語学習者には、性格や動機づけなどの情意的要因が習得を促進するものとして不可欠ですが、子どもの第一言語習得には不要のようです。
こうした一般的な特徴から、子どもの第一言語習得を導く言語習得システム(文法獲得能力を司る、いわゆるUG)が大人には利用できないという仮説が導かれます。これをBley-Vroman(1989: 50)は根本的相違仮説(Fundamental Difference Hypothesis)と呼びました。要するに子どもが母語習得をするときに使用するUGは年齢とともに衰えるため、成人になってから第二言語を習得しようと思ってもすでにUGは使用できなくなっており、それが使用できないので習得が不完全に終わってしまうと考えます。また、Bley-Vroman(1989)は成人が幼児にはない能力を持っているという事実がなければ、この仮説は正しいと言えるとも主張しています。
根本的相違仮説に対して、子どもの第一言語習得と成人の第二言語習得は根本的に同じであるという考え方を根本的類似仮説(Fundamental Similarity Hypothesis)と言います(小柳 2004: 143)。
参考文献
小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』143頁.スリーエーネットワーク
白畑知彦・若林茂則・村野井仁(2010)『詳説 第二言語習得研究 理論から研究法まで』12-16頁.研究社
Bley-Vroman, R. (1989). What is the logical problem of foreign language learning? In S. Gass & Schachter (Eds.) Linguistic perspectives on second language acquisition (pp. 41-68). Cambridge UK: Cambridge University Press.

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