6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

肯定証拠と否定証拠について

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肯定証拠と否定証拠について

肯定証拠(positive evidence)

 肯定証拠(positive evidence)とは、学習者が目標言語の学習において「その言い方は正しい」「その言い方は学習してもいい」ということを示す情報のことです。

 これは私の経験ですが…
 中国のスーパーで買い物をするとき、レジで店員さんにレジ袋が欲しいことを言いたい場面がありました。私は中国語母語話者ではないのでどのような表現が自然なのかは分かりませんが、分からないながらも「给我一个袋子」ではないかと予想しました。しかし、これはあくまで予想であり、正しいか正しくないかはまだ分かりません。そこで私は、会計をする中国人たちの発話をレジの近くで観察することにしました。そうすることで次の2つの言い方を得ました。

 (1) 我一个小袋子
     私に一つ小さな袋をください
 (2) 一个小袋子
     小さな袋を一つ取ってください

 (1)の言い方は私の予想が正しかったことを証明してくれました。言い換えると、私は「中国語母語話者は(1)のような言い方をするんだ」というインプットが得られ、そのインプットは私にとって「『给我一个小袋子』は正しい表現である」という肯定証拠となっています。
 それと同じく(2)のような「拿」(取る)という動詞を使って袋を要求する言い方も見られました。直感では「给我」かと思っていましたが、実際は(2)のように言う人もいます。このインプットもまた私に「『拿一个小袋子』は正しい」という肯定証拠を示してくれました。

 このように「何が正しいか」という肯定証拠はインプットからたくさん得られます。幼児の母語習得の場合、基本的に肯定証拠によって習得が起きていると考えられています。

否定証拠(negative evidence)

 否定証拠(negative evidence)とは、学習者が目標言語の学習において「その言い方は間違っている」「その言い方は学習してはいけない」ということを示す情報のことです。

 これも私の経験です。
 中国の学生と中国語で話していたときに、飲み物を飲んで私が「好吃(おいしい)」と言いました。すると学生は次のように言いました。(一字一句同じかは覚えてないけど)

 (3) 老师不对,这样说”好喝“
     先生違います。こういうときは「好喝」と言います。

 日本語では食べ物も飲み物も「おいしい」と言いますが、中国語では食べ物は「好吃」、飲み物は「好喝」と言います。それを区別できていなかった私は日本語と同じように飲み物にも「好吃」を使うと思っていました。これに対して学生は「好喝が正しい」とフィードバックし、このフィードバックは私に「飲み物に『好吃』を使うことは正しくない」という否定証拠を示してくれました。

 否定証拠はインプットを聞いているだけではなかなか得られないと言われています。否定証拠はアウトプットに対してフィードバックを受けることによって得られます。

参考文献

 大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』66-69頁.くろしお出版
 迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』38頁.アルク




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