6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

自由形態素と拘束形態素について

自由形態素と拘束形態素

 形態素は、他の形態素と結びつかずとも単独で語として現れることができる自由形態素(free morpheme)と、単独で語として現れることができず、他の形態素と結びついてはじめて語として現れることができる拘束形態素(bound morpheme)に分けられます。

 (1) 不確実性  {不}{確実}{性}
 (2) 不揮発性  {不}{揮発}{性}
 (3) 不安定性  {不}{安定}{性}

 「不確実性」という単語は接頭辞「不-」、語根「確実」、接尾辞「-性」という複数の形態素から成り立ち、単語全体の意味はこれら3つの形態素の総和です。このうち「確実」は「不-」や「-性」などの他の形態素と結びつかずとも単独で「確実」という語として現れることができる自由形態素です。一方、「不-」や「-性」はそれだけで語として現れることができず、「確実」や「揮発」「安定」などの語根と結びつくことでようやく「不確実」「確実性」「不揮発」「揮発性」「不安定」「安定性」のように語を構成できる拘束形態素です。拘束形態素は常に単独では生起せず、語を構成するには他の形態素と結びついて一緒に現れなければいけません。接辞は拘束形態素です。

形態素 形態 自由・高速
{kare} kare 自由形態素
{ha} ha 拘束形態素
神童 {sindou} sindou 自由形態素
{to} to 拘束形態素
呼ば {yob} yob 拘束形態素
{rare} are 拘束形態素
てい {tei} tei 拘束形態素
{ta} ta 拘束形態素
らしい {rasii} rasii 拘束形態素
{yo} yo 拘束形態素

 「彼」や「神童」は単独で語として現れることができる自由形態素です。それ以外の形態素「は」「と」「呼び」「れ」などなどはそれだけで語として現れることはできず、他の形態素と結びついてはじめて語として現れることができる拘束形態素です。動詞語幹、形容詞語幹、助詞、助動詞、接辞は拘束形態素に分類されます。
 ※一段動詞語幹(連用形)は「流れが速い」のように名詞になることがありますが、この場合は自由形態素です。

参考文献

 漆原朗子(2016)『朝倉日英対照言語学シリーズ4 形態論』2,9,30,59,141頁.朝倉書店
 窪薗晴夫(1999)『日本語の音声』108-111頁.岩波書店
 斎藤純男(2010)『言語学入門』52-55頁.三省堂
 斎藤純男,田口善久,西村義樹編(2015)『明解言語学辞典』57頁.三省堂
 仁田義雄ら(2000)『文の骨格』19-20頁.岩波書店
 森山卓郎,渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』51頁.三省堂
 リンゼイ J.ウェイリー,大堀壽夫ら訳(2006)『言語類型論入門-言語の普遍性と多様性』114-117頁.岩波書店




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