社会的直示とは?

社会的直示(social deixis)

 敬語やマイナス敬語などの待遇表現や親しみを表すときに用いられるスピーチレベルの切り替えなどは発話現場にいる人物を基準にして、談話に現れる人物との上下関係や親疎関係を特定します。

 (1) 山田さんがいらっしゃいました。
 (2) お前は早く帰れ。
 (3) A:趣味はありますか?
     B:ギターやってます。
     A:そうなんだ。私も同じです。

 例えば(1)は「いらっしゃる」により話し手が話題の人物である「山田さん」よりも目下、あるいは山田さんと親しくないことを表し、「ます」により話し手が聞き手よりも目下、あるいは話し手が聞き手と親しくないことを表しています。(2)ではマイナスの待遇表現「お前」を用いることで、話し手は聞き手よりも目上、あるいは聞き手と親しくないことを表します。(3)のAの発話に見られるスピーチレベルシフトにおいては、「そうなんだ」でBに対して心理的距離を縮めていることが表れます。このように、発話現場の人物の社会的地位を基準にして談話に現れる人物との上下関係や親疎関係を表す類の直示社会的直示(social deixis)と言います。

参考文献

 小泉保(2001)『入門 語用論研究―理論と応用―』5-32頁.研究社
 澤田淳(2020)「指示語用論」『はじめての語用論 ―基礎から応用まで』77-92頁.研究社
 林宅男(2002)「直示」『プラグマティックスの展開』33-43頁.勁草書房
 東森勲(2012)「意味のコンテクスト依存」『朝倉日英対照言語学シリーズ7 語用論』13-22頁.朝倉書店
 Fillmore, C. J. (1975) Santa Cruz Lectures on Deixis, 1971. Mimeo, In: Indiana University Linguistics Club.




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