6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

認知スタイルとは?

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認知スタイル(cognitive style)

 自然環境で通常の知能を持つ幼児は特に困難に直面することなく第一言語を習得しますが、第二言語学習者の第二言語習得は完全な習得に至らないことが多く、また個人の到達度にもかなりのばらつきが見られます。第二言語習得が成功したり失敗したり、個人によって到達度に差があるのはなぜかということに関して、第二言語習得(SLA:Second Language Acquisition)の研究では、それに関わる諸々の要因として年齢、性格、情意面、言語適性、学習ストラテジーなどが検討されています。これらの要因の中に認知スタイルも含まれます。

 認知スタイル(cognitive style)とは、「情報を処理したり、タスクに取り組んだりする際の個人の性向」(Freeman-Long 1995: 203)のことです。例えば、物事に対して熟考するか素早く判断を下すか、音声的な学習と文字的な学習のどちらを好むかなど、個人によって情報処理の方式が異なることが挙げられ、SLAではそうした認知スタイルと言語の指導法との相互作用が研究されています。一般に認知スタイルは、後述する場独立型か場依存型か、熟慮型か衝動型か、音声型か視覚型かなどと相反する二項対立によって論じられることが多く、人がどちらの認知スタイルをとっているかは心理学などから借用した様々なテストを用いて明らかにされます。ただし、認知スタイルで示される二極は連続的なものであり、人は常にどちらか一方の認知スタイルをとるとは限りません。二極のうちどちらかの傾向を有し、その傾向には個人差があります。

場独立型と場依存型(field independence/field dependence)

 認知スタイルの研究において最も注目されているのが場独立型(field independence)と場依存型(field dependence)です。ある複雑な模様の中から目標である単純な図形を見つけ出すタスクを課し、目標を見つけ出すことができれば場独立型、見つけ出すことができなければ場依存型と判別します。場独立型はある特定の文脈に依存せず、目標を文脈から切り離して捉えます。言語においては文法テストが得意である一方、コミュニケーション能力は劣る傾向があります。場依存型は目標を特定の文脈の中で捉えようとするタイプであり、上述のタスクで目標の図形を見つけ出すことができない人がこれに分類されます。細部を分析的に捉えるのではなく、全体的に捉えようとします。場依存型は場独立型とは対照的にコミュニケーション能力に優れている一方、細部に焦点を当てる文法テストなどは苦手です。

熟慮型と衝動型(reflectivity/impulsivity)

 ある1枚の絵画を見た後にそれに類似した絵画を見せ、はじめに見た絵画と同じであるかどうかを判断させるテストを用いて熟慮型(reflectivity)と衝動型(impulsivity)に分類する方法があります。このテストにおいて熟考する人は熟慮型、素早く判断を下す傾向がある人は衝動型に分類されます。熟考型は物事の判断に時間をかけるために誤りをあまり起こしませんが、一方、衝動型は不確かなものに対しても素早く何らかの推測をするため、誤りが多くなります。
 母語や第二言語を用いる際にもそれらの性向が現れ、例えば読解において熟考型は誤りが少なく、衝動型は多くなる傾向があります。

音声型と視覚型(aural/visual)

 音声型(aural)と視覚型(visual)は聴覚的な刺激と視覚的な刺激の好みを指します。音声型は聴覚的な刺激に対して綴りを介さずにその語のイメージや意味を想起する傾向があり、一方視覚型は綴りのイメージが先行します。

分析型と総合型(analytic/gestalt)

 分析型(analytic)はデータを収集して物事を細部から正確に捉えようとするタイプで、演繹的指導を好みます。言語においては目標言語を単語などの構成素ごとに捉えて分析します。
 総合型(gestalt)は物事を全体的に捉えようとするタイプで、帰納的指導を好みます。言語においては単語などの細部に注目するよりも、言語を全体として捉えて理解しようとする傾向がみられます。

参考文献

 Diane Larsen Freeman, Michael H.Long(著)・牧野髙吉・萬谷隆一・大場浩正(訳)(1995)『第2言語習得への招待』鷹書房弓プレス
 小柳かおる(2004)『日本語教師のための新しい言語習得概論』175-176頁.スリーエーネットワーク

 ※各認知スタイルについて詳しく書かれている参考文献が見つからない…




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