コロケーション(collocation)
コロケーション(collocation)とは、高確率で共起する語と語の関係のことです。中俣(2014: 4)は「一つの文の中で、一緒に用いられることが多い複数の語」と定義しています。連語とも。
(1) 辞書-引く
(2) 傘-差す
(3) 汚れ-落ちる
(4) 香り-立つ
(5) 嘘-つく
(6) 可及的-速やか
「辞書」に対して「引く」が結合した言語形式「辞書を引く」は日本語で最も自然な組み合わせと考えられますが、「辞書を調べる」「辞書を見る」「辞書を使う」などと言ったとしても、「辞書を引く」に比べて多少自然さや許容度を落としつつも意味は伝わります。また、「辞書」に対して必ず「引く」を結合させるとは限りません。話者の選択によって「調べる」「見る」など別の語が結合されることがあります。その語と語の結びつきは慣用句に比べたら緩やかです。
コロケーションと慣用句の違い
コロケーションとの比較で慣用句についても簡単に。
「顎が落ちる」などの慣用句は構成要素間の結びつきがコロケーションに比べて強いです。例えば、「落ちる」をそれとほぼ同じ意味の「落下する」に言い換えると意味が分からなくなります。「顎」を主題化して、「が」と同じく述語の主体を表す「は」に変えてみてもダメです。「顎」と「落ちる」の間に「とても」を入れることもできません。慣用句は語と語の結びつきが非常に強く、必ず(と言っていいほど)その構成要素が共起します。ゆえに構成要素や構成要素の配列を勝手に変えたりすることはできません。この点がコロケーションとの違いです。
(7) 顎が落ちる
(8) *顎が落下する
(9) *顎は落ちる
(10) *顎がとても落ちる
また、コロケーションはその構成要素の意味の総和から全体の意味を導き出すことができますが、慣用句はそれができません。例えば、「辞書を引く」は辞書を開いて言葉の意味を調べるといった意味ですが、これはその構成要素「辞書」「を」「引く」の意味の総和から導けます。しかし、とてもおいしいなどの意味を表す慣用句「顎が落ちる」は「顎」「が」「落ちる」の意味の総和から導けません。語と語がまとまって、それをひとまとまりとして特定の意味を持つようになったのが慣用句です。
つまり、コロケーションと慣用句の違いは次のようになります。
語と語の結びつき | 意味 | |
---|---|---|
コロケーション | 強いが慣用句に比べ緩やか | 構成要素の意味の総和 |
慣用句 | とても強い | 文字通りの意味はない |
言語ごとに違うコロケーション
コロケーションは言語ごとに決まっていて、ある言語のコロケーションを直訳すると別の言語では不適切になることがあります。中国語と英語の例を見てみましょう。
(11) 雨很大 ⇔ 雨很小
雨が強い ⇔ 雨が弱い
(12) 风很大 ⇔ 风很小
風が強い ⇔ 風が弱い
(13) strong coffee ⇔ weak coffee
濃いコーヒー ⇔ 薄いコーヒー
日本語は雨や風の程度を形容する時に強弱を使いますが、中国語では大小です。中国語母語話者の日本語学習者は「雨が大きい」「雨が小さい」と言うことがありますが、それは中国語のコロケーションを用いて日本語を話しているからです。当然逆もあり、日本語母語話者の中国語学習者は「雨很強」「雨很弱」と日本語のコロケーションを用いて中国語を産出することがあります。この表現は中国語母語話者いわくちょっと硬め。コロケーションは語と語の結びつきが強いとはいえ慣用句に比べ緩やかだから、この程度の崩し方であれば意味は伝わります。ただ、より自然な言語表現を追求するなら言語ごとに決まっているコロケーションを身につける必要があります。
参考文献
中俣尚己(2014)『日本語教育のための文法コロケーションハンドブック』くろしお出版
堀 正広, 西村 秀夫, 小迫 勝, 前川 喜久雄, 浮網 茂信(2009)『コロケーションの通時的研究―英語・日本語研究の新たな試み』ひつじ書房
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