6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

逆成とは?

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逆成(back formation)

 既存の派生語ではない語を派生語と見なし、その語末部分を派生語尾と捉え、さらにその派生語尾を取り除く形で新しい語を作り出す方法を逆成と言います。言い換えれば、派生語と見なされた語から語基を造るような操作をします。
 例えば、まず日本語には先に「もくろみ」という語がありました。この語尾「み」を動詞連用形に現れる派生語尾と見なし、活用を逆算して動詞辞書形「もくろむ」を造り出しました。他にも「たそがれ」から「たそがれる」などがあります。逆成の例は日本語にはほとんど見られません。

意気込 → 転成 → 意気込
もくろ ← 逆成 ← もくろ

 噛み砕いて説明します。
 「もくろみ」という語は先に存在していました。この語尾の「み」がポイント。例えば、動詞辞書形「意気込む」「歪む」「噛む」のような「む」で終わる動詞はマス形にすると「意気込み」「歪み」「噛み」と語尾に「み」が現れます。そこで昔の人は、「もくろみ」は動詞のマス形なんじゃない? と思ったわけです。そうして動詞辞書形である「もくろむ」という動詞が新しく誕生します。転成とは逆の方向で、考え方も違うから逆成と呼んでるわけです。

 (1) もくろみ → もくろむ
 (2) たそがれ → たそがれる

英語の逆成の例

 逆成(back formation)は逆形成なんて呼ばれることもあるようで、接辞とみなされうるものを語基から取り除く操作を指します。上の説明と同じ。英語において逆成の結果生じる語の大部分は動詞で、特に -ing や -er で終わる複合名詞からの逆成が多いです。

 (3) laser → lase

 例えば laser(レーザー光線)は “Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation” の頭字語(アクロニム)で語末の -er は本来接尾辞ではないんですが、これが接尾辞とみなされて取り除かれ、lase(レーザー光線を当てる)という動詞が逆成されました。英語の逆成の例は日本語よりもはるかに多いです。

 (4) 〔動詞〕  sightseeing(観光) → sightsee(見物する)
           orientation(オリエンテーション) → orientate(方向付ける)
 (5) 〔名詞〕  greedy(貪欲な) → greed(貪欲)
 (6) 〔形容詞〕 difficulty(難しさ) → difficult(難しい)

参考文献

 大石強(1988)『現代の英語学シリーズ<第4巻> 形態論』218-225頁.開拓社
 L.J. ブリントン,E.C. トラウゴット(著)・日野資成(訳)(2009)『語彙化と言語変化』52頁.九州大学出版会




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