アーミー・メソッド(Army Method)
第二次世界大戦中、戦地での情報収集、諜報活動、戦後に占領した地域の統治に必要な外国語要員を速やかに養成する目的でアメリカ陸軍が行った軍人に対する外国語教育をASTP(Army Specialized Training Program:米国陸軍戦時特別訓練計画)と言い、その計画の一環として、構造言語学や行動心理学に基づいて開発・実施された外国語教授法をアーミー・メソッド(Army Method)と言います。ASTPでは世界の20数か国語を扱い、その中に日本語教育もありました。
①シニア・インストラクターによる文法解説 (英語で)
②ドリル・マスターによる口頭練習 (目標言語だけで)
アーミー・メソッドの授業は2人の教師の異なる授業によって構成されます。
1クラス80名に対し、1日1時間(週5回)、英語を話すことができ、かつ目標言語の文法に詳しい大学の言語学者がシニア・インストラクター(senior instructor)として目標言語の文法について英語で講義を行います。そのあとは1クラス8~10名の小クラスに分け、1日2時間(週6回)、目標言語のネイティブ・スピーカーであるインフォーマント(informant)がドリル・マスター(drill master)を務め、シニア・インストラクターが扱った文法項目について口頭練習を行います。
ミムメム練習
アーミー・メソッドは外国語の話し言葉をネイティブ・スピーカーと同じような正確な発音で、かつ流暢に話せるようにすることを重視しています。そのため、ドリル・マスターを務めるインフォーマントは目標言語の自然な音声を提供することに努め、英語を一切使わず文法説明も翻訳も与えず、徹底的な口頭練習を行います。口頭練習ではドリル・マスターが話す表現をひたすら真似て覚え、質問に答える練習を反復します。提示された音声モデルを模倣(mimicry)し、それを記憶(memorization)して習慣形成を促すことから、この練習はミムメム練習(mim-mem method)と名付けられています。
さらに、教室外でもレコードを使用してミムメム練習が自習によって行われた他、インフォーマントと生活を共にし、目標言語を使用して生活するよう計画されています。
ASTPの成果

1943年4月から12月にかけて9か月間行われたASTPによって、アメリカは短期間で多数の外国語習得要員を戦線に送り出すことができ、結果として成功を収めました。しかし、その理由は軍隊という特殊な環境が関係していると言われています。少人数のクラスを編成して個別に徹底的な口頭練習を行えたのは軍として予算が確保できたからであり、また、もし外国語の習得に失敗した場合は戦闘部隊に戻されて生死にかかわる環境に身を置くことになるため、参加者には高い動機づけがもたらされ、目標言語の習得に必死になったことがASTP成功要因の第一であったとされています。この結果を受け、ASTPの影響を受けたオーディオ・リンガル・メソッドが一般の学習者に向けの教授法として誕生していますが、一般の学習者はASTPに参加した軍人のような環境に身を置いてはいないので、高い動機づけももたらされず、ASTPのような期待された効果は得られませんでした。
参考文献
石田敏子(1988)『日本語教授法 改訂新版』29-31頁.大修館書店
木村宗男・阪田雪子・窪田富男・川本喬(1989)『日本語教授法』54-55頁.おうふう
国際交流基金日本語国際センター(1988)『教師用日本語教育ハンドブック⑦ 教授法入門』130-132頁.凡人社
小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法163-164頁.アルク
田中望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際』112-114頁.大修館書店

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