有生性(animacy)
自然界に存在するものには、大きく分けて人間や動物のような生命のあるものと生命のないものとに分けられますが、人間がそのものを有生(animate)であるか無生(inanimate)であるかを区別する意識、すなわち認知や情報処理の仕方は、諸言語において言語表現の違いを生むことがあります。
(1) 〇我们 (わたしたち)
(2) 〇你们 (あなたたち)
(3) 〇他们/她们/它们 (彼ら/彼女ら/それら)
(4) 〇儿子们 (息子たち)
(5) 〇女儿们 (娘たち)
(6) 〇妹妹们 (妹たち)
(7) 〇老师们 (先生たち)
(8) 〇朋友们 (友達たち)
(9) △蚊子们 (蚊たち)
(10) ✕蚯蚓们 (ミミズたち)
(11) ✕叶子们 (葉たち)
(12) ✕云们 (雲たち)
(13) ✕书们 (本たち)
例えば中国語では、人称代名詞を含む人間を表す名詞句は必ずその数の区別を「-们 men」の有無で標示し、その他大部分の名詞句は区別されません。次の例からは、人称代名詞「我」「你」「他」や人間を表す名詞句「儿子」「朋友」などは全て複数を表す「-们」をつけることができますが、「蚊子」や「蚯蚓」などの動物になるとその判定は微妙になり、「叶子」「云」「书」などの無生物ではつけることができなくなっていることが分かります。これらの言語実態から有生と無生を区別していることが伺えます。(上の例はある中国語母語話者1名の内省によるもの)
名詞が指す対象がもっている生物としての性質を有生性(animacy)と言います。世界の諸言語には<人間と非人間>、<有生物と無生物>の区別を利用する言語や、それよりも細かい区別を利用する言語もあり、有生性は文法規則に関係していることが知られています。それらにはおよそ人間から動物を経て無生物へと至る階層(人間>動物>無声物)を見てとることができ、この階層は一般に有生性の階層(animacy hierarchy)や名詞句階層(nominal hierarchy)と呼ばれています。有生性の階層がどのように実現するかは言語によって異なりますが、多くの言語に見られる特徴のため、有生性の階層は言語の普遍的特性と考えられています。
上記の中国語の例では、有生性の高い名詞句は複数形にすることができ、有生性が低い名詞句はそれができませんでした。有生性の高いものは人間の認知的に際立つ存在であるため、可算的に捉えられやすく、逆に有生性の低いものは認知的に際立たず、不確定な存在をして扱われるため不可算的に捉われやすいようです。
参考文献
有生性と言語表現の関係については、バーナード・コムリー(2001)にたくさんの例が挙げられています。例文は少ないですが…
亀井孝(著)・河野六郎(著)・千野栄一(著)(1996)『言語学大辞典 第6巻』1365-1366頁.三省堂
バーナード・コムリー(著)・松本克己(訳)・山本秀樹(訳)(2001)『言語普遍性と言語類型論: 統語論と形態論』199-214頁.ひつじ書房
リンゼイ J.ウェイリー(著)・大堀壽夫(訳)・古賀裕章(訳)・山泉実(訳)(2006)『言語類型論入門-言語の普遍性と多様性』171-180頁.岩波書店

コメント