ナチュラル・メソッドとは?(自然主義教授法、自然的教授法)

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ナチュラル・メソッド(自然法:Natural Method)

 文法訳読法に対する”日常生活でのコミュニケーションに役立たない”という批判から、幼児の母語習得過程(第一言語習得過程)に外国語学習の活路を見出して会話能力を伸ばそうとする教授法全般であるナチュラル・メソッド(自然主義教授法、自然的教授法:Natural Method)が生まれました。これらの教授法では、外国語学習は幼児の母語習得と同じように自然に行われるのが良いと考えます。代表的なものに、グアン(F.Gouin)が提唱したグアン式教授法(Gouin Method)、ベルリッツ(M.Berlits)が提唱したベルリッツ・メソッド(Berlits Method)などがあります。

グアン式教授法(Gouin Method)

 グアン(F.Gouin)は文法訳読法のもとでは会話能力に問題が生じることを批判し、新しい教授法を提唱しました。それがグアン式教授法(グアン・メソッド:Gouin Method)です。グアンは幼児の母語習得過程した結果、幼児はまず聞くことから始まり、文の単位で習得して話せるようになり、思考した順序で言語を用いていると考えました。この母語習得過程を外国語教育に応用し、学習者に対しては幼児と同様に文法規則を明示的に説明することなく、たくさんの文に触れさせて訓練することを目指します。まずは聞いて、その後に話すという流れで行われます。文法訳読法に対する批判から開発された教授法だったため、聞く・話すは重視していましたが、かえって読む・書くは軽視されていました。

 グアン式教授法の大きな特徴として、全ての物事を小さい動作の連鎖(series)とみなし、その動作をそれぞれ動詞を中心に描写した点が挙げられます。グアンは「教室のドアを開ける」という動作を次のような小さな一連の動作に分割して言い表わしました。

―I walk towards the door(ドアに向かって歩く), I walk
 I draw near to the door(ドアに近づく), I draw near
 I draw nearer and nearer(どんどん近づく), I draw nearer
 I get to the door(ドアに到達する), I get to
 I stop at the door(ドアの前で止まる). I stop
―I stretch out my arm(腕を伸ばす), I stretch out
 I take hold of the handle(取っ手を掴む), I take hold
 I turn the handle(取っ手を回す), I turn
 I open the door(ドアを開ける), I open
 I pull the door(ドアを引く). I pull
―The door moves(ドアが動く), moves
 the door turns on its hinges(ドアの蝶番が回る), turns
 the door turns and turns(蝶番がどんどん回る), turns
 I open the door wide(ドアが大きく開く), I open
 I let go the handle(取っ手から手を放す). I let go (Gouin 1894:129-130)

 このように動詞を中心に分割された連鎖を順を追って母語で言わせた後に目標言語での言い方を教えていく方法をとり、こうすることで記憶に残りやすいと考えます。この教授法は物事を細かい動作の連鎖として捉えることからシリーズ・メソッド(Series Method)と呼ばれます。また、幼児の心理的発達に注目していることからサイコロジカル・メソッド(Psychological Method:心理学的教授法)とも呼ばれます。山口喜一郎はこの方法で台湾での日本語教育を実践しています。

ベルリッツ・メソッド(Berlits Method)

 ベルリッツ(M.Berlits)もグアンと同様に自身の経験から文法訳読法を批判し、幼児の母語習得過程を再現することが外国語教育で最も理想的であると考えてベルリッツ・メソッド(Berlits Method)を開発しました。この教授法の大きな特徴は、媒介言語を徹底的に排除した点です。教師は学習者の母語や媒介言語で文法規則を説明することなく、それらの意味を理解させるためにレアリアや絵、写真、身体動作などを用いる工夫がなされます。主に実生活に沿った外国語の短期的な教育に用いられ、少人数制のクラスで、目標言語の母語話者による話し言葉を重視した指導が行われます。

 ベルリッツ・メソッドの考え方は後のいわゆる直接法の基礎となりました。

参考文献

 石田敏子(1988)『日本語教授法 改訂新版』25-27頁.大修館書店
 木村宗男・阪田雪子・窪田富男・川本喬(1989)『日本語教授法』48-50頁.おうふう
 国際交流基金日本語国際センター(1988)『教師用日本語教育ハンドブック⑦ 教授法入門』123-126頁.凡人社
 小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法』159-161頁.アルク
 高見澤孟(2016)『増補改訂版 新・はじめての日本語教育2 日本語教授法入門』150-151頁.アスク
 中川かず子(2010)「日本語教授法に生きる自然主義教授法(Natural Method) : 19世紀の教授法改革者L.ソブールの残したもの」『北海学園大学人文論集(47)』1-26.
 Gouin, F., Swan, H and Betis, V(1894).The art of teaching and studying languages (pp.129-130).




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