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言いさし文とは?(言いさし表現)

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言いさし文(Unfinished Sentences)

 言いさし文(Unfinished Sentences)とは、「けど」「から」「たら」「れば」「し」「て」などの接続助詞の後に本来続くはずの主節がなく、接続助詞を含む従属節のみで終結した文のことです。実際には接続助詞で文が終わることもあれば、例(4)(5)のように接続助詞の後ろに終助詞がついて文が終わることもあります。

 (1) 私も人のこと言えた義理じゃないけど
 (2) 1万円貸して。来週返すから
 (3) 臭いよ。歯磨いたら
 (4) せめて写真が残っていればなあ。
 (5) せっかくだから来れば? あまり時間もかからないさ。
 (6) 一緒に行こう。ちょっと怖く

 言いさし文の接続助詞は見かけ上文末に置かれているので終助詞的に用いられているという見方をされることもあります。

言いさし文と日本語教育

 言いさし文は接続助詞の後の主節が省略されている文と考えられることがあります。しかし白川(2009)は、言いさし文に対して、省略されたと考えられる主節と補った完全文の存在を想定することで、いくつか問題が生じることを指摘しました。一つは主節な想定できない場合があること、二つは主節を想定すると主張がズレる場合があること、三つは主節を想定すると認識のあり方が変わる場合があることです。このような言いさし文と完全文の異質性は日本語教育において、学習者の誤解を招く可能性があります。

 (7) a 電車に忘れ物をしてしまったんです。          (言いさし文)
     b 電車に忘れ物をしてしまったですが、どうすればいいですか。(完全文)

 実際の会話においては、(7a)の省略されたと思われる主節を補った完全文(7b)よりも、(7a)のように言うほうが多いと思われます。学習者に対して(7a)は完全文(7b)の主節を省略した言い方であると説明する場合、学習者は完全文を作った後に主節を省略して言いさし文を作ることになります。しかし、「~んですが」自体が相手に対する行為要求を表すモダリティ形式であると捉えて教えることで、学習者自身が主節をどう言えばよいかなどを気にすることなく、「~んですが」を使えば意志を伝達することができるようになり、学習者にとって合理的であると白川(2009)は主張しています。

参考文献

 白川博之(2009)『「言いさし文」の研究』くろしお出版





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