6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

六書とは?(指事・象形・形声・会意・転注・仮借)

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六書りくしょとは?

 紀元100年の中国後漢の時代には、それまでことばを表す記号にすぎなかった漢字を客観的な研究対象として扱い、およそ九千字の文字の成り立ちを一つひとつ説いた中国最古の字書である『説文解字せつもんかいじ』が許慎きょしんによって著されました。この『説文解字』では、漢字本来の意味を導き出すために六つの原則を用いて個々の漢字の字形を解釈しています。六つの原則はまとめて「六書りくしょ」と呼ばれ、指事しじ象形しょうけい形声けいせい会意かいい転注てんちゅう仮借かしゃに分けられます。

 指事象形は単体文字の作り方に適用される原則、形声会意は複数の文字が組み合わせられた複体文字の作り方に適用される原則、転注仮借は漢字を用いるときの原則であり、六書はこの三組に分けられます。

指事しじ

 形がはっきりしない抽象的な概念を線や点で表す方法を指示と言います。例えば山を意味する漢字を作ろうとするなら、その形を象る象形によって絵文字を作ればいいですが、「上」や「下」などの抽象的な概念は形がない、もしくははっきりしないので、それを表す漢字を象形で作ることができません。このような抽象的な概念は線や点を用いて、一目見れば意味が分かり、考えれば造字の仕組みが理解できるような漢字が作られました。この漢字の作り方が指示です。

 一 二 三 上 下 足 中 天 本 立 刃 末…

象形しょうけい

 形を象る、つまり物の形を特徴を捉えて絵文字とする方法を象形と言います。その代表例として「日」「月」などが『説文解字』で挙げられています。象形の方法で作られた漢字はいずれも目で形を捉えることができるもの、すなわち実体のあるものという共通点が認められます。

 日 月 魚 貝 田 竹 木 山 川…

形声けいせい

 意味を表す文字と音を表す文字を組みわせて作る方法を形声と言います。形声で作られた漢字の一部分はその漢字の音を表すためだけに使い、意味を表すことはありません。指事、象形、会意は表したい概念の意味を捉えて漢字を作るのでその造語性には限界がありますが、形声は漢字が持つ音だけを使うことで意味を表さないことから、指事、象形、会意では表せない様々な概念を表すことができ、形声によって作られた漢字は漢字の大部分を占めています。

 日(太陽の意味) + 青(セイの音) → 晴(はれる・セイ)
 氵(水の意味)  + 青(セイの音) → 清(きよい・セイ)
 言(言うの意味) + 青(セイの音) → 請(こう・セイ)

 江 河 晴 空 校 字 青 先 草 村 町 年 百…

会意かいい

 単体で意味を持つ文字をいくつか組み合わせて漢字を作る方法を会意と言います。具体的には、人へんや木へん、草かんむりなどの意味範囲を表す文字に別の文字を組み合わせて新しい文字を造り出すなどの方法を指します。会意で作られた漢字の構成要素はそれぞれ単体で意味を持つ点で形声とは異なります。

 日 + 月     → 明るい
 人 + 木     → 休む
 口 + 鳥     → 鳴く
 木 + 木     → 林
 木 + 木 + 木 → 森

 林 炎 男 休 見 左 森 正 赤…

転注てんちゅう

 転注とは、「文字が意味的まとまりごとに整理され、個別の字義が相互に関連しあう方法」(阿辻 1985: 125)のことです。『説文解字』には「老」の字が挙げられています。「老」は「人」と「毛」と「匕」から成る会意字で、それぞれの字の意味がお互いに関連しあい、ひげも髪も白く変わる人を指す字となっています。

 老 考…

仮借かしゃ

 仮借とは、表現すべき文字のない概念を、同じ発音の文字を使って表す方法のことです。『説文解字』では「令」と「長」が挙げられています。漢の時代では県の長官を「県令」や「県長」と呼んでいましたが、もともと県の長官を表す固有の文字が無かったので、「命令を出す」という意味を持つ「令」や、「久遠」という意味を持つ「長」の字を借りることで長官を表す文字としたとのこと(阿辻 1985: 122-123)。仮借は漢字がその本義以外の意味に使われていますが、そこには何らかの類推が働いています。

 令 長 韋 西 能…

参考文献

 阿辻哲次(1985)『漢字学: 説文解字の世界』東海大学




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