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令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

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令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 プロトタイプと非プロトタイプ

 プロトタイプある言語共同体で共有される典型的な意味のことです。例えば「髪を切る」の「切る」は本来物を鋭利な物で切断することを表しますが、「水気を切る」は水気が無くなるように振ったり絞ったりすることを、「カードを切る」はカードを混ぜることを表します。同じ「切る」でも意味が変わっていたり、元々の意味を拡張して使っているようなものもあります。こういう基本動詞って多義性が高いんですよね。

 この中で最も典型的な用法、切断を表す「切る」がプロトタイプ的用法です。それ以外の用法はその意味が構造上プロトタイプ的意味から離れているため、非プロトタイプ的用法と呼ばれます。

 「落とす」のプロトタイプ的な用法は「人が物が落下させる」こと。

 1 洗浄
 2 喪失
 3 落下(プロトタイプ的用法)
 4 下落

 よって答えは3です。

問2 メンタル・レキシコン(心的辞書)

 認知心理学では長期記憶の中に辞書のようなものがあり、そこに語彙が蓄えられているとする考え方があり、その辞書をメンタル・レキシコン(心的辞書)と言います。
 メンタル・レキシコンの特性として、エイチソン(2011)は3つ挙げています。

 1.辞書のようにアルファベット順に並んでいるわけではない。
 2.心的辞書の内容は、固定的ではなく、常に新しい言葉を追加し、すでに持っている言葉の発音や意味を変更している。
 3.私たちは言葉の意味について、辞書に書かれているよりももっと細かい知識を持っている。

 参考:日本語教育に役立つ心理学入門より

選択肢1

 その通り。語彙は意味的に結びついていて、それを意味ネットワークと言います。

選択肢2

 間違い。現実の辞書とは違って五十音順とかアルファベット順とかで並んでいるわけではありません。

選択肢3

 成人日本語母語話者の語彙数は4万~5万です。ちなみにJLPT旧試験のN1では語彙数10000が目安です。5000ではあまりに少なすぎ。

選択肢4

 現実の辞書とは違い、内容は常に更新されます。

 したがって答えは1です。

問3 コロケーション

 「付けてください」じゃなくて「かけてください」と言うべき。これはコロケーションを知らないことによる誤りです。
 語は特定の語と高確率で結びついて一緒に使うことがあり、そのような語と語の組み合わせをコロケーションといいます。「ハンガー」と「かける」はコロケーションなので「かける」を「付ける」に変えると不自然になってしまいます。

 したがって答えは2です。

問4 キーワード法

 キーワード法とは、目標言語の覚えたい語と音韻的に類似した母語の言葉のイメージと結びつけ、その関連性によって語とその意味を記憶する記憶術のことです。

 以下の参考文献にある例を示します。

 「刀(かたな)」を覚えるため、最初の一文字「か」と音が似てる「cat」をキーワードとして選ぶ。
 次に、猫が刀を振っている様子をイメージする。
 「刀」と「sword」と音声情報として結びつける。

 ちゃんとイメージできれば「刀」を見たり聞いたときにすぐ猫が思い出され、猫が刀を持ってる様子も思い出し「sword」に結びつきます。
 なるほど面白い!

 答えは1です。

 参考:https://eaje.eu/pdfdownload/pdfdownload.php?index=69-76&filename=koto-ogiso.pdf&p=bucharest

問5 新出語の扱い方

 認知的な負担に考慮した新出語の扱い方についての問題です。

選択肢1

 正しいです。内容理解に重要で推測が難しい語を事前に指導しなければ、読解中の認知的負荷が大きくなります。推測できそうな語は特別指導する必要はありません。 

選択肢2

 正しいです。内容理解に重要でも推測しやすい語は別に推測しやすいんでほっときましょう。推測しやすいんであれば認知的負荷はそもそも低いです。 

選択肢3

 正しいです。内容理解に重要でなく覚える必要もない語をわざわざ指導すると、認知的負荷は大きくなります。要らないことには混乱を避けるために触れない。そういう授業をしたほうがいいですね。

選択肢4

 目前の読解に役立たない、重要でない語を指導する必要はありません。とりあえず目前の活動に使わないなら置いておきましょう。あれもこれもと教えるのは認知的負荷を高めるだけです。

 したがって答えは4です。




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