平成28年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題4解説
問1 コミュニカティブ・アプローチの背景となる考え方
選択肢1
「理解優先」の部分からコンプリヘンション・アプローチの記述だと思われます。
選択肢2
オーディオ・リンガル・メソッドの記述。たくさん練習して習慣づけることで無意識かつ反射的に使えるようになることを目標とし、そうすると母語から目標言語に翻訳して産出しなくなるということなので、つまり母語の影響を受けません。
選択肢3
サイレント・ウェイの記述。教師はできるだけ沈黙し、学習者に気づきを促す授業をします。つまり帰納的指導を行い、学習者自身がそこから規則を見出すようなやり方です。
選択肢4
コミュニカティブ・アプローチはコミュニケーション能力の育成を目的とした教授法で、現実のコミュニケーションと同じような活動を行います。これらの活動では学習者間のコミュニケーションが多く生まれるので同時に意味交渉も生じます。その過程で言語習得を促します。
答えは4です。
問2 コミュニカティブ・アプローチに必要な条件
コミュニカティブ・アプローチは現実的なコミュニケーションを教室で実現するため、インフォメーション・ギャップ、チョイス、フィードバックといった概念を取り込んだ活動を行うのが特徴です。インフォメーション・ギャップは学習者間にある情報格差のことで、これがあると現実のコミュニケーションに近くなります。チョイスは学主者がどう行動するか、発話するかを決める権利のこと。フィードバックは話し手の発話に対する聞き手の応答。
選択肢1
コミュニカティブ・アプローチの活動に教師は参加しないので、参加者は学習者だけ。学習者が学習者に否定証拠を与えることはできるでしょうけれど、与えることがコミュニカティブな活動の条件ではありません。
選択肢2
上述のようにコミュニカティブな活動において必要な条件として挙げられている要素の一つです。
選択肢3
上述のようにインフォメーション・ギャップは重要な要素。
選択肢4
ここでいう真正性とは、実際のコミュニケーションの場面がしっかり活動に反映されているかどうかを表す指標です。コミュニカティブ・アプローチはコミュニケーションを重視した活動を行いますので、参加者のやり取りに真正性が保たれていることが重視されます。現実のコミュニケーションとは程遠い活動は真正性が低くコミュニカティブな活動とは言えませんので、コミュニカティブ・アプローチのタスクとしては採用されません。
答えは1です。
問3 タスク中心の教授法
タスク中心の教授法/ タスク中心言語教育(TBLT)
1990年代以降に提唱された、オーディオリンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチのお互いの長所を組み合わせ、欠点を補い合った教授法。必要に応じて言語形式にも注意を向けさせるFonFに基づく。「面接」「返品の電話をする」「友人にアドバイスする」など実生活に必要なタスクの中で実際に使われる言葉を使うことによって自然なコミュニケーション能力を身につけさせるもの。インフォメーション・ギャップによって参加者が持っている情報を引き出すタスクや、現実的な問題の解決策を探るタスク、オピニオン・ギャップによって意見を出し合い議論するタスクなどがある。
つまり… タスク中心の教授法では現実で起こりうるタスクを扱います。そしてタスクには必ず1つの目標があり、それを達成することが求められます。各選択肢が現実であるかどうかを基準にして見ていくといいです。
1 レシピ見ながら料理する場面は現実的なタスクなので、タスク中心の教授法で採用できます。
2 高校・大学卒業した後には誰もが経験する現実的なタスクなので、タスク中心の教授法で採用できます。
3 現実的なタスクと言えます。パンプレットを作るという目標がありますので、コミュニカティブな活動です。
4 パターン・プラクティスというのはオーディオリンガル・メソッドで用いる練習です。対話文を作ったりしても自然なコミュニケーション能力がうまく育ちません。コミュニカティブな活動ではありません。
したがって答えは4です。
問4 コミュニケーション・ストラテジー
コミュニケーション・ストラテジーは、言語学習者が目標言語でのコミュニケーション中にコミュニケーション上の問題に直面したとき、その問題に対処する方法のことです。タローン(1981)はコミュニケーション・ストラテジーの種類を「Paraphrase(言い換え)」「Borrowing(借用)」「Appeal for Assistance(援助要請)」「Mime(身振り)」「Avoidance(回避)」の5つに分類しています。これらの詳細についてはリンク先をご覧ください。
1 コミュニケーション・ストラテジーの回避
2 コミュニケーション・ストラテジーの回避
3 コミュニケーション・ストラテジーの借用
4 言語学習ストラテジーの情意ストラテジー(自分の感情をコントロールして学習を進めていくストラテジー)
選択肢4だけがコミュニケ―ション・ストラテジーではなく、言語学習ストラテジーの一種。
答えは4です。
問5 内容言語統合型学習(CLIL)
内容言語統合型学習(CLIL)の特徴といえば4C。CLILの授業を作るための重要な要素は4つあります。それがContent(科目やトピック)、Communication(語彙・文法・発音などの言語知識と4技能の言語使用)、Congnition(暗記・理解などの低次の思考力と、分析・創造などの高次の思考力)、Community あるいは Culture(協学・異文化理解)。
選択肢2には「内容・言語・思考・協学」とあり、これが4Cの内容にあたります。
答えは2です。
コメント
コメント一覧 (7件)
先生
いつも、先生のブログを参考に勉強させて頂いております。
問3について質問させてください。
回答は「あるトピックについて話す」ことであるため、話題シラバスとなっております。
しかし、令和元年Ⅰの問題5 問1は書くことに特化していたので、技能シラバスという回答でした。
https://nihongonosensei.net/?p=17967
したがって、本問も話すという技能に特化しているので、答えは技能シラバスと考えてしまいました。
令和元年度の問題との違いや、考え方をご教授頂けないでしょうか。
お手数お掛け致しますが、どうぞ宜しくお願い致します
先生、質問は28年度の分ではなく、29年度Ⅰの問題4の問3でした。
入力を誤っておりますので、29年度の方に改めてコメントさせて頂きます。
大変失礼致しました
いつもありがとうございます。問4の回避と言い換えについて質問させて頂きたいことがあります。選択肢1の「言語上の問題が起こったら話題を違うものに変える」というのは回避というのは何となくわかるのですが、「話題を違うものに変える」点では言い換えという見方もできるのでしょうか。選択肢2についても「難しい言語形式の使用を避けたり」というのは言い換えではなく回避という見方ができるのでしょうか。回避と言い換えの違いがよくわからず、混乱しております。ご教授頂けないでしょうか。お忙しいところ恐縮ですが宜しくお願い致します。
>本田さん
こんばんは! お答えします。
「回避」は話題自体を避けます。
「言い換え」は話題を避けず、別の言い方で何とかします。
「話題を違うものに変える」は回避であって、言い換えではありません。
例えば「エアコン」という言葉が分からなかったのでエアコンの話を止めたり諦めたら回避、エアコンを「部屋を冷やす機械」みたいに言い換えて話を続けたら言い換えです。
難しい言語形式の使用を避けるということは、簡単な言語形式を使用するということなので言い換えです。後件で「言いたい内容」について言及していますので、やはり話題を変えているわけではありません。
ご返信、ご解説ありがとうございます。なぜか先生のご返信が私のパソコンには昨日の時点で反映されておらず、返信が遅くなり申し訳ありません。
承知いたしました。避けるか違うものに変えるかということですね。ありがとうございます。私のテキスト(完全攻略ガイド)には回避の説明と具体例として「複雑な文法構造を使わずに、別の構造を使って表現する」「授受表現の使い方がよくわからなかったので『A先生が私に日本語を教えました』と易しい言い方で言った。」と出ています。これは別の構造をつかって表現していることよりも、複雑な文法構造、授受表現を使うのを避けていることに注目しているから言い換えではなく回避ということでしょうか。
>本田さん
はい、そうです!
ただ一つだけ… 平成23年度 試験Ⅰ 問題7 問6で「より簡単な自信のある表現を選んだりその話題を中断したりすること」はコミュニケーションストラテジーで何と呼ばれるかという問題が出ました。答えは回避でした。この定義は言い換えと回避を合わせたものですが、協会側はこれらをまとめて「回避」と区分しているようです。ですからテキストに書かれている内容も合っています。回避と言い換えは、協会の「回避」をさらに細分化したものと考えてください。
ご返信ありがとうございます。承知いたしました。お忙しい中、詳しく教えて頂き本当にありがとうございます。