6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題9解説

問1 第二言語習得

 子どもの第二言語習得と大人の第二言語習得は違うってお話。

選択肢1

 これは正しいです。大人はすでに習得した母語によって認知能力が発達しています。第二言語を習得しようとする場合もその認知能力を用いてゴリゴリ勉強することができるから、上達の初速はめちゃくちゃ速いと言われています。ただ初期段階を過ぎると子どもに比べて伸び悩みます。逆に子どもは母語で培った認知能力が大人ほどないので第二言語を勉強しても最初は大人ほどうまくできない。初速は遅いけど、でもそのうちあっという間に大人を追い抜いちゃうのが特徴。

選択肢2

 大人から第二言語習得をはじめても発音の習得はできます。十分な伝達能力も身につけられます。
 これは間違い。

選択肢3

 「母語のフィルター」と出てきてますがこれ簡単にいうと、母語の知識が邪魔して第二言語習得がスムーズに進まないみたいな意味です。母語をちゃんと習得していると、第二言語を勉強するときも母語ベースで考えちゃう。それで母語が邪魔して第二言語習得を遅らせたりします。母語のフィルターが強いのは子どもじゃなくて大人。この選択肢は間違いです。

選択肢4

 第二言語の最終的な到達度は1つの要因だけで決まるものか? ってのが第一印象。
 言語適性も影響を与えるだろうし、年齢も影響するはずですよね。あとどのくらい第二言語に触れられるかとか、動機づけが高いかどうかなども影響してきます。この選択肢の内容は決めつけ過ぎ感あり。不適切です。

 というわけで答えは1です。

問2 敷居仮説(閾仮説)

 カミンズ(1976)は、第一言語の発達が不十分な子どもにバイリンガル教育を強要すると認知発達にマイナスの影響をもたらすけど、言語発達が十分な子どもにバイリンガル教育をすると二言語を流暢に扱える均衡バイリンガルへ近づくとともに、認知発達に大きなプラスの影響を与えたという研究結果から敷居仮説を提唱しました。要するにその子どもが均衡バイリンガルなのか、偏重バイリンガルなのか、ダブル・リミテッドなのかによって認知発達に与える影響は異なるってことです。

選択肢1

 これは発達相互依存仮説。第二言語の発達は母語の言語能力に依存するという仮説ですね。

選択肢2

 これが敷居仮説。特に均衡バイリンガルに対するバイリンガル教育の話をしてます。

選択肢3


 分離基底言語能力モデル(氷山説)のことです。片方の風船(言語能力)が膨らむともう片方は縮むっていう仮説。

選択肢4


 共有基底言語能力モデルのこと。二つの言語は深層で共有基底言語能力(CUP:Common Underlying Proficiency)を有していると考えます。

 答えは2です。

問3 BICSとCALP

 この問題はBICSとCALPが答えです。ちょっと簡単に説明します。
 スクトナブ=カンガスらは1976年、バイリンガル教育が施されたスウェーデン在住の移民に「表面的には流暢に第二言語を操る子どもたちが、学業の場面においては困難を示す」という現象が見られることを発見しています。その後の研究で、生活場面で必要な会話能力は約2年で学年相当のレベルに達するものの、教科学習で用いられる言語能力は5~7年かかるということが判明しました。この結果からカミンズ(Cummins)は、言語能力を生活言語能力BICS:Basic Interpersonal Communicative Skills)と学習言語能力CALP:Cognitive Academic Language Proficiency)の2つに区別し、2つの言語能力の違いに配慮したバイリンガル教育をすべきと主張しています。

BICS
(生活言語能力)
日常生活で最も必要とされる言語能力のこと。主に話したり聞いたりする能力が中心。日常生活の対人場面ではジェスチャーや表情、状況などの非言語情報が豊富にあるため、コンテクストに支えられているBICSの習得は認知的な負担が少なく、2年ほどで習得可能とされています。
CALP
(学習言語能力)
教科学習などで用いられる抽象的かつ高度な思考を担う言語能力のこと。非言語情報があまりない低コンテクストの状態になりやすく認知的な負担が大きいため、習得には5~7年必要だとされています。

 BICSはおよそ2年で習得、CALPは5~7年で習得するそうです。つまり子どもが外国に住み始めたら、日常会話は2年くらいでできるようになるけど、学校の授業についていけるようになるには5~7年かかるってこと。それだけCALPが難しいようです。

 子どもの場合、  生活言語能力(BICS)  より  学習言語能力(CALP)  のほうが習得に時間がかかる。

 答えは4です。

問4 学齢期の子ども

選択肢1

 会話も重要だけど、授業で読み書きするからこれも重要。学ぶ必要がないなんてことはないです。
 これは間違い。

選択肢2

 これが正しい。
 子供は学校で使う語彙が必要だけど、大人はそうじゃないってことでしょう。

選択肢3

 親の都合で住まいを移動して第二言語を学ぶことに… なんてケースが学齢期の子どもに多そう。とすれば子どもの意志で学習を始めない場合もありますよね。多いかどうかは微妙ですけど、この選択肢は間違い。

選択肢4

 教科の知識を勉強しながらそれに関係する日本語を学ぶことになるので普通は同時に学習していくと思います。
 この選択肢は間違い。

 答えは2です。

問5 内発的動機づけ

 有機体に行動を起こさせるもの、つまり行動の原動力となるものやそのきっかけのことを動機づけ(motivation)と言い、その源泉が有機体の外部にあるのか内部のあるのかで外発的動機づけ内発的動機づけに分けられます。

外発的動機づけ 外部からの報酬を得るため、罰を回避するための行動の原動力となるもの。
内発的動機づけ 自分の内側から湧いてくる行動の原動力となるもの。好奇心や興味など。

 例えば、ある子どもがお母さんに褒められたいがために勉強をしていたとしたら、それは「褒める」という外部報酬を得るためであり、「勉強する」という行為は外部的に動機づけられています。逆にただ知識を得るのが楽しくて勉強しているのであれば、その行動は好奇心や興味に支えられていると考えられるので内発的動機づけです。

 1 内発的動機づけ(興味とか好奇心があるみたい)
 2 外発的動機づけ(賞金獲得という外部報酬が目標)
 3 外発的動機づけ(褒められるという外部報酬が目標)
 4 外発的動機づけ(家族に褒められるという外部報酬が目標)

 答えは1です。




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