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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題8解説

問1 Uカーブモデル

 Uカーブモデルとは、時間経過に伴って異文化への適応・不適応の程度がU字型に変化することを示す異文化適応過程のモデルです。異文化に行ったばかりの頃をハネムーン期といって、新鮮な刺激に触れて気分が高揚する段階を指します。それが過ぎると段々新鮮味がなくなってきて悪いところに目が向くようになり、カルチャーショック期を迎えます。時間が経つとカルチャーショックから回復し、カーブが上向いてくる、この一連のプロセスがU型だからUカーブモデルと呼ばれています。

 1 これはUカーブ後に帰国して、帰国したばかりの最初の段階。Wカーブモデルと関係してます。
 2 異文化の習慣を学んで自文化との違いを認識してるみたいです。カルチャーショックと呼んでいいですね。
 3 これはカルチャーショック期の終わりがけ。回復期とかって呼ばれてるやつ
 4 ハネムーン期の記述です。短期的な旅行でよく経験するやつ。

 したがって答えは4です。

問2 非言語コミュニケーション

 ここでいう非言語コミュニケーションとは、非言語メッセージを使ったコミュニケーションのこと。非言語メッセージとは、外見的特徴、ジェスチャー、表情などなど色々あります。ここでは最も分かりやすいジェスチャーで解説します。

選択肢1

 非言語メッセージのうち、例えばジェスチャーなんかは言語メッセージと一緒に用いられることが多いです。「いいよ!」と言いながらOKサインを作ったり、「イライラする!」と言いながら頭をかきむしったりしかめっ面をしたりするのもそうです。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 日本語で言えば、基本的には「る」がつくと現在時制、「た」がつくと過去時制です。だからこの「る」とか「た」は時制を表す形式と呼ばれています。日本語はことばの上で時制を示す言語です。じゃあ非言語メッセージ、ジェスチャーなどだったらどうでしょう。「る」や「た」に当たるような時制を表すジェスチャーってある? いやあ… 試験中めっちゃ考えたんですけどそんな動きないんじゃないかなあって思います。

選択肢3

 単純で分かりやすいと思うのはそのジェスチャーの意味を知っているからでは? 例えば中国では数字の6~10を日本では見たことない指の形をして表します。一見して6なのか7なのか分からないような。文化を超えて機能するものは単純でしょうが、文化で特有のものは単純かどうか疑わしい。この選択肢は間違い。

選択肢4

 文化ごとに特有なものはあります! 例えばOKサインは日本では「いいよ」の意味だけど、文化によってはわいせつな意味を持ったりするから。でも文化を超えて共通するようなものだってあります。例えば指ハート。この選択肢は間違い。

 答えは2です。

問3 ポリクロニックな時間意識を持つ文化の傾向

 ホールは文化によって異なる方法で時間を意識していることを発見し、一度に一つのことを行うようなスケジューリングをするモノクロニックな時間と、一度にいくつかのことを行うような時間の使い方をするポリクロニックな時間の2つに分けました。何時何分からこれをやって、次にこれとやって… という具合に区切られた時間に一つひとつの処理すべき事柄を当てるような、つまり一つずつ物事を処理していくような時間の使い方をモノクロニックな時間と言います。これとは別に、一つの時間にあれもこれもと同時に物事を処理しようとする時間の使い方ポリクロニックな時間と言います。

選択肢1

 計画や予定を重視するのはモノクロニックな人です。
 そうではなく、その時々の事柄を大切にしようとするのがポリクロニックな人。
 この選択肢が答えです。

選択肢2

 物事を一つずつ処理するのはモノクロニックな人。
 この選択肢は間違い。

選択肢3

 これは謎。モノクロニックとポリクロニックに関係なし。

選択肢4

 これも謎。モノクロニックとポリクロニックに関係なし。

 答えは1です。

 参考文献
 エドワード・T. ホール(著)・岩田慶治(訳)・谷泰(訳)(1993)『文化を超えて』28-36頁.阪急コミュニケーションズ
 エドワード・T.ホール(著)・宇波彰(訳)(1983)『文化としての時間』60-78頁.TBSブリタニカ

問4 アサーティブな自己表現

 平成26年度 試験Ⅲ 問題11 問5では、「異なる意見を持つ相手に対して、攻撃することも卑屈になることもなく自分の考えを伝える」のような態度に基づく行動をアサーティブ・コミュニケーションと言ってます。アサーションって言ったりもしますね。これを借りると…

 1 暗示的ってのが間違い。アサーションはちゃんと伝えます。これは間違い。
 2 自分の意見ははっきり言うけど、相手のことも気遣います。これは間違い。
 3 プレゼンじゃないんだから… 丸めこもうみたいなのはアサーションじゃないです。
 4 これがアサーティブ・コミュニケーション

 答えは4です。
 

問5 ジョハリの窓

 ジョハリの窓はこのようなやつ。

自分が知っている 自分が知らない
他人に知られている 開放の窓
オープンな部分
盲目の窓
盲目な部分
他人に知られていない 秘密の窓
隠れた部分
未知の窓
未知の部分

 ジョハリの窓を知らなくても自分が知ってるかどうか、他人が知ってるかどうかで何となく分かるんじゃないかと思います。
 答えは3です。




コメント

コメント一覧 (5件)

  • 問2、2じゃないですかね?文末が「ない」と書いてあるので、解説されている通り、時制を表すようなジェスチャーは「ない」ということでこれが答えだと思います。4は例えば「はい」や「yes」で同様の頷きのジェスチャーがあったり、共通するものはあるかと思います。

    • >匿名さん
      そうですね。考えたんですけどないかもしれません。でもまた公式の解答が発表されていない以上、選択肢4が答えとは言い切れませんので、「時制を表すジェスチャーはあるのか?」という問いについてしっかり検討しなければいけないと思っています。

  • 問2について、
    「手話(記号言語)」には現在・過去や未来の「文法体系」があります。
    でも手話は「非言語」ではなく当然「言語」であると信じていました。

    ところが、研究社『応用言語学事典』p.377に、
    「手話sign language」=「ノンバーバル(非言語)コミュニケーション」
    である旨、はっきり記述されていました!

    つまり非言語コミュニケーションにはテンスがあります(ので選択肢2は✕)。
    (ちなみに私は即答で2を選択してしまいました)

    • >キキさん
      手話が関係してましたか… 手話は非言語メッセージのうち、ジェスチャーのエンブレムに分類されると理解しています。
      このあたりうろ覚えなので頂いたコメントを参考にして考えてみたいと思います。
      ご指摘ありがとうございました!

  • 過去問をざっと調べましたので、ご参考頂ければ幸いです。
    自分の理解が浅かったことを知りました…

    結論

    『応用言語学事典』研究社では手話を非言語コミュニケーションと定義している。
    しかし、
    日本語教育能力検定試験(委員)の立場は、
    ・手話(サインランゲージ)は言語である。
    ・非言語コミュニケーションは文化を超えて共通であるものを無標とみなす。

    根拠(平成20年まで過去問16年分を調査)

    H27-I-13-(4) (平成27年試験I問題13問1のことです)
    日本人の使うジェスチャーのうち、文化を超えて機能するものとして、
    「静かにさせる」しぐさ(人差し指を口の前に当てる)を挙げている。

    H26-I-11-(3)
    エンブレムのうち文化を超えて共通なものとして、
     腕の振り上げ(強さ・意志)、人・物の輪郭を指でなぞる(表現描写)、
     指差し(指示)、
    が挙げられている。

    H23-III-12-(1)
    手話(サインランゲージ)は「言語」であると主張されている。

    H23-III-12-(4)
    「非言語メッセージ」は文化を超えて共通のものが無標であり、
    文化独自のものは有標であることを前提とする設問となっている。

    備考
    事典は手話をnon-verbal communication(非言語コミュニケーション)であると主張していますが、
    非言語non-languageだとは言っていませんので、このあたり翻訳語の問題かと思います。

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