令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題8解説
問1 プレースメント・テスト
プレースメント・テストはクラス分けを目的としたテストのことです。みんな似た点数だとうまくプレースメントできないので、様々な難易度の問題を用意し、それを難易度順に並べて学習者をちゃんと選別できるようなテスト項目が用意されます。
選択肢1
難易度が異なる問題があるのはいいことですが、ランダムに並べるのはよくない。最初は簡単な問題、徐々に難しい問題にしていって、上級者ほど最後の問題まで解けるような仕組みで作ると管理しやすくなります。別にランダムにしても管理しにくくなるだけでプレースメントができないということはないですが… そういう意味でこの選択肢は間違いというよりは、疑問。
選択肢2
採点者によって点数に違いが出ないようにするのはいいことですが、だから文法テストの得点を重視するとは?
因果関係が成り立ってないです。間違い。
選択肢3
これが答え。しっかりプレースメントするためには、学習者たちの得点が散らばる必要があります。得点を散らばらせるためには問題をたくさん用意して、いろんな難易度の問題を用意して… という工夫が必要です。この選択肢は正しい。
選択肢4
文法、語彙、漢字、聴解などなどいろんなテストがある中で、例えば、漢字圏の学習者と非漢字圏の学習者とでは漢字テストの点数が大きく違ってきます。合計得点だけを見ると、この学習者は文法が得意、苦手、漢字が得意、苦手みたいな部分は見えてきません。そうした部分をプレースメントに反映させるため、合計得点も重要ですけど、正答した問題の項目が何であるかも見たほうがいいです。この選択肢は間違い。
したがって答えは3です。
問2 小テスト
<資料1は>は動詞を正しい形に直すテストになっています。どんな形が正しいかは、後件の内容を見ないといけません。つまり選択肢4のような能力が必要です。
選択肢1
時制を主節と一致させるなら全部ル形になってしまい、③も④も間違いになってしまいます。時制を見る問題ではありません。
選択肢2
前接する助詞からは他動詞なのか自動詞なのか、移動動詞なのかくらいはなんとなーく分かるんですけどそれだけ。活用形まで分かりません。
選択肢3
動作主が誰かによって活用形が決まる? そんなわけない。
選択肢4
正しい記述です。例えば③なら「友達に貸してもらう」という事態が実現する前に「財布を忘れる」という事態が実現する必要があるので、主節よりも過去を表すために「忘れた」としなければいけません。文の意味に合わせて活用形を考える必要があるとはこのようなことです。
答えは4です。
問3 期末テスト
選択肢1
期末テストはそれまでのカリキュラムで学んだことがどのくらい定着しているかを測定する総括的なテストです。だからテストではそれまでのカリキュラムで学んだことが出題されます。その正答率は学習者の到達度として解釈できるのは当然です。この選択肢が答え。
選択肢2
期末テストは目標基準準拠テストなので、ちゃんと勉強すれば満点取れます。だから正規分布になりません。
正規分布になるのは集団基準準拠テスト。
選択肢3
期末テストは出題範囲が決まっています。これは間違い。
選択肢4
授業内容が同じだったら別に同じテストでもいいです。教員違ったらテストも変えるなんて何のため?
答えは1です。
問4 多肢選択式や記述式
選択肢1
真正性とは、テストに使われている素材や場面が、現実の言語使用状況をどれだけ反映しているかの度合いのことです。<資料2>を見ても分かるとおり、記述式のほうが絵があって真正性が高い問題になっています。
この選択肢は記述が逆です。
選択肢2
言語形式、つまり文法のほうに焦点を当てて問題を作っているのは多肢選択式です。記述式は言語形式よりも意味に焦点を当てています。この選択肢は逆。
複数の選択肢から一つを選ばせるような多肢選択法は文法問題や単語の問題に使いやすいので、言語形式(文法)に焦点を当てた問題を作りやすいです。記述はそれが難しい。
選択肢3
<資料2>の記述式は絵がありますので、絵を見れば想像しやすい。コンテクスト(文脈)を利用して回答できます。
多肢選択式は文字による情報しかありませんので、記述式よりはコンテクストに依存していません。
この選択肢が答え。
選択肢4
採点者が変わっても採点結果が安定するかどうかの度合いをテストの客観性と言います。
多肢選択式はあらかじめ答えというのが決まっているので誰が採点しても同じ結果となり客観性は高いですが、記述式では書かせたストーリーにどのように点数をつけるかの絶対的な基準を設けるのが難しく、客観性が低くなります。
この選択肢は記述が逆です。
したがって答えは3です。
問5 識別力
識別力とは、あるテスト項目の正誤とテスト得点の高さの関連性の度合いのことです。ある項目に対して、テストの得点が高い学習者は正答し、低い学習者は誤答するようなテストは識別力が高いです。逆にテストの得点が高い学習者が誤答して低い学習者が正答する、あるいはどちらも正答したり誤答するようなテストは識別力が低いです。
テストを受験する人の能力をしっかり識別できるかどうか、その度合いが識別力。テストは識別力が高くないといけません。
選択肢1
標準偏差の記述。
選択肢2
これが識別力を確認する方法。
選択肢3
????
選択肢4
得点の散らばり、つまり分散?
答えは2です。
コメント
コメント一覧 (3件)
いつもお世話になっております。
ありがとうございます!
大変恐縮ですが、コメントをさせて頂きます。
期末テストの種類にもよりますが、
学習者の到達度を測る絶対評価(目標基準準拠テスト)であれば、
目標に対する達成度を測ります。
学習項目を全部習得していれば100%の得点が可能で、
得点の分布は正規分布になりません。
ちなみに、相対評価(集団基準準拠テスト)の場合は正規分布になることが理想とされているそうです。
以上、ご参考まで。
>sunさん
ご指摘ありがとうございました! 助かりました!
過去問を解くたびに思いますが、日本語教育能力検定試験は、この「識別力」の観点から見て、どうなの…と思う問題も多いですよね。試験1問題11問3の各国のハンドジェスチャーの問題とか…。あれ、成績上位の人でも分からなかった人たくさんいるんじゃないですかね。ああいうのはテンション下がるからやめてほしいです。本番が不安になります(笑)