10月10日の毎日のんびり勉強会のテーマは「死喩」。誰でも参加可! 詳しくはこちら

令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説

目次

令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題3解説

問1 イ形容詞とナ形容詞

 「イ形容詞」と「ナ形容詞」は何の観点から分類されたものなんでしょう。
 言語は一般的に①形態的、②統語的、③意味的な観点から分類がなされます。一つずつ説明しますと…

形態的な分類とは?

 例えば「取る(tor-u)」と「寝る」はどちらも動詞ですが、それぞれナイ形にしたときに「取らない(tor-anai)」「寝ない(ne-nai)」となり、一方には -anai が現れ、もう一方には -nai が現れるという形態的な違いが見られます。これ以外にも様々な形態的な違いがあります。この形態的な観点から動詞を分類したとき(言語の形に注目して分類したとき)に、私たちがよく知っている「五段動詞」「一段動詞」などの分類が出てきます。

統語的な分類とは?

 例えば副詞「ぶるぶる」はその後ろに「震える」などの動詞がきます。でも同じく副詞の「とても」はその後ろに「高い」などの状態性の語がきます。同じ副詞ですが主に何を修飾するのかが違うわけです。このように統語的な位置(文の中でどのように機能するか)によって副詞を見たとき、「ぶるぶる」のような動詞を修飾する副詞を様態副詞、「とても」のような状態性の語を修飾する副詞を程度副詞などと呼んだりして分類します。

意味的な分類とは?

 例えば、欠如詞という用語があります。これは、実際にはないもの、見えないものを積極的に捉えて表した語のことで、代表的なものとしてドーナツの「穴」などが挙げられます。私たちが「穴」と呼ぶものは周囲のドーナツの生地があってこそ見えるもので、でも実はそこには何もない。何もない空間を「穴」と名付けています。こういう観点は形態でも統語でもなく、ただその意味に注目して「欠如詞」という分類をしただけです。言語学的に意味がある分類かというとそうではなく、”人間は無いものも認識できるんだ”くらいの、どっちかというと言語学から離れて認知っぽい方面に入っていきます。
 ※言語学において、言語をただ意味だけによって分類するのは大変危険なことです。形態的、統語的な分類は目に見える形に基づいて分類するので誰が見てもそのように分類できます。しかし意味だけで分類しようとすると、意味の取り方は人によって違うから、その分類が誰にとっても納得できるものは言えなくなります。

 長くなりましたが、「イ形容詞」と「ナ形容詞」はどのような観点に基づく分類なのか。どちらも事物を形容する点で共通していますが…

 (1) 美しい(utukusi-i) → 美しくない(utukusi-kunai)
 (2) きれい(kirei)   → きれい(kirei-denai)

 ナイ形にしたときに「美しい」には -kunai が現れ、「きれい」には -denai が現れます。このほかにも、述語に置く場合は「美しい」は「だ」がつかないのに、「きれい」は「だ」がつきます。その形態的特徴が違うわけです。
 よって「イ形容詞」と「ナ形容詞」の別は形態的特徴に基づく分類と言えます。

 答えは1です。

 ※選択肢にある「機能」は錯乱肢で、「意味」とほぼ同義だと思って大丈夫です。

問2 イ形容詞とナ形容詞の混同

選択肢1

 理由の「~ので」に接続するときは、ナ形容詞は「ナ形容詞語幹+なので」の形になります。(豊富なので)
 でもこの学習者は「ナ形容詞語幹+だので」だと勘違いしているみたい。
 イ形容詞とは関係なく、ナ形容詞の接続を誤って覚えています。

選択肢2

 2つのイ形容詞を並べるとき、「安くてうまい」みたいに「~くて」で繋げます。(安くておいしい)
 この学習者は基本形を使って繋げているふりをしていますけど間違いです。
 ナ形容詞とは関係なく、イ形容詞の接続を誤って覚えています。

選択肢3

 イ形容詞は「語幹+かった」の形でタ形になりますが、ナ形容詞は「語幹+でした」を用います。
 「苦しい」はイ形容詞なので「苦しかった」と言うべきですが、ナ形容詞の活用をイ形容詞に適用して「苦しいでした」になっています。
 イ形容詞とナ形容詞を混同しています。

選択肢4

 イ形容詞の連用形は「語幹+く」の形をとります。例えば「美しくなる」「苦しくない」などです。
 しかしイ形容詞「いい」は連用形で「よく」になる、変則的な活用をする語です。「カッコいい」も「カッコいく」ではなく「カッコよく」となりますよね。
 それを知らないことで「いくありません」と誤用しています。イ形容詞の用法を誤って覚えているだけです。ナ形容詞とは関係ありません。

 したがって答えは3です。

問3 例外的な形容詞

  イ   について

 問題文によると   イ   はナ形容詞だけど連体形が例外と言ってます。

 (1) きれいな人 (ナ形容詞語幹+な+名詞)
 (2) 自由な国  (ナ形容詞語幹+な+名詞)
 (3) 独特な考え (ナ形容詞語幹+な+名詞)

 普通のナ形容詞は名詞を修飾するとき(連体形のとき)、「な」を介在して名詞に接続します。しかし…

 (4) ✕同じな考え
 (5) 〇いろいろな考え

 「いろいろ」は「な」を介在しますが、「同じ」は「な」を介在しません。「同じ」はナ形容詞でありながら連体形のときに例外的な活用をします。なので   イ   には「同じだ」が入り、選択肢1か2に絞れます。

  ウ   について

 問題文によると   ウ   は単独では名詞の前で用いることができないそう。

 (6) 美しい人 (普通形+名詞)
 (7) 低いところ(普通形+名詞)
 (8) 深い海  (普通形+名詞)

 イ形容詞は名詞を修飾するとき、そのままの形で接続できます。しかし…

 (9) ✕多い人
 (10) 〇面白い人

 「多い」はそのままの形で名詞に接続して「多い人」みたいに言うことはできません。どうしても接続したければ「多くの」としないといけないんです。これが例外。だから   ウ   には「多い」が入ります。

 なので答えは1です。

問4 連体詞

 「大きな」「小さな」は連体詞と呼ばれています。「な」があるからナ形容詞だと思ってしまう人がいるんですが、ナ形容詞ではありません。

 (1) きれいな人 (連体形) → きれいだ (終止形)
 (2) 自由な国  (連体形) → 自由だ  (終止形)
 (3) 独特な考え (連体形) → 独特だ  (終止形)

 ナ形容詞は名詞を修飾するときに「な」を介在します。この「な」は連体形で現れるものなので別の活用形では現れません。例えば終止形では「~だ」の形になります。これは典型的なナ形容詞の特徴です。しかし、「大きな」「小さな」はそのような形態的な特徴を有していません。

 (4) 大きなもの → ✕大きだ
 (5) 小さなもの → ✕小さだ

 「大きな」「小さな」はナ形容詞と同じような「~だ」の形を持ちません。つまり「大きな」「小さな」は活用しない語であり、語尾の「な」は活用の一部ではなく、そもそも語の一部だと考えられます。しかも「大きな」「小さな」は必ず名詞に接続します。「大きな動く」などと名詞以外に接続することはできません。

 このように、活用せず、必ず名詞に接続する語は連体詞と呼ばれています。
 なぜ「大きな」「小さな」はナ形容詞ではなく連体詞と呼ばれているかというと、上述の通りナ形容詞とは違って活用しないからです。

 したがって答えは3です。

問5 注意が必要な形容詞の特性

選択肢1

 名詞述語の否定形は「学生で(は)ありません」「学生で(は)ないです」の2つ。口語形も含めると「学生じゃありません」「学生じゃないです」の4つもあります。しかし、イ形容詞は「美しくない(です)」「美しくありません」の2つしかありません。
 イ形容詞の丁寧体の否定形は名詞述語とは違いますが、1つじゃなくて2つあるので間違い。

選択肢2

 例えばイ形容詞「無い」の対義語は動詞「ある」です。
 対義語は同じ品詞とは限りません。この選択肢が答え。

選択肢3

 イ形容詞なんて死ぬほどあるし、変化の「なる」を付けられないものだってあるんじゃないか?って思ったんですけど、本当に無いんですね。新しい発見。

選択肢4

 これも選択肢3と同じく、本当にないみたいです。

 したがって答えは2です。




コメント

コメント一覧 (1件)

  • 初めてコメントさせていただきます。
    過去問解説いつも参考にさせていただいております!ありがとうございます。

    問2について、1を選んでしまいました…。
    「ので」に接続するとき、イ形容詞は辞書形で接続する(「素晴らしい」+「ので」=「素晴らしいので」等)ため、
    問題文の「豊富だので」も、ナ形容詞「豊富だ」の辞書形「豊富だ」+「ので」=「豊富だので」という誤用ではと考え、
    「イ形容詞の接続方法をナ形容詞に当てはめている!」と考えて嬉々として1を選んでしまいました。

    https://nihongonosensei.net/?p=21993
    ↑先生のこちらの解説も拝見したのですが、やはりイ形容詞は「ので」に普通形(辞書形)接続するとのことなので、選択肢1はイ形容詞とナ形容詞の誤用なのではと思ってしまいます。

    一方、選択肢3については、
    「イ形容詞は「語幹+かった」の形で過去形になりますが、ナ形容詞は「語幹+でした」です」と解説いただいたのですが、
    イ形容詞「苦しい」の語幹は厳密には「苦し」なので、ナ形容詞と混同しているのであれば「苦しでした」になると考えました(細かいですが…)。
    「苦しいでした」になっているということは、イ形容詞の過去形の作り方を間違えて覚えているだけと判断してしまい、選択肢1と悩んだのですが外してしまいました。

    公式の回答が選択肢3になっているのでそれで納得するしかないのですが、時間をかけて考えた割に外したのが悔しく吐き出させていただきました…泣。
    長文失礼いたしました!サイト非常に活用させていただいています。今後も陰ながら応援させていただけますと幸いです。

コメントする

目次