令和3年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題3D解説
(16)等位・並列節
問題文にもあるように、複文は大きく4つに分類されます。補足節、名詞修飾節、副詞節、等位・並列節です。
等位・並列節が直接出題されるのは平成23年度から初めてになります。複文というと補足節、名詞修飾節、副詞節が深いのでそっちが出題されることが多かったんです。
等位・並列節とは、従属節が意味的に主節に従属しておらず、従属節と主節がほぼ対等に近い関係を持っている従属節のことです。一つずつ見ていきます。
選択肢1
従属節「掃除もするし」と主節「洗濯もする」は何だか並列関係にあるように感じませんか。
従属節は主節に意味的に従属しているわけではなく、主節に対して対等な関係にあります。
これが等位・並列節。
選択肢2
主節「テレビを見た」の事態が成立する前に、従属節「ソファーに座って」という事態が成立していることを表します。物事の順序という面からみると、従属節の事態があってから主節の事態があるということなので、主節の事態は従属節の事態成立によって成立すると言えます。(なんか分かりにくい言い方だけど) これは副詞節に分類されます。
※こういうふうに2つの出来事が連続することを表すものを「継起」と言います。
選択肢3
主節「びっくりした」の程度を表しているのが従属節「息が止まるくらい」です。
この従属節は主節の程度を表しているので意味的に従属しています。副詞節に分類される従属節です。
選択肢4
主節「取っていいですよ」の程度を表しているのが従属節「好きなだけ」です。
この従属節も主節の程度を表しているので意味的に従属しています。副詞節に分類される従属節です。
したがって答えは1です。
(17)間接疑問
「どこに置いたか分からない」「正しいかどうか調べる」のように、「か」「かどうか」等で名詞句化され疑問の意味を持つようになった従属節を疑問節と呼びます。
疑問節の後にガ格がとれるかどうか、各選択肢で例文を考えてみます。
1 〇好きかどうかが重要だ。
2 〇続けるかどうかが問題だ。
3 ✕できるかどうかが不満だ。
4 〇間に合うかどうかが心配だ。
選択肢3だけダメでした。
答えは3です。
これは面白い問題でした。なんで「不満だ」は疑問節が取れないんだろうって考えるともっと面白い。
(18)内の関係
「長距離を走れるこの車」は、名詞修飾節内の述語「走れる」と被修飾名詞「この車」の間にガ格の関係が認められます。「この車が走れる」と言えるから。こういう感じで名詞修飾節内の述語と被修飾名詞の間に何らかの格関係があるような表現を内の関係と言います。
逆に「雨が降っている音」は名詞修飾節の述語「降っている」と被修飾名詞「音」の間に格関係がないので外の関係です。
それぞれの選択肢を言い換えてみます。
選択肢1
名詞修飾節「お菓子を買った」の述語「買った」と被修飾名詞「おつり」の間には格関係はありません。
「おつりが買った」「おつりに買った」「おつりを買った」みたいにいろんな格助詞を入れて文を作れないから。
これは外の関係。
選択肢2
名詞修飾節「駅前の宝石店に泥棒が入った」の述語「入った」と被修飾名詞「事件」の間には格関係はありません。
「事件が入った」「事件に入った」「事件を入った」みたいに格助詞が入れられないから。
これは外の関係。
選択肢3
名詞修飾節「子どもに算数を教える」の述語「教える」と被修飾名詞「アルバイト」の間にはデ格の関係があります。
「アルバイトで教える」と言えるから。
これは内の関係です。
選択肢4
名詞修飾節「最近大学で広まっている」の述語「広まっている」と被修飾名詞「噂」の間にはガ格の関係があります。
「噂が広まっている」と言えるから。
これは内の関係です。答えはこれ。
公式の答えは4ということですが、選択肢3も内の関係ですので問題不成立です。
(19)ば、たら、と、なら
日本語教師と学習者を苦しめる「ば」「たら」「と」「なら」が来ました。
これもコツコツ例文検証しなければいけません。
選択肢1
「ば」は、主節が行為要求や希望・意志のモダリティを持つ場合、従属節は状態性の述語に限られるという特徴があります。動作性の述語は原則持つことができません。この選択肢は間違いです。
(1) 〇稼ぎがないなら、無駄遣いすべきではない。 <義務>
(2) 〇分からなければ、話を止めて聞いてもいいですよ。 <許可>
(3) 〇分からなければ、すぐ手を挙げなさい。 <命令>
(4) 〇性格が良さそうだったら、連絡を交換してみようと思う。 <意志>
(5) ✕稼ぎが減れば、無駄遣いすべきではない。 (動作性述語)
選択肢2
「と」は、主節に行為要求や勧誘、意志のモダリティを持つ場合、とても使いにくい性質があります。次のような場合は「たら」を使ったほうが自然です。
(6) 〇不審者を見かけたら、すぐ電話してください。 <行為要求>
(7) ✕不審者を見かけると、すぐ電話してください。 <行為要求>
この選択肢は正しいことを言っています。
選択肢3
「たら」は、主節が行為要求や勧誘のモダリティを持つ場合でも普通問題なく使えます。この選択肢は間違っています。
(8) 〇薬を飲んだら、早く寝るべきだ。 <義務>
(9) 〇薬を飲んだら、早く寝てください。 <依頼>
(10) 〇薬を飲んだら、激しい運動はしてはいけません。 <禁止>
(11) 〇薬を飲んだら、早く寝なければいけません。 <義務>
選択肢4
「なら」も主節が行為要求や勧誘のモダリティを持つ場合でも普通問題なく使えます。この選択肢は間違っています。
(12) 〇薬を飲むなら、ご飯を食べてからにしてください。 <命令>
(13) 〇薬を飲むなら、激しい運動はしてはいけません。 <禁止>
(14) 〇薬を飲むなら、水と一緒でなければいけません。 <義務>
したがって答えは2です。
(20)従属度
一口に従属節と言っても、主節に対する従属度は異なります。かなり従属度が高いナガラ節を見てみましょう。
彼はyoutubeを見ながらご飯を食べている。
【主節】彼はご飯を食べている
【ナガラ節】youtubeを見ながら
主節の動作の主体は「彼」ですが、ナガラ節の主体も「彼」です。ナガラ節は必ず主節の主語を利用して機能しますので、主節に対する従属度が高い従属節です。だから「彼はyoutubeを見ながら、彼女はご飯を食べている」のような非同一主体の文を作ることはできません。
しかし、次のように引用節は主節と従属節の主語が違っても大丈夫。この場合、主節の主語は「私(話し手)」ですが、従属節の主語は「私(彼)」です。
「私はやっていない」と彼が言ったのを聞いた。
【主節】(私が)彼が言ったのを聞いた
【引用節】「私はやっていない」と
従属節の従属度は主語以外にも様々な見方がありますがここでは省略します。主語が一致するかどうかは従属度を測る一つの観点に過ぎません。ちなみに、従属度がかなり低い従属節は引用節や等位・並列節です。同一主語である必要はありません。
選択肢1
この文は等位節で主節と従属節が対等な内容となっています。「田中さんは来る」と「山田さんは来ない」はそれぞれ独立した事態を述べているだけですので、従属節の主節に対する従属度はかなり低いです。
選択肢2
「図書館に寄った」という事態の成立は、「会社に行く前に」という別の事態の成立に依存しています。
意味的に従属しているので従属度は高め。
選択肢3
ナガラ節は上述したように従属度が極めて高い部類です。
選択肢4
主節「みんなは笑った」という事態が成立した原因・理由は、従属節の事態が成立したからです。主節と従属節の間に事実的な因果関係があります。因果関係を表す点で意味的に従属しているので従属度は高め。
この中では選択肢1が最も従属度が低いといえます。
したがって答えは1です。
コメント
コメント一覧 (2件)
問題(16)は、私は迷わずに選択肢1を選びました。「等位・並列節」についてのしっかりとした理解はないのですが、単純に「並列」で、主従関係がないものと考えて、前後を入れ替えても意味が変わらない選択肢1(掃除もするし、洗濯もする。→洗濯もするし、掃除もする)を選びました。選択肢2で前後を入れ替えると、「テレビを見て、ソファーに座った」となり、元の文とは意味が変わってしまうので、選択肢1を選びました。
高橋先生、おはようございます。いつもお世話になりありがとうございます。
問題(16)について、養成講座の時の文法関係の資料をよく見直してみました。
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まず関係節は、1.主従関係と2.並列関係の2つに大きく分けられ、主従関係の関係節としては、①名詞修飾節、②補足節、③副詞節に分けられます。「て形」の「副詞節的用法」は、条件節、様態節などと同じ③副詞節の下位分類になります。
そして、2.並列関係ものとしては、「連用形」「~が」「~たり」「~し」など、そして「て形」の並列節があります。
つまり、「て形」には、1.主従関係ー副詞的用法のものと2.並列関係-並列(並列節)のものと、両方あります。
<並列節>2つの節が、対等な関係で並ぶ。主従関係がない。
【連用形】その店員は対応もよく、身のこなしもスマートだった。
【が】アルファベットは書けますが、アラビア語は書けません。
【たり】週末はジョギングをしたり、猫と遊んだりしている。
【し】ベトナム春巻きも作れるし、フォーも作れるし、それにブンも作れますよ。
★【て形】(て形の並列節)
・パンダの赤ちゃんは丸くて、小さいです(並列節/並列(=そして))。
・この教室は狭くて暗い(並列節/並列(=そして))。
・夏は非常に暑くて、冬は非常に寒い(並列節/対比(=が))。
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☆主従関係ー副詞的用法の「て形」の例:
【継起】服を洗濯して、外に干した。(=~てから)
【付帯】その刑事は足を組んで、座っていた。(=ながら)
【方法・手段】古い着物を使って、服を作った(=~によって、で)
【仮定】駅から歩いて、30分位のところにあります。(≒~たら)
etc….
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よって、問題Dの「等位・並列節」は、2.の並列関係-並列節の「並列」の「パンダの赤ちゃんは丸くて、小さいです」「この教室は狭くて暗い」のタイプの用法を指しているのではないかと考えられますが、いかがでしょうか。