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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題6解説

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令和2年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題6解説

問1 談話能力を高める指導

 文章中に「社会言語能力や談話能力」とあります。ここから思い出したいのはカナルとスウェイン (M.Canale & M.Swain)によって提唱された、言語運用のために必要な4つの能力(コミュニケーション能力)。

文法能力 音声、発音、単語、文法、綴り、語構成など、単一の文レベルで正確に使用できる能力。
正しさ、正確さの能力。
談話能力 文全体の意味や形式などを一致させ、前後の文脈を結びつけた分かりやすい談話を複数の文にまたがって作り出す能力。
分かりやすさ(明晰さ)の能力。
社会言語能力
社会言語学的能力
その場の場面や状況にあったふさわしい表現を使用できる能力。
社会的に「適切」な言語を使う能力。
ふさわしさ(適切さ)の能力。 語用論的能力ともいう。
方略能力
ストラテジー能力
言語知識が不十分でコミュニケーション上の問題が起こった時にそれを乗り越えるための能力。
コミュニケーション・ストラテジーを使う能力。

 問1は談話能力について問う問題です。自然な談話を実現したり、複数の文を結び付けて一貫性、結束性を保つように文章理解をする能力のこと。選択肢を見てみましょう。

 1 方略能力の指導 (表情や体の動き)
 2 社会言語能力の指導 (場面に合った表現)
 3 文法能力の指導 (発音)
 4 談話能力の指導 (相づちやタイミング)

 選択肢4の「相づちやそのタイミング」は、全くなされなければ自然な談話が形成されませんし、かといって相づちをたくさん打っても、打つタイミングを間違えても不自然になります。相づちやそのタイミングは当該談話を自然なものとして成り立たせることに寄与します。

 したがって答えは4です。

問2 コミュニケーション・ストラテジー

 コミュニケーション・ストラテジーとは、学習者がコミュニケーション中に言語上の問題に遭遇したとき、その問題を切り抜けようとして用いる対処法のことです。簡単にまとめると次のようなストラテジーがあります。

言い換え 似ている意味の語を使ったり、新しい言葉を作り出したり、伝えたいことの特徴や要素を説明する。
借用 母語の言い方をそのまま翻訳したり、母語を使用する。
援助要請 聞き手に正しい表現を尋ねる。
身振り 身振り手振り(ジェスチャー)を使用する。
回避 意味が分からないことについて話さないようにしたり、話し続けることができずに発話の途中でやめる。

 1 学習ストラテジー記憶ストラテジー
 2 コミュニケーション・ストラテジーの借用
 3 コミュニケーションを達成するための方策には見えない。
 4 コミュニケーションを達成するための方策には見えない。

 選択肢1はコミュニケーション上の問題がそもそも起きていませんし、選択肢3は繰り返すだけで当該コミュニケーションの問題を解決していません。選択肢4も習った表現を積極的に使うだけで、そもそもコミュニケーション上の問題は発生していません。この3つはコミュニケーション・ストラテジーとは関係のないものです。

 答えは2です!

問3 書く+コミュニケーション

 下線部Cにしたがって「書く」活動でコミュニケーション能力を養うようなやつを探します。

 1 手紙を書いて、相手とコミュニケーションをとってます。
 2 メールで相手とコミュニケーションをとってます。
 3 意見を書いてコミュニケーションをとってます。
 4 物語を書いただけで相手がいません。

 選択肢4だけ相手がいないのでコミュニケーションではありません。
 答えは4です。

問4 プロフィシェンシー

 プロフィシェンシーとは、実生活における第二言語の総合的な運用能力のことです。例えば日本語能力試験(JLPT)は受験者のプロフィシェンシーを測定するテストで、幅広い日本語の知識を測るテストです。

 一番近いのは選択肢3。こういうのをプロフィシェンシーと呼びます。
 答えは3です。

 ※プロフィシェンシーに関する本を探し中…

問5 語用論的転移

 語用論的転移とは、母語における語用論的規範や社会文化的規範を目標言語に適用して使うことです。それによって生じる誤りを語用論的誤りと言います。

選択肢1

 「なら」が「とすると」になる文法的な誤り。目標言語の勉強不足によって条件節の誤りが起きていると考えられるので、これは言語内エラー
 語用論的な誤りではないし、母語の影響を受けた誤りでもない。

選択肢2

 お礼状に適していない「もらう」「驚愕する」を使っています。文法的には問題ありませんが、適切な場面で適切な表現を使えていないので語用論的には問題があります。「もらう」は「いただく」、「驚愕する」は「驚く」「びっくりする」などのほうが良さそう。しかしながらこれは母語からの転移による誤りではなく、目標言語の勉強不足によって起きていますから語用論的転移ではありません。

選択肢3

 日本語では目上に誘われたとき、このように直接「行きません」と断るのは好ましくありません。「約束があるのですみません」などと言う方が自然です。この学習者の母語ではおそらく「行きません」と直接言うものと思われ、その規則を日本語にも適用しているものと思われます。典型的な語用論的転移の例です。

選択肢4

 「正直に言うとね」を「honestlyに言うとね」と言ったのは、ただ「honestly」が日本語に訳せなかっただけ。

 したがって答えは3です。

 




コメント

コメント一覧 (3件)

  • 問題2は、私も選択肢2が正しいと思いますが、3と4について質問をさせていただきます。
    「日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド」のテキストでは、コミュニケーションストラテジーを、身振り、言い換え、回避、話題転換、言語交換(意識的転移)、リペア、援助要求の7つに
    分類し、このうち、リペアについて「繰り返しの要求、または分かった部分だけを繰り返し相手に確認を求めたりする」と説明しています。問題2の選択肢3は「母語話者に自分の発話を訂正されたら、その表現を繰り返す」とあり、母語話者に訂正された正しい発話の文を繰り返すのであれば、リペアのことを言っているような気がします(←正解が2つになってしまうので、この考えには誤りがあると思われますが)。また、選択肢4は、新しく覚えた表現を積極的に使う、とありますが、積極的に使う目的は、記憶への定着と思われるので、記憶ストラテジーの生成効果に近いような気がしますが、どうでしょうか?

    • 問題2の選択肢3は、[フィードバックの受けて自分の誤りを修正して言い直すこと=アップテーク]のことだと思います。会話の中でも生じることはあるでしょうが、問題文のもっとも適当なもの、と言う観点から見ると、正答には当たらない、と考えています。

    • 1.選択肢3について
      リペアは
      「繰り返しの要求、または分かった部分だけを繰り返し相手に確認を求めたりする」
      という援助要求であるのに対し、
      問題2の選択肢3は
      「母語話者に自分の発話を訂正されたら、その表現を繰り返す」
      で援助要求ではないので、
      問題2の選択肢3はリペアではないと思います。

      2.選択肢4について
      「新しく覚えた表現を実際の会話の場面で積極的に使う」目的は「記憶への定着」ではないと思います。
      「実際の会話の場面で」とあるように、実用的な学習であることから、認知ストラテジーだと思います。
      生成効果は問題を出し合うなどして記憶を促進させる方法なので、ここでは該当しないと思います。

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