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令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

目次

令和元年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題11解説

問1 BICSとCALP

 BICSとCALPについて

 スクトナブ=カンガスらは1976年、バイリンガル教育が施されたスウェーデン在住の移民に「表面的には流暢に第二言語を操る子どもたちが、学業の場面においては困難を示す」という現象が見られることを発見しています。その後の研究で、生活場面で必要な会話能力は約2年で学年相当のレベルに達するものの、教科学習で用いられる言語能力は5~7年かかるということが判明しました。この結果からカミンズ(Cummins)は、言語能力を生活言語能力BICS:Basic Interpersonal Communicative Skills)と学習言語能力CALP:Cognitive Academic Language Proficiency)の2つに区別し、2つの言語能力の違いに配慮したバイリンガル教育をすべきと主張しています。

BICS
(生活言語能力)
日常生活で最も必要とされる言語能力のこと。主に話したり聞いたりする能力が中心。日常生活の対人場面ではジェスチャーや表情、状況などの非言語情報が豊富にあるため、コンテクストに支えられているBICSの習得は認知的な負担が少なく、2年ほどで習得可能とされています。
CALP
(学習言語能力)
教科学習などで用いられる抽象的かつ高度な思考を担う言語能力のこと。非言語情報があまりない低コンテクストの状態になりやすく認知的な負担が大きいため、習得には5~7年必要だとされています。

 BICSはおよそ2年で習得、CALPは5~7年で習得するそうです。つまり子どもが外国に住み始めたら、日常会話は2年くらいでできるようになるけど、学校の授業についていけるようになるには5~7年かかるってこと。それだけCALPが難しいようです。

選択肢1

 カミンズ(Cummins)が提唱した発達相互依存仮説では第一言語能力と第二言語能力の転移の可能性について述べられています。母語が発達していると第二言語も発達しやすくなり、母語が未発達だと第二言語も発達しなくなるという仮説で、その様子を二つの氷山にたとえました。二つの氷山(言語)は深層で共有基底言語能力を有しているとされています。これに基づくと「母語で培った認知能力が発達を妨げる」は間違いで逆。正しくは「母語で培った認知能力が発達を促進させる」です。

選択肢2

 BICSもCALPも言語能力ですから、当然コミュニケーションを介して発達します。これが答え。

選択肢3

 BICSは日常生活で必要な言語で、言語そのものが理解できなくても、相手の表情や態度、状況などの非言語情報から意味を推測できたりします。つまり高コンテクストで場面依存的です。逆にCALPは学習場面で使う言語なので非言語情報が少なく、場面にあまり依存しない低コンテクストの状態になりやすいです。
 この選択肢は逆。

選択肢4

 上述の通り、BICSは2年程度、CALPは5~7年かかるといわれています。これも逆。

 したがって答えは2です。

問2 リキャスト

 訂正フィードバックは誤りの存在を明示するかどうか、正用を提示するかどうかでいろいろと分類されています。この問題のリキャスト誤りの存在を明示せずに正用を提示するタイプの訂正フィードバックです。各選択肢を見て、①誤用の存在を明示していないもの、②正用を提示しているものを探しましょう。

暗示的 理解確認 学習者の発話に対して、自分の理解を述べ、正しいかどうかを確認する。 正用を提示
インプット誘発型
リキャスト 間違っているところだけを正しく言い直して学習者に提示する。
明確化要求 言っていることが理解できなかったことを伝え、言い直させる。 正用は提示せず
自己訂正を促す
アウトプット促進型
プロンプト
繰り返し 間違っている発話全体や間違っている部分をそのまま繰り返す。
明示的 メタ言語的
フィードバック
文法を説明したり、情報を与えたりして間違っていることを教える。
誘導 途中まで文を与えるなどして、正しい言い方を引き出す。
明示的訂正 間違いがあることを指摘し、正しい言い方を提示する。 正用を提示
インプット誘発型

選択肢1

 教師は生徒が言った内容をそのまま繰り返しました。これによって誤用の存在を生徒に明示しています。上表における「繰り返し」の訂正フィードバックにあたります。

選択肢2

 教師は「もう一度お願いします」と言いました。これだけだとただ単に聞き取れなかったから聞き返したとも取れますから、誤用の存在を明示しているわけではありません。しかし正用である「インターネットで見られます」「インターネットで見ることができます」を教師側から提示しているわけではありませんから、リキャストではありません。
 上表における明確化要求。

選択肢3

 教師は生徒の発話を途中まで言いました。生徒に誤用の存在を明示しています。途中まで文を与えて正しい言い方を引き出そうとする誘導です。

選択肢4

 教師は話の流れを遮らずに「インターネットで見られますか」と返しました。誤用の存在を明示せずに話を進めている感じですね。さらに正用である「インターネットで見られます」を教師自身が発話して提示しています。これがリキャスト。

 答えは4です。

問3 不安を軽減するための対応

選択肢1

 文法的に正しい表現が言えるかどうか、そこが不安だからうまく話せなくなるって人は多いです。なので文法とかはとりあえずほっといて、単語単語でもいいから伝えることを優先してみてみたいな指導は良いと思います。

選択肢2

 日常会話ができるようになるには2年(BICS)ほどかかるとされるので、この2年間まったく教科学習をしないとなると児童生徒は大事な学齢期を空白で過ごすことになっちゃいます。教科学習で使うことばは難しいので最初からできるようにはなりませんけど、簡単なところから徐々に習得できるよう、周りの生徒のレベルにもついていけるよう指導するのが現実的で、それが最も不安を軽減する方法ではないかと思います。教科学習が全くできないとかえって不安が増すから。この選択肢は間違い。

選択肢3

 不安軽減のために児童生徒の母語を使うことはいいこと。児童生徒が分かってる言葉で話しかけてあげるのも重要。児童生徒の母語を使わないようにするとかえって不安が増します。この選択肢は間違い。

選択肢4

 文化や規範を押し付けるのは好ましくありませんし、日本語を使うように指導することは逆に不安を感じさせてしまいます。この選択肢は間違い。

 したがって答えは1です。

問4 喪失されやすい順序

 母語(第一言語)を失うことを言語喪失 (Language attrition)と言います。
 この研究に関する参考文献を見つけられずにいるので根拠は示せません。後回しさせてください。

 答えは4で、語彙、文法、音声の順だそうです。

問5 母語保持

選択肢1

 イマージョン教育の目的は最終的に二言語を使用できるようになることを目的とします。母語を保持することを目的としていません。

選択肢2

 取り出し授業はクラスの教科学習に追いつけない日本語学習者の児童生徒に対して、在籍学級以外の教室で個別に行う授業のことです。取り出し授業は言語能力を育てることが目的であって、母語を保持させるために行うんじゃないです。

選択肢3

 正しいです。若ければ若いほど言語は習得しやすくなりますが、それを使う環境にいないと喪失しやすい。

選択肢4

 読み書きのほうが保持が難しいです。

 答えは3です。

 




コメント

コメント一覧 (5件)

  • 問4は、いつだったかは覚えていませんが、似たような問題が過去にも主題されたように記憶しています。 私は、あまり迷うことなく4を選びました。

    問5は、私は間違えましたが正答が3であるということで、以下のように理解をしました。

    1 そもそもイマージョン教育は、母語を保持する為のものではない
      → 私は1を選んでしまいました。 イマージョン教育は、母語を保持することも目的の一つだとは思いますが —-。
    2 取り出し授業は、日本語教育が目的でありこの選択肢は明らかに誤り
    4 話せても読み書きができない、というのが一般的と思われます。

    上記から消去法的に3となりますが、年少者の方が学校教育や現地に馴染みやすい、という印象は確かにあります。 但し、その傾向が調査に基づいたものか否かは知見がありません。 検定によくありがちな、正答もあいまいだけれども他が明らかに誤り、ということなのでしょうか。

  • >明田高之さん
    ご協力ありがとうございました。
    問5の選択肢4に「話せても読み書きができない」という解説を使わせていただきます!
    これからもよろしくお願いします。

  • 問5ですが、「母語を保持するためには[…]母語話者しかいない環境に学習者を置く教育法であるサブマージョン教育のほうが良いのでは」とありますが、学習者の視点からすれば、「母語話者しかいない環境」とは「目標言語話者しかいない環境」に置かれるわけで、サブマージョン教育でも母語は保持できず、失うことになりませんか。すなわち、イマージョンもサブマージョンもこの設問とはそもそも関係がないのではないでしょうか。ご教示ください。

  • 大変参考にさせていただいています。ありがとうございます

    問4について

    1習得順 2使用頻度順 に逆行して喪失していくという仮説があるようです
    生まれて発音を覚えて、文法を身に着け、語彙を増やしていくと考えると
    理解できる内容です。

    https://encyclopedia.pub/entry/37367
    1. Reverse order: last learned, first forgotten
    2. Inverse relation: better learned, better retained.
    3. Critical period: at or around age 9
    4. Affect: motivation and attitude.

    • >匿名さん
      コメントありがとうございました!
      いただいた参考文献を解説のほうに載せることにいたしました。

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