平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題11解説

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平成24年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅰ 問題11解説

問1 協調の原理

 グライス(1998: 37)は「会話の中で発言するときには、それがどの段階で行われるものであるかを踏まえ、また自分の携わっている言葉のやりとりにおいて受け入れられている目的あるいは方向性を踏まえた上で、当を得た発言を行うようにすべき」という会話を行う上の一般原理を協調の原理(Cooperative Principle)と呼んでいます。問題文に出てきている「自分の話すことが、会話のその時点での目的にかなったものであるようにせよ」という部分が内容的に上述した内容と合致します。たぶん日本語への翻訳の過程で生まれた表現のバリエーションだと思われます。

 答えは3です。

 《参考文献》
 P.グライス(著)・清塚邦彦(訳)(1998)『論理と会話』31-59頁.勁草書房

問2 公理

 マリは字義的には映画を見にいくかどうか問うていますが、ミナは見に行くかどうかを答えることはなく、レポートの締め切りが近づいていることを述べました。見に行くかどうかという問いに答えていないので関連性の公理を逆用し、会話の推意を生み出していると考えられます。この場合の会話の推意は「レポートを処理したい(=映画に行けない)」です。

 答えは3です。

問3 誘いへの返答に見られる特徴

 この問題は優先応答と非優先応答にかかわります。「はい」などの優先応答は会話においてすぐ、また回りくどくなく直接的に発話される傾向がありますが、「いいえ」などの非優先応答は遅れて、また回りくどく間接的に発話される傾向があります。例えば「映画に行こう」に対する優先応答は「いいよ!」と簡潔に応答しますが、非優先応答の場合は「明日はちょっと用事があって、ごめん行けない」などと複雑に応答します。

選択肢1

 「一緒に行かない?」に受諾するなら「いいよ」って簡潔に言うことが多いです。「うーん… いいよ」みたいに言いよどみが入るケースは比較的少ないので、この選択は適当。

選択肢2

 「一緒に行かない?」に受諾するときは、まず「いいよ」と返答することが多いです。「今日バイトないし、暇だし、いいよ」みたいな前置きを入れるケースは少ないです。前置きが多くなるのは断るときです。「ちょっとバイトあって、いけない。ごめんね」みたいに。この選択肢は適当。

選択肢3

 その通りです。「ちょっとバイトあって、いけない。ごめんね」みたいに理由を入れるのが断る非優先応答の特徴。

選択肢4

 断るときは理由などを述べるために長い表現になりやすいです。この選択肢は不適当。

 答えは4です。

問4 関係なことも実は関係ある

 問2でも触れましたが、「映画、見に行かない?」に対してミナは「明日レポートの締め切りだから」というのは関連性の公理に反しています。関連性の公理は「(会話では)関連性のあることを言うべきだ」もしくは「関連性のないことは言うべきではない」というルールのことで、選択肢2の内容と合致します。

 1 量の公理の内容
 2 関連性の公理の内容
 3 質の公理の内容
 4 様態の公理の内容

 答えは2です。

問5 含意

 協調の原理では、会話の公理を破ると “conversational implicature” が現れると考えます。この語は様々な本でいろんな日本語に翻訳されています。私は「会話の推意」という言い方をよく用いるのですが、書籍によっては「会話的推意」「会話の含み」「会話の含意」などと呼ばれています。単に「含意」や「含み」ということもあります。なので  エ  に入るのに最も適当なのは「含意」です。

 ここをもう少し詳しく掘り下げると…
 マリは「映画、見に行かない?」と聞きましたが、ミナは関連性の公理に反して「レポートの締め切りだから」と言います。関連性の公理に反したので何らかの含意が現れます。それは「レポートに集中したい」という含意です。マリは関連しないことをミナに言われましたが、最終的にはミナの含意を読み取るので、会話としては不自然にはならないわけです。

 よって答えは1です。

問6 公理

 「どちらまで?」という発話は、具体的には「どこに行くか」と聞いています。しかし「ちょっとそこまで」という答えはどこに行くかという問いに具体的に答えていません。これは相手が必要としている分の情報を与えていないので量の公理に反しているようにも見えますし、あいまいなことを言っているので様態の公理に反しているようにも見えます。

 公式の答えは4ですが、同時に選択肢2も答えになり得ると思います。




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