6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

プロトタイプとは?

プロトタイプ(prototype)

 夏の風物詩と言えば「花火」、海外旅行の行き先と言えば「ハワイ」、山と言えば「富士山」というように、カテゴリーの中にはそのカテゴリーを代表するようなメンバー(member:成員)があり、それをプロトタイプ(prototype)と言います。プロトタイプは一つとは限りません。夏の風物詩として「花火」の他に「海」も「夏祭り」もあるでしょうし、海外旅行の行き先で「バリ島」を挙げる人もいるかもしれません。プロトタイプは個人によって異なります。また、あるカテゴリーのプロトタイプは必ずその下層のカテゴリーの成員から選ばれます。どのようなカテゴリーであってもプロトタイプは存在します。

 プロトタイプはそのカテゴリーを代表する好例として高い典型性(らしさ)を持っていますが、カテゴリーの中には典型性が低くプロトタイプとはかけ離れた周辺メンバー(peripheral member)も含まれます。上表は私が思う「夏の風物詩」のカテゴリーです。カテゴリーはプロトタイプを中心として、周辺メンバーへと同心円状に広がる放射状の構造をしていると考えられています。外側のメンバーほど典型性が低くなり、「~と言えば?」の問いかけの答えになりにくいです。

 カテゴリーのメンバー間に典型性で差があるとはいっても、メンバーは何らかの部分的に共通した特徴を有しており、その特徴をもってしてお互いに結びつき一つのカテゴリーを形成しています。例えば、ニワトリやダチョウは飛ばないにも関わらず「鳥」カテゴリーに属します。典型的な鳥は飛ぶものと認識されているので、飛ばない属性を持つメンバーは放射状構造の周辺に位置することになります。しかしながら、周辺メンバーである「ニワトリ」も「ダチョウ」もプロトタイプの「すずめ」や「カラス」と同じくくちばしがあり、羽があり、卵を産み… と部分的な共通属性を有しています。このような状況を家族的類似(family resemblance)と言います。

参考文献

 大堀壽夫(2002)『認知言語学』29-72頁.東京大学出版会
 児玉一宏・谷口一美・深田智(2020)『はじめて学ぶ認知言語学:ことばの世界をイメージする14章』61-76頁.ミネルヴァ書房
 谷口一美(2006)『学びのエクササイズ 認知言語学』17-23頁.ひつじ書房
 籾山洋介(2010)『認知言語学入門』18-26頁.研究社
 吉村公宏(2004)『はじめての認知言語学』30-46頁.研究社




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