6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

文化変容とは?

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文化変容(acculturation)

 文化変容(acculturation)とは、「異なる文化を持つ人々が、継続的、直接的に接触した結果、一方あるいは双方の本来の文化の型に変化が起こること」(石井ら 1997:214)です。英語では “acculturation comprehends those phenomena which result when groups of individuals having different cultures come into continuous first-hand contact with subsequent changes in the original culture patterns of either or both groups.” (Berry 1997: 7) と定義されています。異文化受容と呼ばれることもあり、マクロレベルでは社会環境の変化を指し、ミクロレベルでは個人における異文化適応過程を指します。文化変容によって変化する文化とは、食べ物や服装などの比較的表面的な変化から、言語、宗教、価値観など根本的なものまで様々です。

 個人の長期的な文化変容を説明する古典的な枠組みとして、リスガード(S.Lysgaard 1955)が提唱したUカーブ仮説、ガラホーンら(Gullahorn & Gullahorn 1963)が提唱したWカーブ仮説がよく知られています。また、ベリー(Berry 1997: 10)は文化変容に対する個人のストラテジーを「統合(integration)」「同化(assimilation)」「分離(separation/segregation)」「周辺化(marginalization)」の4つに類型化しています。

文化変容ストラテジー(Acculturation strategies)

 Berry(1997)は文化変容に対する個人のストラテジーとして、文化変容ストラテジー(Acculturation strategies)を提唱しています。

 全ての多文化社会において、異なる文化を持つ人々は文化的に支配する側と支配される側に分けられ、どちらの側においてもどのように文化変容するかという問題に対処しなければいけません。ここでいう問題とは、①自分の文化的アイデンティティをどれだけ維持するか、②異文化の人々とどれだけ関係を持つかという問題です。この2つの問題への対処として Yes(はい) と No(いいえ) の2つの極性で応答するとすれば、これらの問題に対するストラテジーは以下の4つの枠組みに分けられます。これらのストラテジーはそれぞれ名前が付けられています。

 自分の文化的アイデンティティを維持する一方、異文化との相互作用を求めることに興味がある場合は「統合(integration)」です。「統合」は自文化を自文化も保ちながら異文化も取り入れようとし、自分の中で両文化を共存させるストラテジーであり、この状態が続くと両文化が融合し、両文化を超越した新しい文化を作り出したり、それまでにない価値観を生み出すことができます。

 自分の文化的アイデンティティを維持したくなく、異文化との相互作用を求めることに興味がある場合は「同化(assimilation)」です。「同化」は自文化から距離を取りつつ滞在先の文化の一員となろうとするストラテジーで、一般に自分や自文化を卑下し、異文化を全て良いものと感じ積極的に関わろうとします。

 自分の文化的アイデンティティを維持し、異文化との相互作用を避けることを求める場合、「分離/離脱(separation/segregation)」です。「分離/離脱」は相手文化を受け付けず、自文化の価値観や習慣を優先して生活するストラテジーであり、異文化に同調することを頑なに拒む自文化中心主義的な態度です。自文化の尊厳を守り、異文化が自分にもたらす影響を否定的に捉えます。一般に、異文化下でも自文化の食事をとり、自文化の服装をまとい、必要最低限の場面以外は母語のみを話し、自国から来た人たちだけと交際します。

 自分の文化の維持も異文化との相互作用も求めない場合、「周辺化/境界化(marginalization)」です。差別あるいは強制的に同化を迫られた場合の結果としてこのストラテジーをとることが多く、行き場を失い、支えるものがないので、あらゆる方面からの敵意や疎外感、不安感を感じ、どうしたらよいか分からなくなっています。

 これら4つのストラテジーのうち、最も成功するのは「統合(integration)」で、最も成功しないのは「周辺化(marginalization)」です。「同化(assimilation)」と「分離(separation/segregation)」はその中間に位置します。

参考文献

 Berry, J. W.(1997) “Immigration, Acculturation, and Adaptation.” Applied Psychology, 46(1),5-34.
 石井敏・久米昭元・遠山淳・平井一弘・松本茂・御堂岡潔(1997)『異文化コミュニケーション・ハンドブック』214頁.有斐閣
 異文化間教育学会(2022)『異文化間教育事典』187-188頁.明石書店
 原沢伊都夫(2013)『異文化理解入門』144-152頁.研究社




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