形式名詞(formal noun)
形式名詞(formal noun)とは、それ単独で主語、目的語、述語になれず、修飾部が前接して名詞句化された節を作る名詞のことです。典型的な名詞はその音形(signifiant)と意味内容(signifié)が結びついていることによって実質的な意味を持ち、それ単独で主語、目的語、述語になることができます。しかし形式名詞はその一対一の結びつきが緩い、もしくは全くなく実質的な意味を持ちません。そのため、実質的な意味を持つ修飾部を伴うことでしか現れることができません。また、形式名詞はその修飾部を名詞句化する働きがあります。
(1)a 踊ることは私の生きがいです。
b * ことは私の生きがいです。 (それだけで主語になれない)
(2)a 洗濯するので精一杯だ。
b * ので精一杯だ。 (それだけで目的語になれない)
(3)a 今、食べているところです。
b *今、 ところです。 (それだけで述語になれない)
例文(1)のように名詞句化された節を作る際に現れる補足節の形式「こと」「の」「ところ」などは意味はなく、ただ節を名詞化するだけの働きを持っています。具体的な意味を持たなくとも、(4)~(8)のように動きの局面(アスペクト)や話し手の評価(モダリティ)などの抽象的な意味を表すことができます。
(4) 今、食べているところです。 (進行中)
(5) そんなはずがない。 (主観的な意見)
(6) どうりで暑いわけだ。 (納得)
(7) ここでよく泳いだものだ。 (感慨深い気持ち)
(8) ここでは静かにすることだ。 (忠告)
形式名詞には「もの」「こと」「わけ」「ところ」「とき」「ため」「よう」「つもり」「はず」「うち」「の」などがあります。
(9) 卒業式のときに告白した。 (時間)
(10) 雨が降っているため、延期します。 (原因・理由)
(11) 今年は去年より暖かいように感じる。 (引用)
(12) 映画を見に行くつもりだ。 (意志)
(13) 若いうちに挑戦しよう。 (時間)
(14) 掃除をするのが好きです。 (節の名詞化) ※準体助詞とも
参考文献
森山卓郎・渋谷勝己(2020)『明解日本語学辞典』50頁.三省堂
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