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カルチャー・ショックとは?

カルチャー・ショック(culture shock)

 カルチャー・ショック(culture shock)とは、自分にとって馴染みのない文化圏に生活を移す際に、それまでの衣食住、言語、非言語行動、価値基準、思考、習慣、教養、宗教などが異なることに起因して生じる心理的・身体的ストレス反応のことです。一般にカルチャー・ショックが語られるときは自国を離れて外国で生活をする場合が話題になりますが、自国内で故郷を離れて一人暮らししたり、転勤したり、パートナーの家族と生活するなどでも起こり得ます。国内でも国外でも、それまで慣れ親しんだ行動や価値観が通用しないような場面であればカルチャー・ショックは生じますが、文化差が比較的大きい外国へ行った場合のほうがより起こりやすく、症状もひどいことが多いです。

 Uカーブ仮説においては、底へ向かう過程でカルチャー・ショックが起きるとされています。旅行者においても起こり得ますが、長期的な滞在者とは異なります。旅行者のようにすぐ自国へ帰ることが分かっている状況ではある程度の不適応も受け流すことができたり、適応せずともまもなく帰国する状況では楽観的にいられるかもしれません。しかし長期滞在者は滞在先での適応が避けられないことがあり、すぐに帰国できない状況がショックの程度を高めたりします。

 池田ら(2000: 150)は、カルチャー・ショックの症状として次のものを挙げています。

 ①衛生面や健康面を過度に気にかける。
 ②無力である、見捨てられたと感じる。
 ③いらいらする。
 ④騙されているのではないか、略奪されるのではないか、傷つけられるのではないかとおびえる。
 ⑤ぼんやりと遠くを眺めるような目つきをする。
 ⑥常にそして強く自国および旧友を懐かしがる
 ⑦頭痛や胃の痛み、吐き気といったストレスによる生理的諸症状が頻繁に起こる。
 ⑧憂鬱、離人感、不眠に悩まされる。
 ⑨慢性的不安、欲求不満、パラノイア状態になる。
 ⑩どうしたらいいのか方向性を失う。
 ⑩過度に自己防衛的な態度を取る。

 カルチャー・ショックの程度は人により、一過性の場合もあるし、持続する場合もあります。また、人によっては苦痛を感じないかもしれません。さらに、カルチャー・ショックはUカーブ仮説におけるカルチャー・ショック期にのみ起こるわけでもありません。例えば奴隷などで強制的に連れて来られた人などは帰国した今でも拭い切れない違和感を未だに抱いていることもあり、カルチャー・ショックは乗り越えられるとは限りません。しかしながらカルチャー・ショックは異文化理解や異文化学習の観点から見れば肯定的に捉えられます。なぜならこの経験を通すことなく滞在先の文化に適応するのは難しいからです。

 異文化に対する理解を高め、カルチャー・ショックを予防したり対処したりするものとして異文化トレーニングがあります。

参考文献

 石井敏・久米昭元・遠山淳・平井一弘・松本茂・御堂岡潔(1997)『異文化コミュニケーション・ハンドブック』226頁.有斐閣
 池田理知子・エリック・M.クレーマー(2000)『異文化コミュニケーション・入門』141-160頁.有斐閣
 異文化間教育学会(2022)『異文化間教育事典』189頁.明石書店




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