先行シラバスと後行シラバスについて
シラバスはシラバスデザインをいつ行うか、すなわちその完成時期によって先行シラバス、後行シラバスに分けられます。
先行シラバス(a-priori syllabus)
教育実施がなされる前にシラバスデザインが行われ、完成しているシラバスを先行シラバス(a-priori syllabus)と言います。コースデザインの基本的な流れに基づけばシラバスが完成してから教育が実施されるのが普通で、大規模な教育機関ほどこのやり方をとることが多いです。
ただし、デメリットがあります。
先行シラバスでは教育実施段階においてその内容が変更されることはありません。既に決まっている学習項目を順番に扱っていくだけなので、悪い言い方をすれば教師側から学習項目を一方的に押し付ける形になることがあります。個人レッスンなどのように学習者のニーズを十分に反映したシラバスデザインが行われていればその限りではありませんが、大規模な教育機関は学習者のニーズをほぼ無視して教育が実施されているので学習項目の押し付け感は強まります。その結果、学習者の動機づけが低くなるかもしれません。
これは学習者側のデメリットではありますが、教師側にはメリットです。
先行シラバスは授業前に学習項目が決まっているため、教師は授業の前に必要な準備を余裕をもって行えます。
後行シラバス(a-posteriori syllabus)
先行シラバスのデメリットを補うものとして後行シラバス(a-posteriori syllabus)があります。これは教育実施前にシラバスデザインはせず、教育実施中に吸い上げた学習者の要求に基づいてシラバスを作りながら教育を行うものです。シラバスは教育実施後に結果として完成します。後行シラバスの考え方をとる教授法にCLL(community language learning)ががあります。
先行シラバスは教師側が決めた学習項目を学習者側に押し付けることが問題点でした。しかし後行シラバスでは、教師は随時学習者のニーズを吸い上げ、それをその後の授業に反映させる形をとります。学習者のニーズを最優先することは学習者の動機づけを高め、学習者にとっては大きなメリットです。
しかし後行シラバスにもデメリットがあります。それは教師の負担があまりに大きくなること。吸い上げた学習者のニーズはただちに授業に反映させる必要があるので、教師は急いで授業の準備をしなければいけなくなります。そのニーズは授業の直前まで把握できない場合もあり、そうすると授業準備にかける教師の負担は計り知れません。シラバスデザインが先に行われなければ教えるべき学習項目は目に見える形で存在しません。これは後行シラバスのデメリットです。
プロセスシラバス(process syllabus)
先行シラバスも後行シラバスもメリット、デメリットがありました。基本的に先行シラバスの形をとる場合であっても後行シラバスのメリットを取り入れられるよう、逆に基本的に後行シラバスの形をとる場合であっても先行シラバスのメリットを取り入れられるように、教育実施前にある程度のシラバスデザインは行うけれども、教育実施中にある程度学習者のニーズを吸い上げつつ、すでに作成したシラバスに反映させるようなやり方をすることがあります。これは先行シラバスと後行シラバスを折衷した形としてプロセスシラバス(process syllabus)と呼ばれています。
参考文献
小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法』38-39頁.アルク
田中望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際』84-86頁.大修館書店
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