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ニーズ調査・分析とは?

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ニーズ調査・分析

 ニーズ調査とは、コースデザインで行われる調査・分析の一つで、学習者がどのような目的を持って学習しているか、実際にどのような日本語を学びたいのか、学習の到達目標などを把握するために行われる調査のことです。ニーズ調査とその分析はコースデザイン全体において最も重要な情報を得ることに繋がります。学習者のニーズを知らなければ学習者に教えるべきものを明確にはなりません。この調査・分析から得られた結果は、次に行う目標言語調査の結果と合わせてシラバスデザインを行う際の重要な情報になります。

 例えば、学習の目的が日本に数週間旅行に行くためだったとします。この場合、ツアーを利用していく場合と個人で計画していく場合とでも必要になる日本語は全く違ってきます。前者はガイドさんがいるのでそれほど日本語を使わなくてもよく、最低限買い物などに対応できるようにさえなればいいかもしれません。しかし後者は日本でのあらゆることに自分自身で対応しなければいけないので、必要となる日本語の領域は広くなります。
 場合によっては学習者のニーズ以外にも、学習者をとりまく人物が学習者に対して求めているものも重要な情報になります。学習者が年少者であればその家族が求めているもの、学習者がどこかの会社で働いていれば会社が求めているものも貴重な情報です。

 ニーズ調査はアンケートの形で行われるのが一般的で、学習者のレベルにもよりますがインタビュー形式をとることもあります。

ニーズ調査の理想と現実

 日本語学校では一度にたくさんの生徒が来るので、彼らのニーズを一人ひとり聞いてそれを授業に反映するのは困難。ある生徒のニーズを満たそうとすれば別の生徒のニーズを満たせなくなったりしてしまうからです。よって実際のところは、多くの日本語学校では生徒の詳細なニーズは無視して日本語能力試験(JLPT)の合格を目指すような形で一般的な日本語を教えています。これは生徒がその後日本の大学に進学するなどしても大学の講義が聞き取れなかったりするような弊害を生み出しています。

 生徒のニーズを聞き出そうとしても生徒自身が将来何をしたいのか明確でない場合もあり、うまくニーズが把握できないこともあります。とはいえ教師はコースデザインしなければいけないので得られたわずかな情報からなんとかしようとしますが、その過程で教師がそれまでの経験などからニーズを推測することになり、コース全体がうまくまとまらなくなるかも。学習者のニーズは学習者によって異なるので教師の勝手な推測は避けるべきとはいっても、学習者自身に明確な到達目標がなければ何ともしょうがないです。

 また、学習者のニーズは時間の経過に伴ってその形を変えます。現地で経験したことが学習目標を大きく変えるかもしれません。それは教育実施段階でも起き得ます。学習者のニーズを最優先するにはコース途中でもニーズ調査を繰り返し行われることが望ましいですが、これは現実的に難しいです。小規模な個人レッスンならまだしも、大規模な教育機関ほど一度決めたコース内容を変更することは容易ではありません。

参考文献

 佐々木泰子(2007)『ベーシック日本語教育』117-119頁.ひつじ書房
 日本語教育学会(1991)『日本語教育機関におけるコース・デザイン』5-8,21-61頁.凡人社
 田中望(1988)『日本語教育の方法―コース・デザインの実際』10-11,19-49頁.大修館書店




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