6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

Wカーブ仮説とは?

Wカーブ仮説

 Wカーブ仮説(W-Curve Hypothesis)とは、異文化適応過程のモデルの一つで、異文化への適応・不適応と、異文化滞在を終えて自文化に帰り自文化に対する適応・不適応の程度が時間経過に伴ってW字型に変化することを示すモデルです。W型曲線仮説、W型曲線モデルなどとも呼ばれます。ガラホーンら(Gullahorn & Gullahorn 1963)が、リスガード(S.Lysgaard 1955)が提唱したUカーブ仮説(U-Curve Hypothesis)に自文化への再適応過程を加える形で提唱しました。

 Uカーブ仮説によると、異文化へ移動した後は見るものすべてが新鮮に感じられるハネムーン期を経て、滞在先の環境に対する不満や孤独感が生じるカルチャー・ショック期が訪れます。その後、時間の経過に伴って異文化への適応がなされていくことで適応曲線は上向き、Uカーブが完成します。ガラホーンら(Gullahorn & Gullahorn 1963)が提唱したWカーブ仮説は、このUカーブに異文化への適応が終わり、自文化へ帰った後の自文化に対する再適応(re-entry)過程を加えたものです。滞在期間が終わりに近づくと、異文化での困難を乗り越えたことが自信となったり、まもなく自文化へ帰れるという期待から再び陶酔状態になります。自文化に帰ってきたばかりの頃は陶酔状態ですが、しばらくすると再び異文化に適応する場面で生じたカルチャー・ショックと同じような経験をすることがあります。それをリエントリー・ショック(reentry shock)、もしくは逆カルチャー・ショックリバース・カルチャー・ショックと言います。自分自身が異文化で得たもの、得た経験などに誰も興味を示さなかったり、自文化での時事に疎くなっていたり、異文化に触れる前までは常識と信じて疑ってもみなかったことに疑問を抱くなどして落ち込みます。その後は再び自文化への適応がなされて適応曲線が上向き、全体としてW型の曲線を描きます。

 Wカーブ仮説もUカーブ仮説と同様に、どんな人にでも当てはまる異文化適応過程を示しているとは限らないということに注意しなければいけません。予測される段階が人によって現れなかったり、各段階が長く続くときもあれば短くなるときもあります。また、傾向として異文化に慣れ親しんだ人ほどリエントリー・ショックのショックの度合いが強くなるようです。

参考文献

 Gullahorn, J.T., & Gullahorn, J. E.(1963) “An Extension of the U-curve Hypothesis.” Journal of Social Issues,19(3),33-47.
 石井敏・久米昭元・遠山淳・平井一弘・松本茂・御堂岡潔(1997)『異文化コミュニケーション・ハンドブック』36-38頁.有斐閣
 池田理知子・エリック・M.クレーマー(2000)『異文化コミュニケーション・入門』147-160頁.有斐閣
 異文化間教育学会(2022)『異文化間教育事典』189頁.明石書店
 原沢伊都夫(2013)『異文化理解入門』63-64頁.研究社




コメント

コメントする