令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

目次

令和7年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題2解説

問1 指示詞という不安定な品詞

 問題文には「指示語は品詞をまたがる」と書かれています。そうなんです! 代名詞のうち、指示代名詞(指示詞)と呼ばれている「これ」「それ」などは、その語形によっていろんな品詞に変化してしまいます。次の例を見てください。

 (1) これがリンゴです。     <名詞
 (2) こうすると良いですよ。   <副詞
 (3) この話は秘密です。     <連体詞
 (4) こんなところにいたんですか。<連体詞

 「これ」「こう」「この」「こんな」は一応代名詞のうち指示代名詞と呼ばれるものなんですが、統語的特徴を見てみましょう。
 例えば(1)の「これ」は後ろに格助詞「が」が付いているので、<名詞>として機能しています。「これの+名詞」みたいに「の」をつけて名詞を修飾できることから見ても、「これ」は名詞ですね。ほかの名詞と同じものを指すから代名詞というんですけど。
 (2)の「こう」は必ず後ろに「する」などの動詞が来ます。動詞を修飾するというのは<副詞>、特に様態副詞の特徴です。
 (3)と(4)の「この」「こんな」は必ず後ろに名詞が来ます。必ず名詞を修飾する語は<連体詞>の特徴なんです。

 というように、果たしてこれらを全て指示詞と呼んでいいものかという議論はずっとあります。なんせ指示詞の中には代名詞も副詞も連体詞もあるわけですから。

 1 「あちら」は代名詞
   「そんな」は必ず後ろに名詞が来るので連体詞

 2 「あんな」は必ず後ろに名詞が来るので連体詞
   「こう」は後ろに動詞が来るから副詞

 3 「その」は必ず後ろに名詞が来るので連体詞
   「こんな」は必ず後ろに名詞が来るので連体詞

 4 「こちら」は代名詞
   「そう」は後ろに動詞が来るから副詞

 答えは4です。

問2 融合型

 指示詞「こ」「そ」「あ」が現場にある事物(もの、場所、方向、時間など)を指すとき、その使い方は話し手と聞き手の位置関係によって2つに分けられます。

 一つは、話し手と聞き手が同じ場所にいる場合。このとき、話し手と聞き手の近くには「こ」を使い、ちょっと遠いところは「そ」を使い、思いっきり遠いところは「あ」を使います。話し手と聞き手が同じところにいるこのケースは融合型と呼びます。

 もう一つは、話し手と聞き手が別の場所にいる場合。このとき、話し手の近くには「こ」を使い、聞き手の近くには「そ」を使い、話し手でも聞き手でもない領域には「あ」を使います。話し手と聞き手の位置が対立しているので、このケースを対立型と呼びます。

 この知識があれば問題を解けます。

選択肢1

 話し手は医者が触った部分に対して「そこ」を用いています。話し手自身の体なのに「そ」を用いているのは、触診の場面において、医者が触っている部分は自分の領域ではなく、医者の領域であると扱っているからです。つまり話し手と聞き手は違う場所にいるという空間認識。これは対立型のコソアの使い分けです。この選択肢は間違い。

選択肢2

 客と運転手は同じ車内にいます。「その」で車外のある地点を指しました。対立型における「そ」は聞き手の位置を指し、融合型における「そ」は話し手と聞き手がいる場所ではないちょっと遠いところを指します。この「その角」には聞き手である運転手はいませんから、融合型のコソアの使い分けがなされています。この選択肢が答え。

選択肢3

 聞き手である先輩の様態に「そ」を用いています。「そ」を用いて聞き手を指す場合は対立型です。この選択肢は間違い。

選択肢4

 「そっち」で聞き手である友人の領域を指しています。「そ」を用いて聞き手を指す場合は対立型です。この選択肢は間違い。

 答えは2です。

問3 コ・ソ・アの選択

 X:~らしいんですよ。
 Y:これはすごいですね。

 正しくは「それ」を使うべきです。なぜ「こ」ではなく「そ」を使わないといけないかというと… 相手の言ったことでよく知らない事柄を指すときは「そ」を使うという文法があるからです。詳しくは選択肢3の解説へ。

選択肢1

 X:えっと、あのときは確か…

 確かに話し手が記憶を思い出すときはア系を用いますが、問題のYさんの「これはすごいですね」を訂正する際にア系の知識は不要です。この選択肢は間違い。

選択肢2

 X:今度またあのお店行こうよ。
 Y:あのお店おいしいからね。

 話し手も聞き手も知っている記憶を指す場合には上記のようにア系を用いますが、問題のYさんの「これはすごいですね」を訂正する際にア系の知識は不要です。この選択肢は間違い。

選択肢3

 X:明日はハロウィンのイベントあるらしいよ。
 Y:なにそれ詳しく教えて。

 ↑の文では、YさんはXさんが言ったイベントのことについて知らないようです。このように相手の言ったよく知らない事柄はソ系を用いて指します。問題文のYさんの「これはすごいですね」が間違いな理由は、お店を開業することが知らないのなら「それ」と言うべきなのに、「これ」と言ってしまっているからです。選択肢3の内容の知識があれば、問題文の誤用は防げます。この選択肢が答え!

選択肢4

 X:そういえば、こんな話知ってる?

 話し手が新しい話題を出すときは↑のようにコ系を使います。しかし、問題のYさんの「これはすごいですね」を訂正する際にはこのコ系の知識は不要です。この選択肢は間違い。

 答えは3です。

問4 指示対象

選択肢1

 (1) [そのこと=ある事件]が私の人生を大きく変えました。

 「そのこと」は先行文脈の「ある事件」とそのままそっくり入れ換えて「ある事件が私の人生を~」ということができます。「その」が「ある事件」と交替できるわけではないので、下線部Dの内容に合致しません。この選択肢は間違い。

選択肢2

 (2) そして[その鍋=鍋]を火に掛けます。

 「その鍋」は先行文脈で現れた「鍋」を指しています。「その鍋」全体で「鍋」を指しているので、下線部Dの内容に合致しません。この選択肢は間違い。

選択肢3

 (3) [その男=一人の男性]こそがこの物語の主人公です。

 「その男」は先行文脈の「一人の男性」を指しています。「その男」全体で「一人の男性」を指しているので、下線部Dの内容に合致しません。この選択肢は間違い。

選択肢4

 (4) 今日は[その結果=アンケート結果]を報告します。

 これが答え。「その」自体が先行文脈の「アンケート」を指していますから、「その結果」は「アンケート結果」を指し、下線部Dが言うように「その」だけが特定の指示対象に対応しています。この選択肢が答え。

 答えは4です。

問5 真偽疑問文

 X: Zさんは明日学校に来ますか?
 Y:そうです

 Zさんが学校に来るかどうか、その真意は実のところZさんしか知らないことです。Zさんが来るかどうかをYさんが断言することは通常できません。ですからYさんは、「そうだと思います」「そうみたいです」とかで推測したり、「そうかもしれません」で可能性を表したり、「そうらしいです」で伝聞による情報であることを表したりしないといけません。

 この指摘は選択肢2の内容と同じ。
 三人称主語(Zさん)に関する疑問文に対して、Zさんではない人が「そうです」のように断定することはできないわけです。※ただし、絶対にできないわけではないです。例えばYさんとZさんが同居人であれば、YさんはZさんの事情について詳しく知ることができますから、そのような場合は確かな情報源を得ているということで「そうです」と言い切ってもよくなったりします。

 答えは2です。

 と思いましたが… コメント欄でのご指摘により選択肢3が答えの可能性も出てきました。
 「来ますか?」という動詞ル形の疑問文に対しては「来ます」や「来ません」と答えるのが規範ですが、ここではYさんが「そうです」と答えています。「そうです」と答えられるのは「学生ですか?」などのような名詞述語の疑問文です。ですので答えは3である可能性もあります。(2025/10/31)




コメント

コメント一覧 (2件)

  • 問5
    〉「真偽疑問文のうち、『はい、そうです。』……で答えることができるのは、……述語が『名詞+だ』
    〉の場合に限られます」(『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』p.281)

    のことを言っているのではないかと思いました。
    選択肢2は「三人称主語+名詞述語」の疑問文であれば「そうです」と答えられる(田中さんは大学生ですか。ーはい、そうです。)ので、選択肢3が正解なのではないかと思いましたがいかがでしょう?

    • >匿名さん
      これからご飯を食べますか?

      なるほど!
      つまり、ル形の疑問文「来ますか?」に対しては、「来ます」or「来ません」の答え方が規範的で、「そうです」「そうではないです」が言いにくいということなんですね。
      私は情報の出どころから論じてしまいましたが、単純に名詞述語文には「そうです」と答えられ、動詞述語文に対しては難しいということなのかもしれません。いったんご指摘いただいた意見をもとに、もう一つの解説を書こうと思います。ありがとうございます!

コメントする

目次