6月8日(土)から音声学の短期講座がはじまります。

令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題5解説

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令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験Ⅲ 問題5解説

問1 語彙の授業

選択肢1

 絵や写真も同時に見せたほうがより理解が進んだり、記憶に残りやすくなったりするからやったほうがいい。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 その通りです。
 例えば「笑う」は①嬉しくて顔の筋肉をゆるめる、②おかしくて顔の筋肉をゆるめる、③膝などがガクガクする、④人を嘲笑するなどなど思いついた限り全部あげましたがこんなにもたくさんの意味があります。原義から意味拡張した比喩なども含めるともっとたくさんあるはずです。これらを全部同時に教えることは避けた方がいいです。今回の授業で出てくる意味だけをとりあえず教えておきましょう。

選択肢3

 これは間違い。
 「まぶしい」の意味を推測させるために先生が強い光を受けて目を隠すような動作を見せるみたいなことです。この先生の演技は決して無駄じゃありません。別の言い方で説明したり媒介語を使ったりして明示的に教えるのも重要ですが、もしできるんだったら演じて推測させる形で教えてもいいです。

選択肢4

 語彙は語彙だけ教えても効率的に使えるようにはなりません。例えば「冷たい」を教えるときに「このジュースは冷たい」「このおにぎりは冷たい」「足が冷たい」などと色々例文を提示してあげることで、ああ「冷たい」は飲み物にも使えるんだ、食べ物にも使えるんだ、自分の体にも使えるんだみたいな情報を与えることもできます。実際の使い方を例文で教えることは良いこと。ジェスチャーも使えるなら使ってください。訳語は直接法じゃなかったら使ってください。この選択肢は「例文を提示することを避け」が間違い。

 よって答えは2です。

問2 語彙マップ

 語彙マップとは、あるテーマに関連する語彙を連想によって次々繋げていって作る地図のことです。次のようなものが語彙マップ。詳しくは「国際交流基金 – 日本語教育通信 授業のヒント「語彙マップ」を作ってみよう!」をご覧ください。

選択肢1

 語彙マップはある語彙から連想した語を次々枝のように書いていくのですが、連想できる語はすでに知っている概念に限られます。母語ですでに獲得している概念も連想される対象だからこの選択肢は不適当。これが答えです。

選択肢2

 その通り。特にいうことなし。

選択肢3

 語彙マップを前作業として行うと、ある語彙に関連する語彙を一度語彙マップにまとめているのでスキーマが活性化されている状態で本作業に当たれます。プライミング効果も期待できます。この選択肢は正しいです。

選択肢4

 語彙マップは学習者一人でもできますし、学習者がグループになって一緒に行うこともできます。他の人と一緒にやる場合は自分が知らない、あるいは連想できなかった概念に触れることができます。この選択肢は正しいです。

 答えは1です。

問3 多読


 多読について上記の本を参考にしてみました。
 22-26ページには”楽しく読み続けるため”の「多読三原則」と題して次の3つが挙げられています。

 第一原則 辞書は引かない
 第二原則 わからないところはとばす
 第三原則 つまらなければやめる

選択肢1

 知らない語が出てきても第一原則に照らして辞書は引きませんから、この選択肢は間違い
 なお、辞書を引かないとイライラするような場合だったら読み終わった後に引いてくださいとアドバイスが書いてあります。

選択肢2

 ”楽しく読み続ける”ことを重視していますので、いったん読み始めた本が楽しくない、つまらないようだったら第三原則に照らして別の本を読んだ方がいいです。すると他の本が必要になり、そういうときのために本がたくさんいいよねということから古川ら(2010: 31)には多読用図書の探し方の指南が書かれています。
 この選択肢が正しいです。

選択肢3

 読んでいる間に訳しもしないし、返り読みもしないし、分からないところは辞書引く代わりに読み飛ばすし、無理そうだったら次の本にいきます。目的は”楽しく読み続ける”ことだからテストをしたりしないです。この選択肢は間違い。

選択肢4

 古川ら(2010: 29)には「非常にやさしい絵本から始める」とあり、初級者の場合ははじめに文字ばかりのを読んでも苦労するから、絵本からはじめて文字だけに頼らず理解できるようなものから始めるのを進めています。ようするに学習者のレベルに合わせた本を選ぶのが大切と言ってます。また、第三原則に照らして、無理をして読み続けたりつまらなかったりする場合は別の本を読んだほうがいいとアドバイスがありますのでこの選択肢は間違いです。

 多読の問題は2年前の令和3年度 試験Ⅰ 問題4 問2にも1問出題されました。それ以前の試験は平成23年まで遡っても出題がありません。近年出題されるようになった用語です。

 答えは2です。

 参考文献:古川昭夫(著,監)・上田敦子(著)(2010)『英語多読入門 やさしい本からどんどん読もう!』コスモピア
 

問4 単語カード

 単語カードの表に「お金」、その裏に “money” とか書いておくことのメリットは何でしょう?

選択肢1

 単語カードは一人で使って一人で勉強するものだから、他者とは関係なし。
 この選択肢は間違い。

選択肢2

 単語カードはただ単語が書かれているだけなので、その単語がいったいどんな文脈で使うかは分かりません。文脈から切り離されていることは事実です。文脈と切り離すとかえって認知的な負担が大きくなり(分かりにくくなり)、記憶には残りにくいです。「お金」ってただ単に書くよりも「お金がたくさん欲しい」みたいに例文で書けば「お金」に関する文脈が提供できるので記憶には残りやすくなりますよね。もうこれ単語カードじゃないけど。あと、裏に対訳を書くことと関係ない。
 この選択肢は間違い。

選択肢3

 学習者がカードを見た時に翻訳がされているのが目に入ります。例えば「money」などの日常生活でよく使う語であれば覚える必要性が高いので、それを優先的に選んで学ぶことができます。もし対訳がなければこの情報は得られません。
 この選択肢は正しいです。

選択肢4

 裏には対訳しか書いてないから表面的な意味の理解にとどまります。この選択肢は間違い。

 答えは3です。

問5 小テスト

 「つるつる」に対して「すべる」を、「じろじろ」に対して「見る」を、「ずきずき」に対して「痛む」を選ばせるテストのようです。オノマトペがどのような現象を描写しているのかを理解していなければこの問題は解けません。「つるつる」は摩擦があまりなくて、滑らかで… みたいなイメージがないと「すべる」は選べないということです。そして、「つるつる」は多くの場合「すべる」と一緒に使われます。「じろじろ」はほぼ「見る」と一緒に使います。このように語と語を一緒に使うことを”共起する“といいます。この問題はオノマトペのイメージがあるかどうか、そしてそのイメージに基づいて正しい語の共起関係を選べるかの知識が必要です。

 このような内容は選択肢3に該当するので、答えは3です。




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